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3D都市モデルを「作る側」と「使う側」の対話から見える未来

3D都市モデルPLATEAUの現在地〔アジア航測編〕

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: アジア航測

 国土交通省が推進する、3D都市モデルの整備/活用/オープンデータ化の取組み「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。昨年度に引き続き、今年度もPLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2023」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。

「PLATEAU AWARD 2023」は現在応募を受け付けている(応募締切:2023年11月30日)

 本特集ではPLATEAU AWARD 2023を協賛企業のうち4社に、現在のProject PLATEAUとの関わり、そして各社がPLATEAUの先にどんな未来を思い描いているのかをインタビューしていく。

 今回は、PLATEAUの3D都市モデルを「作る側」からアジア航測の営業メンバー4名、「使う側」として昨年度の「PLATEAU AWARD 2022」でPLATEAU賞を受賞したPLATEAU Window'sチームの2名に集まってもらった。

 アジア航測側のメンバーは全員、全国各支社で地元自治体への提案営業活動を担当している。PLATEAUを作る側、使う側の双方はお互いに何を期待するのか、さらには地方自治体におけるPLATEAU活用にどんな課題があり、PLATEAU AWARDがどんな役割を果たすのか、クロストークの形で興味深い議論が展開された。聞き手は角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。

アジア航測側の出席メンバー。盛岡支店(岩手県盛岡市) 磯貝森生氏、大阪支店(大阪府大阪市) 木戸佑実氏、四国支店(香川県高松市) 中野修平氏、南九州支店(熊本県熊本市) 林達也氏

PLATEAU AWARD 2022でPLATEAU賞を受賞した、PLATEAU Window'sチームの2名。VR/ARエンジニアの鈴木裕之氏、映像演出系システムエンジニアの河野 円氏

仮想の窓から風景を眺める「PLATEAU Window」はどのようにして生まれたのか

――(アスキー遠藤)まずは、昨年度(2022年度)のPLATEAU AWARDでPLATEAU賞を受賞されたPLATEAU Windowについて。あらためてどんなものなのか、PLATEAU Window'sチームから簡単にご紹介いただけますか。

PLATEAU Window's 鈴木氏:PLATEAU Windowは「新居の窓の風景を見てみたいな」という思いから始まったプロジェクトです。入力された住所や建物名から建物の位置を特定し、PLATEAU(CityGMLデータ)にある建物とひも付けたうえで、その建物に「仮想的な窓」を設置します。日付や時刻、天候の設定に基づいて「その窓から見える景色」を再現して表示させるのがまず1つ。ほかにも周辺の公共施設や飲食店の情報、その付近で投稿されたツイート、その日の出来事(ニュース)なども表示可能で、“全部入りのビューワー”として楽しもうといったものです。

「窓からの風景」に加えて、付近の施設や店舗、その場所にまつわるツイートなども表示可能(PLATEAU AWARD 2022より

――たとえば、まだ完成していないマンションやビルの窓からの景色も、これならば見ることができてしまう。そう考えるとすごくニーズがありそうですよね。チーム結成のきっかけは?

鈴木氏:PLATEAUのハッカソン(PLATEAU Hack Challenge 2022)で出会いました。わたしの本業は産業系のVR/ARエンジニアなのですが、将来的にはやはり「デジタルツイン」が大きなテクノロジーの方向性だろうと感じていました。そこにデジタルツインの大規模な例として登場したのがPLATEAUで、「これはもっと詳しく知りたいな」と。そこでハッカソンに参加したのが、そもそものきっかけです。

PLATEAU Window's 河野氏:わたしはかつてカメラマンや映像演出の仕事をやっていまして、現在はクリエイティブ寄りのシステムエンジニア、具体的にはイベント会場などの映像演出のようなシステム開発を手がけています。もともと趣味で点群データの取得をやっていたのですが、あるプロモーションビデオのお仕事で、その素材として大規模な点群データをいただきまして。測量のプロが作る点群データの高精度さ、何百キロ離れた場所でも位置情報がずれないというダイナミックさ、そうしたものに衝撃を受けて、そこから都市のデータにはまっていった感じです。

PLATEAUはさまざまな立場の人がつながる「共通言語」になりうる

――アジア航測さんは昨年度もPLATEAU AWARDに協賛されていましたが、PLATEAUという3D都市モデルを「作る」立場ですよね。その立場から、PLATEAU Windowをどうご覧になりましたか。

アジア航測 中野氏:今日参加している4人は、盛岡、大阪、四国(高松)、南九州(熊本)の各支社で、その地域の自治体、市区町村をお客様として営業活動をしているメンバーです。アジア航測が提供するさまざまな地理情報系サービスの提案を行う、その中にPLATEAU活用の提案も含まれる、といったかたちです。

