Unityが考える、PLATEAU活用における強みと課題、将来の姿
3D都市モデルPLATEAUの現在地〔ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン編〕
提供: ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン
国土交通省が推進する、3D都市モデルの整備/活用/オープンデータ化の取組み「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。昨年度に引き続き、今年度もPLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2023」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。
本特集ではPLATEAU AWARD 2023を協賛する4社に、現在のProject PLATEAUとの関わり、そして各社がPLATEAUの先にどんな未来を思い描いているのかをインタビューしていく。
今回は、PLATEAUの3D都市モデルを可視化し、操作するアプリケーションのプラットフォームとして広く使われているゲームエンジン「Unity」を開発するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの高橋忍氏と、国土交通省 総合政策局/都市局の内山裕弥氏に、PLATEAU活用の幅を広げるUnityの強み、現在取り組んでいるSDK/ツールキット開発の概要、今後への期待などを聞いた。聞き手を務めるのは、角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。
「見えないものの可視化」まで含め、多彩な表現ができるUnityの強み
――(アスキー遠藤)PLATEAUのユースケースを見ていると、Unityの技術が使われているものがかなり多い印象があります。僕なんかは「Unityがあってこそ、PLATEAUはここまで来た」くらいにも感じているのですが、実際どうなのでしょう。
国土交通省 内山氏:PLATEAUの利用技術としてはゲームエンジンやWebGISが多く、ゲームエンジンの中ではUnityがかなり多いのが現状ですね。
PLATEAUサイトのユースケース紹介ページで「Unity」タグをクリックすると一覧できますが、幅広いユースケースでUnityが利用されていることがわかります。今年度(2023年度)の採択事業でも、30件中6件でUnityの技術が使われています。
――PLATEAUの3D都市モデルにUnityの技術を掛け合わせてどんな使い方がなされているのか、代表的なユースケースを紹介してもらえますか?
内山氏:PLATEAU×Unityのユースケースは、大きく2つに分けられると思います。
ひとつは、PLATEAUのデータをUnityの中で可視化してシミュレーションに用いるという、比較的シンプルな使い方です。先ほどのユースケース一覧で言えば、たとえば「景観まちづくりDX」や「雪害対策支援ツール」といったものですね。「この場所に高いビルを建てたら景観がどう変化するのか」「大雪が降った場合、どこにどのくらいの積雪があるのか」といったことを、街の3Dモデルの中でシミュレーションたうえで可視化し、都市計画などに役立てられています。
これをさらに高度化して、Unityと親和性の高いXR技術(VRやAR)と組み合わせて、市民参加型のまちづくりに役立てているユースケースもあります。街の立体模型を全員がARで見ながらアイデアを出し合ったり、実際に街に出てバーチャルな建物を建ててみてイメージをふくらませたりと、ディスカッションのためのツールとして活用するものです。2次元の地図よりも3次元の立体として見たほうが、誰もが直感的に理解しやすいですから。
――まちづくりについて「3次元でコミュニケーション」して議論できるわけですね。
内山氏:もうひとつのユースケースのパターンは、人間が監視したり操作したりするインタフェースを、Unityを使って開発するというものです。VPS(車両の自己位置推定技術)を使ったモビリティ自律運航システム、つまり自動運転システムのユースケースでは、自動運転のバックエンドをROS(Robot Operating System)で構築しつつ、ROSと接続したUnityがその状況を可視化して、人間が監視できるようにしています。そうした活用方法も多いと思います。
――高橋さんから見て、なぜPLATEAUではUnityが多く使われているのだと思いますか。
ユニティ 高橋氏:やはりビジュアライズが得意であることが大きいと思います。Unityはゲームエンジンですから、非常に多彩な表現ができます。その表現力をうまく使ったユースケースが多いですね。
たとえば、渋谷駅周辺の「広告効果シミュレーションシステム」というユースケースがありますが、このシステムでは、本来はビルの陰にあって見えない広告も半透明で可視化されます。現実世界で見えるものに加えて「見えないもの」も可視化する。そうしたCGでしか表現できないものを、Unityを使えば簡単に表現できます。
ほかにも、たとえば自動航行ドローンの航行ルートを3D空間上に描くのも、本来は「見えないもの」を可視化しているわけです。加えて、そのルートを3D空間内のさまざまな角度から確認できるというのも、CGにしかできないことでしょう。
――現実には存在しないものをリアルに描く、というのはゲームエンジンの得意分野ですからね。
高橋氏:表現以外にもゲームエンジンの利点があります。たとえばゲームには「当たり判定」というものがありますが、これを人流シミュレーションに流用して、人と人がぶつからないように密集させるようなユースケースもあります。
またUnityは外部システムとの連携も得意です。先ほど内山さんが紹介されたユースケースでも、積雪シミュレーションはCFD(流体解析シミュレーション)システム、自動運転はROSとUnityを連携させています。
内山氏:PCだけでなく、スマートフォン、タブレット、VR/ARデバイスと、いろいろなデバイスで動くアプリを開発しやすい点もUnityの利点でしょう。たとえば地図上にコンテンツを配置し、それをARマーカーにひも付けて表示させるようなユースケースで、システムの基幹部分はWebGISで構築しつつ、AR部分はUnityで開発するといったものもよくあります。
――そもそもUnityのユーザーが多いこと、技術としてこなれていることもメリットでしょうか?
