ロボット、マイクロモビリティ、環境テックで社会課題を解決 北九州市合同デモデイ
北九州市が初の大規模スタートアップイベント「WORK AND ROLE 2023」レポート 2日目
北九州市SDGsスタートアップエコシステムコンソーシアムは2023年3月29日、30日の2日間、スタートアップエコシステムの形成を目的とした北九州市初の大規模スタートアップイベント「WORK AND ROLE 2023」を北九州国際会議場にて開催した。
同イベントは北九州市の6つのスタートアップ支援プログラムの合同デモデイという位置づけで、採択スタートアップ計30社(者)による成果発表と3つのパネルセッションを実施。2日目の3月30日は、SIT-K事業化支援プログラム、Maker’s Project、SIT-K実証支援プログラムの採択企業計17社の成果発表とパネルセッション「H/Wスタートアップの未来戦略」が行なわれた。
1日目の様子はコチラ→北九州市が初の大規模スタートアップイベント「WORK AND ROLE 2023」レポート(関連サイト)
SIT-K事業化支援プログラム採択企業5社による成果発表
スタートアップSDGsイノベーショントライアル(SIT-K)事業化支援プログラムは、事業成長を目指すスタートアップを対象にPMF(Product Market Fit:製品が市場や顧客に受け入れられている状態)の達成を目指すプログラムだ。採択企業には最大2000万円の補助金が交付され、北九州市の産学官金の連携による支援や専門家による伴走支援が実施される。令和4年度は、Release株式会社、HMS株式会社、株式会社ストリーモ、株式会社batton、株式会社EVモーターズ・ジャパンの5社が採択された。
介護保険事業に特化したオンラインデータ送信・保管サービス「カイホウ」
Release株式会社は、介護事業者向けに請求書と見積書データの標準化に取り組むスタートアップ。介護現場は、書類をやり取りする機関や事業者が多いが業務のデジタル化が進んでいない。
同社が開発する「カイホウ」は、厚生労働省が推進する請求書と見積書の標準仕様CSV形式に自動変換するサービスだ。書類を「カイホウ」にアップロードすると、標準仕様のCSVに変換し、さらに関係先に合わせてメールやファクスで送信できる。「カイホウ」は事業者向けの従量課金型サービスとして提供。今後は、国の標準仕様データを運用した北九州市モデルとして厚生省に発表し、さらに介護向けのITサービスを展開していく計画だ。
IPカメラを活用した低コストエッジクラウディングAIサービス
HMS株式会社は、カメラやスマホをワンタッチで高性能なクラウドAIに接続できるエッジクラウディングAIサービスを開発。既存のIPカメラをAI BOX(ゲートウェイ装置)に接続することで、クラウドAIサービスを提供できる仕組みだ。クラウドには、野菜の選別、製造業の検品、小売店舗の映像解析、設備点検など約100種類のAIモデルを用意しており、さまざまな業種で利用できる。非常に低コストで運用できることが特徴だ。SIT-Kの支援事業では、小売店舗で来店者の人数・属性・動線の把握、製鉄工場の各種メーターの読み取りなどの運用実証が行なわれた。
バランスアシストシステムで安心して乗れるマイクロモビリティ「Striemo」
株式会社ストリーモは、ホンダ技研工業株式会社から2021年にスピンオフしたスタートアップ。歩行速度でも安定走行する独自技術「バランスアシストシステム」を搭載した新しいマイクロモビリティ「Striemo」を開発、販売している。7月から施行される改正道路交通法では、時速20㎞以下の電動小型モビリティは「特定小型現電動機付自転車」と区分され、16歳以上は免許不要で乗れるようになる。また、時速6キロ以下に切り替えると自転車通行可能な歩道の走行も可能だ。「Striemo」と電動キックボードとの違いは、バランスアシストシステムの安定性で凸凹の道でも安心して走行できることだ。
本プログラムでは、製品の安全性評価、事業の課題解決として北九州市立響灘緑地(グリーンパーク)で実証とイオンモールでの試乗会が行なわれた。以前は電動キックボードを導入していたが、坂道の移動が困難、荷物の運搬ができない、といった課題を抱えていた。「Striemo」では、坂道も安定して走行でき、台車を牽引して荷物を運べると好評を得たとのこと。イオンモールでは、一般客46名が試乗を体験。36%が交通に不安を感じているとの回答があり、今後も道路整備やルール周知に向けて取り組んでいく予定だ。
フォーマットがばらばらな帳票を自動統一してデータ化「FAXバスターズ」
株式会社battonは、異なる書面をAIで自動フォーマット化する「FAXバスターズ」を開発。FAXやPDFメール添付で送られてくる受発注書や見積もり書だが、ばらばらの書式のため、人手で確認して入力しなくてはならないのが現状だ。また用語や商品番号は現場によって表記のゆらぎがあるので単純にOCRなどで読み取りデジタル化してもそのまま入力はできない。
「FAXバスターズ」は最新の言語モデルGPTを採用し、「BKをBlackに置き換えてください」など言葉で指示すると、自動的に置き換えてくれる。変換後はCSVやExcelデータにダウンロードして既存の業務システムに入力可能だ。本プログラムでの実証を経て、製品をリリース。想定よりもエンタープライズのニーズが高く、月次成長率25%と好調だという。
電力制御技術を活かして長距離走行可能な物流用EV車両を開発
株式会社EVモーターズ・ジャパンは、バスやトラックなど商用EV車両に特化した充電設備の開発から製造、販売、レンタル事業を展開する2019年設立のスタートアップ。以前は電池製造業を営んでおり、同社のEV商用車はその電池制御技術を活かして開発されたものだ。SIT-Kの支援金を活用し、ラストワンマイルEV物流車の開発プロジェクトに取り組んだ。目標として、(1)航続距離と電池寿命の延長、(2)ユーザーの要望に合わせた新しいデザインの2つを定め、3.5トンと5.4トンの2種類の車両を開発し、2023年1月に東京ビッグサイトで開催された「スマート物流EXPO」にラストワンマイルEV物流車のコンセプトカーを出展した。
開発したEV物流車は、世界最高クラスの低消費電力システムを搭載し、最大航続距離240キロの長距離走行を実現。また左右のドアは横開き、バックドアは観音開き、運転席から荷台までウォークスルー仕様で、狭い場所でも荷物を出し入れできる。荷室空間が広く段ボール120箱を積載可能だ。2023年内に発売し、2024年以降は量産体制に入るのが目標だ。