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ロボット、マイクロモビリティ、環境テックで社会課題を解決 北九州市合同デモデイ

北九州市が初の大規模スタートアップイベント「WORK AND ROLE 2023」レポート 2日目

特集
ASCII STARTUP イベントピックアップ

提供: 北九州市

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SIT-K実証支援プログラム採択企業8社による成果発表

 最終セッションでは、スタートアップSDGsイノベーショントライアル(SIT-K)実証支援プログラムの採択企業8社の成果発表が行われた。SIT-K実証支援プログラムは、プロダクトの社会実装に向けた実証実験による仮説検証を支援するプログラム。採択企業には実証フィールドの提供、産学官金の連携による実証支援、最大250万円の補助が提供される。

廃プラ選別作業のロボット導入でサーキュラーエコノミーを実現

 KiQ Robotics株式会社は、産業用ロボット向けに人の手指のようにモノをつかめる「柔軟指」の技術をもち、さまざまなものをピックアップするロボットシステムを開発している。同社が提案するのは、廃棄物処理場での人手による分別の代替としてのAIピッキングロボットの導入だ。日本ではプラスチック回収率は高いものの、資源としての再生率は26%と低い。資源再生には選別の手間がかかるため、プラスチック資源循環の実現には自動化が必須といえる。

 今回の実証では、市内の処理事業者の協力のもと、対象物をピッキングするための調整、実際の処理現場にロボットを設置して選別作業の検証を行った。今後は、さらに検証フィールドを広げ、いろいろな対象物を扱えるようにピッキング率を向上させて、実工場への導入を進めていく計画だ。

KiQ Robotics株式会社 代表取締役 CEO 滝本隆氏

3Dプリンターで作られた柔軟指

移動コストを削減する設備メンテナンスサービス提供者向け情報共有プラットフォーム
「SynQ Remote」

 株式会社クアンドは、設備メンテナンスサービス提供者向け情報共有プラットフォーム「SynQ Remote(シンク リモート)」を開発している。建設業の労働時間の3分の1が現場への移動に使われているという。「SynQ Remote」は移動コストを削減するための現場用コミュニケーションツールだ。共有現場のスマートフォンと事業所のPCをつなぎ、現場の映像を共有できる。映像上のポインターを動かしたり図や文字を書き込んだりして、遠隔で確認や指示が行なえる。さらに、声の聞こえづらい騒音のある現場では音声を文字起こしする機能や、図面共有の機能も搭載。やりとりの内容はグループごとに記録されるので、あとで確認が可能だ。建設業のほか、安川電機のロボットの遠隔メンテナンスやインフラ・交通業界でも利用されている。

 今回の実証では、市内の設備メンテナンス企業の協力のもと、顧客情報のCRMデータベースと連携したサービスを開発。過去の顧客の履歴情報との比較やメンテナンス対応の報告書の作成といった機能を追加したパッケージで、ベータ版が完成したところだそう。今後は、オフラインでの機能を拡張し、市内の設備機器メーカーと連携して遠隔メンテナンスの体制構築を進めていく計画だ。

株式会社クアンド 代表取締役 下岡純一郎氏

AIカメラで園内の危険を検知し、保育施設内の重大事故を防ぐ

 株式会社ハピクロは、保育園を運営する傍ら、自園のDX推進のノウハウをもとに、保育から飲食、製造業界向けのソリューション事業を展開している。過去には、赤ちゃんの呼吸胎動を見守るセンサー「ハピサポBabyセンサー」を開発、北九州市内の直営保育園が導入され、現在は長崎県や大分県の保育施設にも採用されている。

 今回は新たに保育園内の危険をAIとIoTで検知、通知する、園児の安全対策向上システムを開発し、北九州市内の高見幼稚園とNINARUふじまつ保育園で実証実験を行った。児童福祉施設内の死亡事故、重大事故は合わせて年間2300件以上起きており、危険な場所の把握と安全確保は施設にとって重大な課題だ。開発したシステムは、保育施設内にクラウドカメラを設置し、AIで動画分析と危険推定を行い、危ない場所に子どもが入ると保育士に通知する、という仕組み。今後はシステムを製品化し、安全対策に力を入れている保育所等約1300施設への導入を目指す。

株式会社ハピクロ 代表取締役 中田佳孝氏

車両のEV化のシミュレーションでCO2削減効果を見える化

 アークエルテクノロジーズ株式会社は、脱炭素社会を目指し、EVスマート充電・運行管理システムの開発や企業のカーボンニュートラルのコンサルティング事業を展開する気候テック企業。今回の実証実験では、EV車両の運行計画のサービス化に向けて、北九州市上下水道局が所有する車両の運行データを収集し、EV化した場合のシミュレーションと、温室効果ガスの削減効果や必要な充電設備等の課題を分析した。

 全110台の車両のうち10台に車載機を取り付けてデータを収集した結果、4ヵ月間で約4,132キログラムのCO2を排出していることがわかった。110台に換算すると年間CO2排出量は15万㎏以上になり、車両をすべてEV化するとCO2排出量は86%削減できるという。

 EV車両は航続距離が短いのが難点だ。工事事務所の車両の25%は1日当たり50キロメートル以上の長距離走行であり、充電機の確保が課題となる。実証実験では、各拠点での走行状況から充電計画をシミュレーションして必要な充電器の台数の試算も行なわれた。今回は一部の車両と期間のデータを収集したが、企業の保有する全車両のデータを計測すれば、運行や充電計画の最適化や使われていない車両の削減の提案にもつながる。こうした実証実験の成果として、企業や自治体向けに、EV充電と運行管理を最適化するシステム「eFleet」をリリースし、今後は基礎充電に特化したアライアンス提供を進めていく予定だ。

