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“エンジニア弁理士”が自ら開発。スタートアップを助ける特許情報検索・分析、ChatGPT活用にも挑戦

【「第4回IP BASE AWARD」エコシステム部門奨励賞】 パテント・インテグレーション株式会社 代表取締役/弁理士 大瀬 佳之氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

「第4回IP BASE AWARD」エコシステム部門奨励賞を受賞したパテント・インテグレーション株式会社は、同社代表取締役の大瀬佳之氏が自ら開発したSaaS型の特許検索・特許分析サービス「パテント・インテグレーション」をはじめとしたサービスを提供している。一方で、弁理士の大瀬氏はIPTech弁理士法人に所属し、特許庁の「知財アクセラレーションプログラムIPAS 2022」のアソシエイトメンターとして参加するなど、ソフトウェア系スタートアップの知財支援も行っている。自らプロダクト開発も行う“エンジニア弁理士”として活動する大瀬氏に、サービス開発の経緯、弁理士の働き方やスタートアップ・エコシステムの課題について話を伺った。

※ChatGPT については様々な議論があります。特許庁は弁理士法・著作権法等に関するサービスの適法性の判断等は一切行っていません。

パテント・インテグレーション株式会社 代表取締役/弁理士
大瀬 佳之(おおせ・よしゆき)氏
東京大学大学院広域科学専攻博士課程中退。2007年から特許検索・分析サービス「パテント・インテグレーション」の提供を開始。メーカー知財部署で5年、企業研究所で約8年の実務経験を積み、2021年にIPTech特許業務法人(現:IPTech弁理士法人)に入所。新規出願から中間対応、無効審判代理や米国特許訴訟、特許検索、特許分析、知財戦略立案など、幅広い特許実務経験を有する。専門分野は、ソフト、サービス系技術。

リーズナブルな特許検索・特許分析サービス「パテント・インテグレーション」

 特許検索・特許分析サービスである「パテント・インテグレーション」は、日・米・欧州および主要国の特許情報の検索から調査、分析まで一貫して行えるSaaS型のサービスだ。企業や技術ごとに特許情報を調べて分析を行えるほか、企業ごとの技術的なポジションを視覚的に捉えられる機能を持つ。ウェブブラウザーから利用でき、月額8000円(アカデミックライセンスは4800円)というリーズナブルな価格設定から、スタートアップの特許調査にも広く利用されている。

「企業の知財部門で働いていた当時は、検索と分析が分離してしまっていてやりづらさを感じていました。本来は特許情報を検索し、その結果を分析してフィードバックし、またもう一度検索に戻って新しい領域を探ることが重要です。検索・調査・分析をシームレスに行き来できるツールがあるといいな、と研究がてら作り始めました。弁理士としても勉強になりましたし、プロダクトを作る経験になったのは大きいです」(大瀬氏)

 2020年8月からは、4000万件の特許情報を活用し、日・米・欧主要国の特許について、企業や技術分野ごとの特許情報に基づく解析結果を提供する特許情報メディア「パテント・インテグレーション レポート(https://patent-i.com/report/)」も展開。知財の専門家でなくても、企業名から当該企業の特許出願状況や共同出願先のほか、被引用特許、被無効審判請求特許、被異議申立特許、被情報提供特許、被閲覧請求特許といった体系的な特許情報を、誰でも無料で得られるレポートサービスだ。

 知財活動を組織的に行うための体制が整っていない企業では、競合他社の特許調査・解析が必要であっても、専門知識の不足や作業負担、コストの問題から、満足に取り組めていないケースは多い。こうした中で同レポートサービスは、知財担当者がおらず特許活動を行う資力にも乏しいスタートアップのような企業にとって、知財情報に関する有力な情報源になっている。