 PLATEAU Windowをはじめ、PLATEAU AWARDで発表されるさまざまなアイデアを拝見していると、われわれがふだん行政向けにやっていることとはまったくかけ離れたことが起きていて、非常に面白いです。日本では3D都市モデル活用の歴史がまだまだ浅く、PLATEAUで何ができるのかという答えが出尽くしていません。「着地点がない」からこそすごく面白い、と思っています。

アジア航測 林氏:自治体向けですと、ご提案できるユースケースがどうしても「街づくり」や「防災/減災」といった特定のものに偏りがちです。PLATEAU AWARDのような場で未知のアイデアを聞くことで、新たなユースケースの開発につながるのではないかと思っています。

――ではその逆に、PLATEAUを使ってアプリケーションを「作る」側から見た、PLATEAUの面白さはどこでしょうか。

河野氏:先ほども触れましたが、自分はもともとカメラマンで、プログラミングは2019年に始めたばかりです。それでもPLATEAUに触れ、学んで行く中で、PLATEAUを「共通言語」としてほかの業界の人ともコミュニケーションができるのではないか、と感じるようになりました。

 コロナ禍で話題になりましたが、台湾のデジタル大臣を務めるオードリー・タンさんが、1000人の市民と協力しながらマスクが買えるお店の検索アプリを3日間で作った。もしかしたらそんな感じで、クリエイターとしての自分も何か役に立てるのかもしれない。自分の場合はPLATEAUが舞台ですが、そんなふうに思ってちょっとわくわくしています。

――できることは人それぞれ違うけど、PLATEAUという「共通言語」、ひとつのプラットフォームを介することで、協力し合うことができると。なるほど。

林氏:PLATEAUは「共通言語」である、というのはいい表現ですね。3D都市モデルとして品質が標準化されている、建物に属性情報(セマンティックデータ)まで付与されている、そしてオープンデータとして誰でも使える――。そうした条件を満たしているからこそ、汎用性があり、活用方法も無限に考えられるわけです。

鈴木氏:PLATEAU Windowの開発を通じて、わたしは地図というデータが「自分ごとになる」ことを体感しました。

 これまで触れてきた2次元の地図って、結局は真上から見下ろした視点の「与えられたデータ」でしかなく、全然「自分ごと」には思えなかったんです。それが3D GISになると「主観という視点」が生まれる、ということに気づきました。

――ほうほう。それはどういう意味ですか。

鈴木氏:たとえば災害時の避難経路を伝えるのでも、2次元地図よりも3次元のVRやARで見せたほうが、ずっと具体的に伝わりますよね。これまでの地図を自分の目でとらえなおす、それがとても新しい体験であり、大事な部分になると考えています。

 ただし、この新しい視点はまだまだ発展途上のものであり、これからもさらに「発見」されていくはずです。3D GISの使い方を民主化していくためには、そうした新しい視点がどんどん発見されていく必要がありますし、PLATEAU Windowもそうした発見のひとつとして役立てば面白いですね。

――「3次元のデータだから」ではなくて「主観があるデータだから」こそ、新しいことができるはずだと。とても興味深い指摘だと思います。

PLATEAU Windowのデモ例。ユーザーが「窓をのぞき込む」アクションの工夫も(PLATEAU AWARD 2022より

3D都市モデルの整備と活用、地方自治体が抱える課題とは

――全国の自治体にPLATEAU活用を提案するアジア航測チームの皆さんにお聞きしたいのですが、課題に感じることはどこですか。先ほど林さんからは、自治体のユースケースは幅が狭いというお話もありましたが。

中野氏:やはり小さな市区町村にとっては、3D都市モデルの整備に大きなコストがかかる点が課題ですね。コストが原因でなかなか踏み切れないケースは多くあります。これは国でも把握されていて、アジア航測では国土交通省 都市局と一緒に、AIによる自動生成でモデル構築を支援するような技術検証に取り組んでいます。

2022年度には国交省Project PLATEAUの一環として、点群データからAIを活用してLOD2モデルを自動生成する「LOD2建築物モデル自動生成ツール」を開発、オープンソースソフトウェアとして公開している

アジア航測 木戸氏:モデルの整備に踏み切れるかどうかに加えて、整備した後の活用や更新にも課題がありますね。

 わたしは大阪府下の10の自治体、市区町村を担当しており、そのうち半分の5自治体ではすでに3D都市モデルを整備しています。整備されたこと自体はいいのですが、その後の具体的なユースケース、活用の面で行き詰まってしまうことが多くあります。つまり「作ったはいいが、このあとどうする?」ということです。

 また、3D都市モデルは一度作ったら終わりではなく、街の変化に合わせて定期的に更新していかなければなりません。今年作ったモデルが何十年先までずっと使えるわけではありませんから、そこにもやはり課題があると感じています。