高橋氏:そうですね。ユーザーが多いことは「Unityの資産」だと考えています。これまでUnityを使ってゲームやソリューションを作ってきた皆さんが、たくさんのナレッジやノウハウをブログなどで公開されています。そうした情報があるので、エントリーユーザーの方でも「こういうのを作ってみよう」と思ったら、そうした情報を参照して短期間で直感的にアプリを開発できる。これもUnityの強みです。
内山氏:PLATEAUとの相性がいいのは、まさにそうした巨大な開発者コミュニティがあるところだと思います。「PLATEAUのことは知らないが、Unityにはとても詳しい」というエンジニアがたくさんいて、そうした方がPLATEAUを使ってみて、試行錯誤したナレッジを共有する。それを参考にほかの人もPLATEAUに触れ、全体の開発レベルが高まっていく――。そうした構造が出来つつあり、その動きをさらに促進するために、PLATEAUの側でもSDKの提供などを始めているわけです。
開発ハードルはなお課題、全国スケールのPLATEAUを生かす仕組みも必要
――それでは反対に、UnityでPLATEAUを扱ううえで課題に感じることはありますか。
高橋氏:徐々に簡単になってきてはいますが、アプリケーション開発の面ではまだまだ課題もあります。
一昨年までは、PLATEAUのデータをUnityに取り込むことすら一苦労でした。昨年度の採択事業としてシナスタジアさんが「PLATEAU SDK for Unity」を開発されたことで、その部分はとてもやさしくなりましたが、皆さんが本当にやりたいことは(データの取り込みではなく)“そこから先”なんですよね。
UnityにPLATEAUの3Dモデルを取り込んで、自分の街を可視化することができた。そこまではいいのですが、たとえば「ここにお店の情報を乗せて表示させたい」などと考えると、やはりある程度のスキルがある方でなければ簡単には開発できません。
もっといろんな人がPLATEAUを活用できるようにするには、さらに直感的に、簡単にアプリが開発できるようになる必要があると思います。レゴブロックじゃないですけど、部品を組み合わせて自分の考えているソリューションをアプリ化できるような、そんな世界の実現ををわれわれもお手伝いしていきたいと考えています。
――内山さんのほうはどんな課題があると考えられますか。
内山氏:技術的な課題で言うと、巨大なスケールを持つPLATEAUのデータをUnityでどう軽量に扱うか、という点でしょうか。
Unityのトラディショナルな使い方だと、どうしてもPLATEAUの一部分だけ、たとえば「渋谷だけ」のデータをあらかじめ取り込み、それを扱うアプリになります。しかし、本来のPLATEAUは都市全体、あるいは日本全国といったスケールを持つデータです。そのスケール感のままでいかにUnityで活用できるようにするのか、それは大きな課題ですね。
――せっかくアプリを開発しても、データが渋谷だけならば、渋谷から出たとたんに使えなくなってしまう……。PLATEAU全体のデータが使えたら、どこの都市に行っても同じアプリが使えると、そういうことですね。
内山氏:そうです。それを可能にする技術も少しずつ登場してきています。PLATEAUのデータをダイナミックに(動的に)、ストリーミングで取得して、ゲームエンジンの中で使うという技術ですね。これならばPLATEAUのスケール感をもってデータが扱えるので、PLATEAUを使う意味が一番発揮されると思います。こういう技術を使ったアプリが今後誕生すればいいなと思います。
Unityのアプリ開発を簡単にする4つのツールキットを開発中
――PLATEAUに関して、ユニティさんでは今年度どんな取り組みをされているのでしょうか。
高橋氏:先ほど申し上げた「もっとアプリを開発しやすくする」の実現に向けて、4つのツールキットを開発しています。
1つめの「レンダリングツールキット」は、街の雰囲気を簡単に表現できるようにするものです。LOD1/2の違いに合わせて建物のテクスチャを自動生成/高解像度化したり、昼や夜、雲、雨といった時間帯/天候の違いを自動的に表現したりしてくれます。
たとえば、夜に開催されるイベントの人流シミュレーションをしているのに、ビジュアルが昼間のままだと雰囲気が出ませんよね。Unityにこのツールキットを入れて、ポンポンと設定をするだけで、夜の空やビルの窓から漏れる光などが表現されます。もちろん自動生成なので正確なものではありませんが、簡単に雰囲気づくりができます。
――なるほど、その都市の夜景も簡単に作れるわけだ。面白いですね。
高橋氏:2つめの「サンドボックスツールキット」も、ビジュアル面での街の雰囲気づくりを補完するものです。
PLATEAUには建物や道路のデータが含まれますが、目的によってはもっと街らしい雰囲気がほしいこともあります。そこで人や車、ベンチや街路樹、電柱、信号機など、街の構成要素となるアセットをたくさん用意して、メニューからドラッグ&ドロップで配置できるようにしました。さらに、人や車はパスを指定して動かすこともできます。
