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MyDearest 、VRゲーム市場でヒットを続けるIPコンテンツの育てかたは「覚悟」

かーずSPが聞くデジタルコンテンツスタートアップの最前線 MyDearest 代表取締役CEO 岸上健人氏インタビュー

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クリエイターの才能を、いかにわかりやすく皆に伝えるか

――けっこうゲーム制作ってお金がかかるイメージですが……。

岸上:前述した『Innocent Forest』と、『夢の相談所』は制作費500万円くらいだったのですが、『東京クロノス』は8000万くらいかかっていて、絶対に当てないと会社が終了するという背水の陣で挑みました(笑)

――おお、全財産かけるギャンブラーみたい……(汗)

岸上:だから前述した三木一馬さんにシナリオ監修してもらったり、まだ商業デビュー前のLAMさんにキャラクターデザインをお願いしたり、自分の持てる全ての手札を、すべて動員した総力戦で挑みました。

――その次のVRゲーム『ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンドクロノス)』では、ロボットが動かせる体感型ゲームということが話題になりました。

岸上:『アルトデウス』は、3Dアニメ映画『楽園追放』でモーション監督を手掛けた柏倉晴樹がディレクターですけど、この企画は柏倉から上がってきました。だから柏倉の才能に全て突っ込む覚悟で、これまた社運をすべて賭けました。

――また全張りしたのですね(笑)

岸上:でもこれが勝因だと思っています。すごく尖った作品で、おかげさまでゲーム業界の人たちからも高評価を得ることができました。

――SFやロボット物は、好きな人は好きだけど人を選ぶ、濃いジャンルという印象があります。広い層に訴求するための施策はあったのでしょうか?

岸上:おっしゃるとおりです。ですので、とっつきやすくするために僕は「歌姫入れましょう」だけは言いました(笑)
華やかになりますし、ポップな要素も入れてほしいって。それ以外は干渉しませんでした。

――そして最新作『 DYSCHRONIA: Chronos Alternate(ディスクロニア クロノスオルタネイト)』は3部作ということで、第一部が発売されました。

岸上:僕は海外ドラマが好きで、シーズン1、シーズン2というのに憧れて三部作にしました(笑) 『ディスクロニア』のディレクターは新しく加わった松岡で、端的に言うと天才です。例えば、1920年の絶版の小説とかが会社に毎日届き……頭の中が異次元なので、絶対に僕の想定を超えてくるのです。でも本人が賢すぎるので「これじゃ伝わらないですよ」って指摘し、松岡の才能を、どうユーザーにわかりやすく伝えるかに苦戦しました。

――ここでも、濃い内容を伝わりやすくする努力をされているのですね。クリエイターと岸上さんの関係は、作家と編集者のように見えます。

岸上:三木一馬さんの現場で学んだことが活きているのだと思います。そのおかげで、「ヒロインの登場シーンはとにかく印象的にしろ」「そのキャラクターが、しそうにないことをした方が勝つ」といった物語制作のテクニックを、クリエイターたちにアドバイスできていますから。

――ここまでVRゲームを制作されてきて、難しさを感じる点を教えてください。

岸上:VRゲームって、遊ぶとビックリするぐらい面白いですけど、逆に言えば、遊ばないと面白さが伝わらないのですよね。動画でゲームを紹介しても、百分の一くらいしか面白さが伝わらないので、いかに面白いと思ってもらえるかが一番苦労します。

――VR機器を装着している本人にしか、臨場感のある映像を楽しめない点があります。

岸上:はい。ですがゲームの世界に入る感覚は、ホントに強烈ですよ。VR空間の中でキャラクターと目が合う。それだけでも衝撃で、目の前にキャラクターが実在するような感覚って、これまでにないゲーム体験が味わえます。VRのコントローラーって手を自在に使って操作するので、ボタン操作のコントローラーよりも臨場感が味わえますし。こうしたVR体験は、これまでの全ての体験よりも断然面白い!……なんですけど、面白さが伝わりにくいのが課題です。

――そうしたVRゲームを遊んでもらえる工夫はありますか?

岸上:『ディスクロニア』ではバーチャルかくれんぼという、分かりやすいVRとしての面白さを導入しました。体全体を使って隠れたりするインタラクションを入れることで、世界観にのめり込めるし面白い体験ができます。

2回連続でヒットすることで、「再現性がある」と思われる

――MyDearestが累計12億円の資金調達を成し遂げたことについて。出資を受けるのが難しいと言われるBtoCのビジネスで、これだけの出資を受けられたのは、どういった理由があるのでしょうか?

岸上:まず、投資家たちのマインドが変化していることが一因としてあると思います。スタートアップ界といえば、以前からBtoBやSaaSが全盛でした。ですが、それに飽き始めている人たちも投資家の中にいらっしゃるのじゃないかなって。BtoBやSaaSって型が決まっていて、「この型に合わせて下さい」って世界なのですよ。

――方法論、パターンが決まっているのですね。

岸上:一方でBtoCビジネスって型が無いから「どうすんねん」って嫌がる投資家も多いのですけど、だからこそ、やりがいを感じる投資家もいます。一流の投資家ほど才能への投資に熱心で、自分が関わることで才能を花開かせる、そういう意思を持った投資家も多いです。それってマンガ家や小説家と編集者と近い立ち位置なのかもしれません。

――才能を見出して、育てたい投資家たちの存在があると。

岸上:BtoCって自由度が高くて、その起業家の作家性が出やすいですよね。BtoB/SaaSが全盛になりすぎたおかげで、BtoCへ投資する投資家たちが増えたという、揺り戻しの側面はあると思います。

――その中で、MyDearestが評価されたポイントはどこだと思いますか?

岸上:VR市場がすごく伸びているから爆発性がありそうということと、二作連続でヒット作を出せたことだと思います。『東京クロノス』を当てた時点ではまだ冷ややかな反応だったのですが、『アルトデウス』もヒットしました。二作連続で当てると「My Dearestには何かあるな」と思ってくれるのです。

――まぐれ当たりではない、と感じてくれる。

岸上:投資家が重視するのは「再現性がある」ってことで、これがすごく大事なことです。弊社はずっとオリジナルIPでやってきて、ヒットの再現性が高い。さらに、ファンコミュニティの熱量がすごく高いです。実際に投資家たちをイベントに連れて行って、ファンの熱狂を見ていただいたりもしました。そういうことで評価してもらったのだと思います。

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