 さらに2023年4月には、ChatGPTを利用したサービス「サマリア」をスタートさせた。サービスのアイデア自体は、10年前から温めていたものだ。

「弁理士の仕事をしてきたなかで、外部調査機関へ調べ物を依頼していたような部分をAIでタイムリーに補完できたらすごく楽だな、とサービスの具体的なイメージはできていました。ChatGPTの登場でようやく自然な文章が作れるようになったので、2カ月間ぐらいでサービスを立ち上げました」

 もともと大瀬氏が自身の弁理士業務を効率化するために開発したものだからこそ、実務で使いやすい。また、ChatGPTを利用することで開発期間を短縮できたそうだ。

「事業開発で失敗しがちなのは、現実的なコストでできるかどうかの見極めです。それができていないと、開発期間がかかり過ぎて機を逃したり、十分な速度がでなかったりしてしまいますから。私自身がコードを書くので、どれだけのコスト・期間でどれだけの品質のプロダクトが作れるのかという見通しを立てられたことが短期のリリースにつながったと思います」

“エンジニア弁理士”のススメ

 大瀬氏が「パテント・インテグレーション」のサービスを立ち上げたのは2007年。

「もともとプロダクト開発が好きだったので、自身の仕事を効率化するためにツールとして作ったのが始まりです。最初に作ったのは、公報のキーワードをハイライト表示するツールで、友人にも配っていました。その評判がよかったので、検索、分析系のツールを開発し、『パテント・インテグレーション』としてサービス化しました」(大瀬氏)

「15年前は今と状況が違います。当時はインストールして使うアプリが主流で、SaaSに慣れていなかったこともあり、ハードルがありました。今はすごく世界が変わったなと感じています」

 サービスの認知拡大のためにメディア展開にも力を入れ、特許情報サービス「パテント・インテグレーション レポート」、YouTubeチャンネルでは特許検索・分析の利用方法の動画を発信している。

 大瀬氏は、弁理士業務のかたわらパテント・インテグレーションを経営している。大瀬氏のように専門家が副業で起業するケースはこれから増えてきそうだ。

「私は起業をおすすめしますね。専門家のキャリアスタイルとしては、従来は本を書くのが主流でした。でも本の場合、読者がそれを読んで解釈し、実行して、自分の職務に反映させるのは大変です。本に比べてプロダクトは直接的で、自分のアイデアをいろいろな人にすぐ使ってもらえるのがうれしい。プログラミングの世界ではよくいわれますが、本は動かないけれど、プログラムはアイデアが動くのがいいところです。今はまだ少数派ですが、法務系のツールは世の中にいくつか出ているので、今後は弁理士のキャリアとして出てくるかもしれませんね」

スタートアップ、投資家とのネットワーク強化で特許流通の活性化にも期待

 現在は、IPTech弁理士法人に所属し、スタートアップの知財支援を手掛けることも多い大瀬氏。最近のスタートアップ・エコシステムの動向と課題について聞いた。

「スタートアップ界隈は、個人間のネットワークが強く、情報の伝達が早いのがいいですね。企業の壁がなく、新しいツールも気軽に教えてくれたりします。最近は専門家を含め、大企業からスタートアップへと移ってくる人が増えてきているのはいい傾向だと思います。人材の還流はもっと増えるといいですね」(大瀬氏)

 もうひとつの課題として、専門家とVC(ベンチャーキャピタル)間の連携での課題を挙げる。

「残念ながら、弁理士業界はVCからあまり興味をもたれていない。最近ようやくスタートアップの知財意識が高まってきたので今後に期待しています。10年ほど前、特許流通(※)が盛り上がりましたが、広がりはいまひとつです。同時期にちょうど企業や事業の合併買収を手がけるM&Aも注目され始め、今ではM&A仲介会社は何十倍にも成長しています。同じ流通でもM&Aはすっかり身近になったのに、この業界は変わらない、という課題意識があります。ほかの領域と絡めてブレークスルーが起こせればと思います」

※特許流通:特許の実施権許諾や譲渡により技術移転を行うこと。

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