成功のカギはリスペクト――イノベーションはオープン、フラット、ダイバーシティな環境で生まれる
JID2023セッションレポート「大手企業とスタートアップがwin-winな関係を築くには」
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ASCII STARTUPは2023年3月3日、赤坂インターシティコンファレンス(東京都港区)で先端技術やイノベーションに関わる企業、団体が集う展示とカンファレンス「JAPAN INNOVATION DAY 2023」を開催した。「大手企業とスタートアップがwin-winな関係を築くには」と題したセッションを紹介する。
製品やサービス開発で自前主義を脱却し、自社以外の知識や技術を取り込みオープンイノベーションが盛んになって大手企業とスタートアップが組む例が増えた。その一方で両者の立ち位置の違いから新規事業担当や事業会社の投資事業であるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の担当者とスタートアップがすれ違うケースも多い。企業の担当者として知っておくべきスタートアップのビジネス手法や共創事業の勘所をめぐってセッションが行われた。
登壇したのは、株式会社InnoProviZation(イノプロビゼイション)代表取締役CEOの残間光太郎氏、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長の笹原優子氏、三菱地所株式会社新事業創造部主事の橋本雄太氏の3人。残間氏がモデレーターを務めた。
NTTデータで大企業とベンチャーをマッチングしてきた残間氏
2020年にInnoProviZationを起業した残間氏はNTTデータに30年務め、2019年までオープンイノベーション事業創発室室長として大企業とベンチャーをマッチングしてきた。世界20都市でコンテストを開催して「世界のベンチャー企業とどうしたらうまくいくかを8年間やってきた」と自己紹介した。人材育成やアイディア創出、ビジネスモデルづくりなども手掛けている。
NTTグループ1000社とベンチャーのコミュニティーを束ねる笹原氏
NTTドコモ・ベンチャーズの笹原氏はドコモに1995年に入社後、世界初の携帯電話向けネットサービス「iモード」の立ち上げ時に対応端末の企画と仕様策定に携わり、新事業創出プログラムの運営や社内起業家の支援を経てCVCに出向した。連結子会社が1000社あるNTTグループの事業とスタートアップを束ねるミッションを「力と想いを束ね、世界の景色を変える」と掲げている。「出資がゴールではなく、一緒に世界が変わるところまでご一緒したいという意味です」と説明した。
米国スタートアップのドローンメーカー「Skydio」を導入した「docomo sky(ドコモスカイ)」の共創をプロデュースした事例紹介では、ドコモの空撮巡回点検ソリューションのドローン事業立ち上げに向け、Skydioに出資するとともに、両者での具体的連携に向けコミュニケーションを深めていったことを挙げた。各社がドローン事業に注目する中で、「どこよりも早く事業を立ち上げなければならない時はオープンイノベーションが有効な方法だという事例だ。いち早くSkydioにお話しさせていただいた」と説明した。
共創でこのほか、NTT東日本のクラウドストレージサービス「コワークストレージ」のコア技術に採用した日本のスタートアップのファイルフォースや、ゲノム編集による魚類の品種改良技術で水産業のイノベーションに取り組むリージョナルフィッシュを紹介した。同社とNTTは2月9日、将来の食料不足や地球環境問題の解決を目指して合弁会社を設立すると発表。笹原氏は「ドコモではなくNTTグループとしての取り組みでちょっと先の未来の話」と紹介した。
将来の日本の産業をつくるCVCを運営する橋本氏
三菱地所の橋本氏は、新卒で新聞社に入社後、転職した外資系コンサルティングで新規事業開発に関わり、鉄道会社に転じてアクセラレータープログラムやインキュベーションスペースの立ち上げ、スタートアップと協業した経歴を持つ。2021年に三菱地所に転職してすぐにCVC立ち上げの企画書を提出。5年で約100億円程度の出資を想定するCVC「BRICKS FUND TOKYO」を設立し、2022年4月から本格的な投資活動をしている。
三菱地所は東京・丸の内のオフィスビルや商業施設、物流施設を開発する不動産デベロッパーで、所属する新事業創造部では16年からスタートアップとの協業や直接投資を進めているが、新たなCVCの投資テーマは幅が広い。DX(デジタル変革)から中長期的なサスティナビリティ(持続可能性)、脱炭素、カーボンニュートラルなど社会課題の解決、産業構造の転換に挑む国内外の有望スタートアップに投資し成長産業を共創して日本の次の未来をつくるというミッションを掲げている。
「あえて三菱地所の色を出しすぎず、スタートアップから見てフラットな投資家のひとりと見ていただけるブランディングをしている」と橋本氏は説明した。「投資をするというよりも投資をさせていただくという立場。我々がスタートアップのみなさんからどうやったら選んでもらえるか考え、投資家としての専門性やスピード感を高めることを考えてファンドを運営している」と話した。初年度は2カ月に1社のペースで既に8社に投資した。
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