――せっかく作っても、ユースケースが限られていれば使われないし、費用対効果も低くなる。それならば次の更新コストはかけられない……と、悪循環になってしまいますね。

木戸氏:先ほど「自治体のユースケースには偏りがある」という話がありましたが、たとえばPLATEAU Windowのような新しいユースケースも、自治体の皆さんはご存じないかもしれません。「こんなこともできるんだ」と知っていただくだけでも、もう少しユースケースに広がりが見えてくるのではないかと思います。

アジア航測 磯貝氏:PLATEAUについては地方ならではの課題、悩みもあります。

 地方の自治体では「PLATEAUや3D都市モデルは大きなビルが立ち並ぶ都会のものだから、自分たちには関係ないよね」という意識もあります。都市部ではなく、地方の自治体に対して提供できる価値とは何なのかを十分に提示できていない点も課題だと思います。

 たとえばわたしの担当する岩手県でも、再生可能エネルギーのポテンシャルの高さをどう生かすのかとか、雪害に強い交通網をどう構築していくのかとか、豊かな自然を生かした観光に3D都市モデルをどう活用できるのかとか、さまざまな活用の可能性はあると思っています。

――都市向けだけでなく、地方向けの「新しい視点」ももっと必要だと、そういう話ですか。PLATEAU AWARDではそうした取り組みも見たいですね。

河野氏:わたしからひとつだけ。現在のPLATEAUを、自分はiPhoneが登場したときのようだと認識しています。iPhoneが出てきた当初、使えるアプリもごくわずかで、ほとんどの人はそのインパクトに気づかなかった。登場して、すぐに人気が爆発したわけではないのです。でも、十数年経った今では「それがない生活はちょっと考えられない」くらいの存在になっています。

 PLATEAUもそれと同じで、「すぐに何かインパクトを与えるもの」だと考えるのではなく、10年、20年かけて生活に浸透していき、やがて「あって当たり前のもの」になるのだと考えたほうがいいのではないでしょうか。うまく使われていないという現状も、まだ自然なことではないかと。もちろんわれわれとしては、より多くの方に浸透していくように協力していきたいと考えています。

「作る側」「使う側」これからのPLATEAUに対する期待

――最後に、今後のPLATEAUに対してどんなことを期待するか、あるいはどんなことができたらいいかを教えてください。ふだんのお仕事から離れたもので結構ですし、実現できるかどうかもとりあえず置いておいて。

磯貝氏:先ほども「地方ならでは」のお話をしましたが、地上にあるものだけでなく海や川の中のモデルが作れると、地方では役立つかもしれないと思います。たとえば岩手県の沿岸部で盛んなカキの養殖や、洋上風力発電などの産業発展に何か役立てられるかもしれません。

中野氏:個人的に携わってみたいのは自動運転の分野です。現実的な話として、地方では公共交通の赤字が大きくなって、いつまで維持できるかもわからないという問題があります。3D都市モデルを活用して、どうやって地方で自動運転による公共交通を実現していくのか。その実現のために、われわれはどうやって3Dモデルを作り、維持していけばいいのか。目下の課題はそこだと思います。

木戸氏:個人的に史跡が好きなので、そうした歴史的なものの3Dモデル化には興味があります。数年前に首里城が焼失しましたが、精密な3Dモデルがあれば復元に役立つはずです。もちろんそれ以外でも、現地まで行かなくても観光が楽しめるとか、歴史研究に役立つとか、いろいろと利用目的はあると考えています。

林氏:広く一般の方に目を向けてもらえるようなユースケースが増えるといいですね。過去のPLATEAUのハッカソンで、たしか「東京湾からゴジラが出現した場合の被害想定をする」というものがあったと思うのですが、ちょっとキャッチーなアイデア、身近なものとして感じられるようなアイデアをどんどん見ていきたいと思います。

――PLATEAU Window'sチームのお二人はいかがでしょうか。

河野氏:「東京時層地図」というスマホアプリがあります。これは、この場所が明治時代の地図ではどうなっているか、昭和初期の地図ではどうかということを、時代のレイヤーを切り替えながら楽しめるアプリです。

 これのPLATEAU版、3Dモデル版があると面白いなと思っています。たとえば「2020年代のこの街はこうでした」というのを、2050年の未来から振り返って見る。そんなアプリが作れたら、ちょっと楽しいおじいちゃんの生活ができそうだなと(笑)。

鈴木氏:PLATEAUに期待することですが、情報量がもっと強化されたらかなり面白いことができそうだと考えています。たとえばLOD3になれば、ドアや窓といった建物の開口部がすべてデータ化されますが、これを使って「窓の総体」として都市をとらえるとどういうことが見えてくるか、とか。

 建物の属性情報、意味情報も同じです。単に建物の位置や形状だけでなく、意味が付与されることで、いろいろなものを自由に生成するための「シード(種)」が増える。そうすると、われわれが遊べる幅も広がりますから、それを楽しみにしています。

(提供:アジア航測)

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