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MyDearest 、VRゲーム市場でヒットを続けるIPコンテンツの育てかたは「覚悟」

かーずSPが聞くデジタルコンテンツスタートアップの最前線 MyDearest 代表取締役CEO 岸上健人氏インタビュー

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IPを育てるのに重要なことは“やめないこと”

――オリジナルIPを成功させるのに必要なものは何だと思いますか?

岸上:精神論で言うと「覚悟」なんですけど(笑)、「やり続ける」ってことだと思います。みんな「IPを作る」って簡単に言いますけど、キャラクターやゲーム、世界観に対する愛着を生むことって時間がかかります。エンターテイメントには信頼が必要で、それには長い時間がかかります。とても人間的な部分なのですが。

――心理学のザイオンス効果(単純接触効果)みたいな。

岸上:「ずっと接している」のはすごく大事で、もともと大人気だった『名探偵コナン』も、女性向けにさらに大ハネしました。あれだけの長寿作品だからこそ、さらに高い山を築くことができたのじゃないかなって。『ペルソナ』シリーズも3からガラッと変わって、ファンコミュニティの規模感も一気に広がりました。だから「やめないこと」って大事だと感じます。

――継続することがIPコンテンツの要ですね。

岸上:長年VRを作っていて感じるのが、技術はどんどん変わるものの、人間ってそんなに変化しないですよね。そのタイムスパンのズレが、凄まじくあります。VR機器は速いスピードで進化していく。でもIPは人間の心の部分なので、長い時間をかけて好きになってもらうしかありません。時間をかける覚悟が必要だと思います。だからスタートアップとエンターテイメントって矛盾する要素が多いですよ。ゲーム制作に2年かけることは普通にありますが、スタートアップって、2年もあれば上場しちゃう会社もあるくらいのスピード感です。

――時間の流れがぜんぜん違いますね。

岸上:エンタメのスタートアップ企業としては、これが矛盾していて……だから経営的な面では、意思決定はスピーディに決めていくのですけど、クリエイティブに関しては聖域なので、もうクリエイターに任せて腰を据えます。大きい枠を決めてしまえば、後はクリエイターを最優先して、この矛盾する二つを両立させています。

――面白い作品を目指して作り続けていると、いつまでも世に出ない、なんてことも起こりますよね? 創作と商売のせめぎ合いというか……。

岸上:だから任天堂さんとか、面白くなるまで世に出さないことを徹底していて、あれが究極のクリエイティブで一番強いです。だけど我々はそうではないので、クリエイティブの面白さを最優先しながらも、時間軸は厳しめに持っていることを心がけています。

――アクセルとブレーキを両方踏んでいるような、難しい調整が求められるのですね。

岸上:ですがビジネス的な理由だけで、未完成で発売することだけはダメなので、それだけは絶対しないようにしています。クオリティに妥協しないながらも、その中で最速を出す感覚です。そこはすごく難しいというか、いつも大変だなって(笑)

――投資家の人たちから「もっと早く結果を出して」みたいに急かされることはありませんか?

岸上:早くビジネスを当てたい人はBtoB/SaaSに投資します。MyDearestに出資してくれている人はクリエイティブの部分を理解してもらっていますし、目線を長めに持っていただいている方が多くてありがたいです。
それにプラットフォーマーのMeta(Facebook)社も、いっけんドライに見えるじゃないですか(笑)。でも意外にもクオリティを最優先してくれているのです。Meta社にリリース時期の延期についてミーティングしたときも、ちゃんとクリエイティブをわかってもらえていると感じました。

FacebookのOculus買収劇で、VR業界はどう変化したのか

――Oculusデバイスの創業者であるパルマー・ラッキー氏の会社がMeta社に買収されたことで、VRの方向性とか変化はあったでしょうか?

岸上:当時は「帝国Facebookに買収された」みたいなニュアンスが世間的には強かったですけど(笑) 例えばFacebookのアカウントが必須になり……最近は必須じゃなくなりましたけど。そんなMeta社ですが、すでに一兆円以上をVRに投資しているのですよね。AppleもVRヘッドセットを開発していますけど、もう比較にならないくらいMetaの投資額が大きい。

――VRに賭けている本気度がすごい!

岸上:マーク・ザッカーバーグ氏はまだ30代で、GAFAの創業者の中で唯一残っている経営者です。一兆円投資の判断は、彼にしかできないじゃないでしょうか。VRに年間一兆円張るって意思決定でVR市場が一気に広がりました。そのおかげで今、VR市場がすごく伸びています。

――それが冒頭におっしゃっていた、マルチプレイ化でユーザーが増えていることに繋がるのですね。その他にMeta社の買収の影響はありますか?

岸上:買収がなかったら、ゲーム企業がもっと参入しやすかったとは思いますね。IT業界のノウハウって、いかに手軽に早く結果を出せるか、という世界です。でもVRソフトを作ることって、コンシューマーゲーム制作の側面が強い。ゲーム業界のノウハウを生かせる場なのに、IT色の強いMeta社が大元というのが、混乱を生んでいるように感じます。

――IT業界とゲーム業界、両方のニュアンスを必要としていると。

岸上:だからゲーム会社の参入が増えず、参入障壁が高いジャンルになっているのだと思います。

VRでもう一度、日本のゲームを世界一にしたい

――今後のVRの未来予測は、どうお考えですか?

岸上:おそらくMetaもAppleも、VRとARを兼用できるデバイスを眼鏡くらい小型化して出すと予想しています……3年とか、5年とか? 僕らも、いずれARでも新しいゲームや面白いエンタメを作っていきたいですね。

――例えばどんなことができそうですか?

岸上:今のVRchatはSNS的な側面が強いですけど、あの空間で人狼のようなゲームを遊び、バーチャル空間にみんなで集まって遊ぶ体験も楽しそうですよね。
みんなで集まる体験は現実と一緒ですけど、バーチャル空間だと現実にできないことができるんです。そういったゲームがたくさん生まれてくる未来になると予想しています。

――最後に、MyDearestの今後の野望をお聞かせください。

岸上:来たるVR時代には、日本のゲームを世界一に戻したいです。2022年は『ソードアート・オンライン』が出た年ですよ。それで実際に『ZenithVR』という『ソードアート・オンライン』風のゲームもリリースされたのですが、それがアメリカから発売されていることに悔しさを感じたりもします。もともと日本のTVゲームは世界一だったのですが、スマートフォン時代から、そうではなくなってしまいました。なので日本のゲームをもう一度、世界一にしたい。その先陣をMyDearestが切るべく奮闘しています!

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