車載器を手に説明するアークエルテクノロジーズ株式会社 山本龍太氏

北九州市産トマトを原料にしたクラフトビールを開発

 シンガポール発フードテックのCRUST JAPAN株式会社は、北九州市産のトマトを利用したクラフトビールを開発。トマトジュースを使ったカクテルとは異なり、原材料として使用しているのが特徴だ。原料のトマトは、北九州市若松区にある響灘菜園の規格外トマトを使用し、市内の製造業者とも協業して研究開発を重ね、商品が完成した。

 会場では、ラベルに北九州市環境マスコットキャラクター「ていたん」をあしらった限定商品を試飲として提供。今後は、北九州市内のイベントや量販店での販売を検討しているとのこと。このビールを地産地消モデルの事例として、他の自治体とも組んで商品開発を展開していく計画だ。

CRUST JAPAN株式会社 CRUST JAPAN Director CRUST GROUP VP of Business Development 平野宏幸氏

イベントホールではトマトのクラフトビールと甘夏の皮を使った炭酸飲料「あまなつハニー」の試飲会が行なわれた

AI画像処理技術とGISで施設の保全業務を効率化

 株式会社スカイマティクスは、リモートセンシングの画像処理解析技術と地理空間情報システム(GIS)の2つの技術をかけ合わせて、農業や建設業界向けリモートセンシングサービスを提供している。今回の実証実験では、(1)地理空間情報システムを活用した施設情報管理システムの有用性の検証、(2)運用サービスの検証、(3)画像解析による設備保全業務の効率化検証の3つを実施した。

 (1)(2)については、北九州市スポーツ振興課の管理施設を360度カメラで撮影し、遠隔から施設内がPCで確認できるシステムを構築。パノラマ画像に備品情報を付与して運用評価を行ったところ、現場に行かずに施設情報を確認できることで年間約450時間が削減できるという結果が得られたとのこと。(3)は、三菱ケミカルグループと共同開発した配管の腐食箇所を診断するAI画像診断サービスを市内の公共施設に適用して検証を行った。腐食のある場所を色分け表示してみたところ、工場内と公共施設とでは異なる結果となり、精度を高めていく必要があることがわかったという。今後も引き続き画像解析を活用した保全業務効率化に向けて実用化を目指していくそうだ。

株式会社スカイマティクス セールスマネージャー 森貴浩氏

温室効果ガス排出量の可視化ツール「ScopeX」を教材に
環境人材を育成する「脱炭素支援インターン」

 株式会社TBMは、温室効果ガス排出量算定削減プラットフォーム「ScopeX」を活用し、企業の温室効果ガス削減と、環境人材の育成に取り組んでいる。2015年のパリ協定の採択を受け、日本では2050年までに実質温室効果ガスをゼロにすることを表明。2022年4月以降、東証プライム市場上場企業は気候変動リスクに関する情報の開示が義務付けられた。この流れは他区分の上場企業にも広がると予想される。「ScopeX」は、企業単位の温室効果ガス排出量を国際会計基準法に従って算出し、グラフによる可視化および削減施策の提案するサービスだ。

 同時に環境人材も不足していることから、北九州市との実証では、「ScopeX」を大学に教材として提供し、学生が「ScopeX」を用いて地場企業の温室効果ガス排出量の可視化、削減提案する「脱炭素支援インターン」プロジェクトを実施した。

 プログラムに参加した地場企業は、「学生からの削減提案を来年度の事業計画に取り入れたい」「温室効果ガスの削減努力を続けたい」といった前向きな声が得られた。また、学生側も北九州市の地場企業の事業内容を知る機会ができた、と好評だったとのこと。今後は、「ScopeX」を全国の大学に教材として提供し、環境人材の育成と企業の脱炭素支援を続けていく計画だ。

株式会社TBM ScopeXプロダクトマネージャー 林映里菜氏

日本語での交流サービスを活用して外国人材の就職をサポート「世話カツ」

 株式会社Helteは、日本での就職や移住を希望する外国人向けの情報マッチングサービス「世話カツ」を開発。同社は、日本語で話したい外国人と日本人がオンラインで交流する会話交流サービス「Sail」を運営している。日本に興味のある外国人は多いが、日本人と話す機会が少ない。一方で、日本語でなら交流したい、という日本人は多く、「Sail」はこの両者をマッチングするサービスだ。現在、東南アジアを中心に2万人以上の外国人が会員登録しており、日本人と日々会話することでコミュニケーション力が上達しているそうだ。日本人側は、シニア層をターゲットとし、長年の経験から日本の文化を伝えることができ、多様な国や世代の人と交流することで高齢者の孤立解消や相互理解にもつながる。

「Sail」の外国人会員の7割近くが日本での就職を希望していることから生まれたのが、企業とのマッチングサービス「世話カツ」だ。北九州市との取り組みでは、市内在住の日本人と留学生に「Sail」を使って交流してもらったのちに、「世話カツ」を通して企業に人材を紹介する実証を行った。企業側に「Sail」でのインタビュー動画や交流した日本人からの推薦状を提供し、書類や面接だけでは引き出せない人となりが事前にわかることでミスマッチが防げる。実証後、市内企業への内定者も出ているそうだ。

株式会社Helte マネジャー 大野真吾氏

(提供:北九州市)

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