実は、ビルや街なかに設置される製品を設計する企業では、こういうCGでのシミュレーションをよくやっているんです。そういうときにこのツールキットがあれば、街の雰囲気を作って、その中にCADデータからデザインを取り込んだ自社製品を置いてみて、どう見えるかを検討できる。デモムービーだって作れます。これが1行もコードを書かずにできるのがすごいですよね。
――世界を自由に作れる、ちょっと神様になったような気分です(笑)。実は以前から、PLATEAUのデータに樹木が含まれていない点は不満だったんです。たとえば並木道で有名な街ならば、このツールキットを使って誰かが“植樹”したデータを公開してくれると面白いかも。
高橋氏:そもそもゲームの世界でも樹木は必須なので、針葉樹から広葉樹までたくさん用意していますよ(笑)。
そして3つめが「ARツールキット」。ARアプリの開発にはやや特別なノウハウが必要ですが、それを簡単にします。たとえばVPSを組み込んで、街なかのこのビルにカメラを向けたらコンテンツが表示されるとか、バーチャルで大きなビルや怪獣を表示させるときに手前の建物と重なる部分は隠す(オクルージョン)とか、そうした典型的なARアプリの機能を簡単に使えるようにします。
そして最後が「マップツールキット」です。これはBIMやGISといったデータをUnity上で扱うためのアドオンですが、先ほど内山さんがおっしゃっていた、PLATEAUのデータをダイナミックに取り込む機能も含まれます。全国のどこの都市に行ってもその場所の3D都市モデルを取り込んで機能する、そんなアプリが開発できるようになります。
――わっ、それができたらめちゃくちゃ便利じゃないですか!
高橋氏:はい、ただいまUnity開発陣が全力で開発中です。現在はベータ版をGitHubで公開しており、今年度中には正式リリースされますので、乞うご期待ということで(笑)。
“PLATEAU活用への入り口”としてUnityを利用してほしい
――最後に、今後のPLATEAU×Unityへの期待についてお聞きしたいと思います。PLATEAUを活用するうえで、Unityをどんなふうに使ってほしいか、ですね。
高橋氏:現在はスマートフォンのアプリでも手軽に3Dスキャンができるようになっています。それを使って、皆さんの住んでいる街やリアルな世界をスキャンして、PLATEAUと組み合わせてアウトプットする。そんな使い方はどうでしょうか。
たとえば、PLATEAUは建物の外観を3Dモデル化していますが、「建物の中」のデータは持っていないので、そこは自分たちで3Dスキャンして補完する。外からは見えないけれどすごく紹介したいものがある、たとえばお店でも美術館でもいいのですが、そうしたものを組み合わせることでより良いソリューションができるのではないかと期待しています。
もうひとつ、自分の街の“最新の姿”を伝えることもできると思います。PLATEAUは静的なデータですが、たとえばそこにスマホアプリから「今日はこれだけ積雪している」といったデータをプラスして発信できれば、インバウンド観光客向けのサービスなどが展開できるかもしれません。
――なるほど、新しいデバイスや技術を使えば、ユーザーを巻き込んでもう一段進化した面白いことができそうだぞ、と。内山さんは何を期待しますか。
内山氏:さまざまなPLATEAUの利用技術の中でも、UnityはプラグインやSDK、そしてナレッジが豊富にそろっていて、誰でも開発に参加できる特徴があります。ノンエンジニアの自治体職員であっても、勉強すればけっこうなものが開発できるだけの環境が整っています。
もちろん、必ずしも自治体職員自身がアプリを作らなくてはならないわけではありませんが、3D都市モデルを使って何か地域課題を解決したいという思いを持っている自治体職員の方にとって、Unityはとても良い“PLATEAUへの入り口”になると思います。3Dやデジタルツインの入門としてUnityを触ってみる、そこでPLATEAUを使ったアプリケーションの作り方も学ぶ――。そういう形でPLATEAU活用のすそ野が広がり、地域課題の解決に結びつくといいですね。
――Unity上でPLATEAUをどんどん触っていくうちに、活用のアイデアも生まれそうですね。まずは触ってみてほしい、そのための入り口としてUnityを活用してほしいと。
高橋氏:最後にもうひとつだけ、PLATEAUの新しい活用アイデアを紹介させてください。これは弊社のデザインアドボケイトが講演で紹介したのですが、テクスチャ付きのLOD2データとUnityの高品質レンダリング技術を駆使することで、非常にフォトリアルな表現ができるというものです。
――おぉー、これはきれいですねぇ!
高橋氏:これ、PLATEAUのデータしか使っていないんですよ。そこに、先ほどのレンダリングツールキットで雲を足したり、フォグ(もや)やカメラレンズのぼけを加えたりすることで、本当に写真のようなビジュアルが再現できます。ムービーも撮れますよね。こうしたグラフィック素材としてもPLATEAUは活用できると思いますので、そういう方面からもぜひチャレンジしてほしいと思います。
(提供:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)