オプティマス、光触媒が生んだ高機能塗料で世界の省エネ、環境問題に挑む
堺市発のイノベーションを創出するスタートアップ起業家連続インタビュー第5回
提供: NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市
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塗料メーカーからライフスタイルカンパニーへ
高尾氏は学生時代から持ち続けてきた地球環境への問題意識から新たな製品、新たな事業を生んだ。一個人が得た気づきを、企業という箱を作ることによって継続性を持たせるとともに多くの人を巻き込んだ成果ということができる。オプティマス社が運営しているオプティマスカフェでも、ヴィーガン食を通じて環境負荷の軽減や自身の健康に対する気づきを得るきっかけにして欲しいとしている。
「私は4年くらい前から肉を食べなくなってきた。年を重ねてきて消化が弱ってきたというところで食べなくなってきたのがきっかけで、食事がどれだけ大切かということを考え始めるようになった。食べるものが体にどういう影響を及ぼしているか。同時に地球環境に対して、例えばどれだけ水が必要で、餌として何が必要かなどのところに意識をしてもらえればと思っている。
世の中にはいろんなことを考えていろんなことをやっている人がいるから、これが(正しい)ライフスタイルです、と提供するのはちょっと違う。壁に塗った塗料も毎日目に入るし、(オプティマスカフェで出している)ヴィーガンの食事も毎日のこと。それらを通じて自分の食べるものや自分の健康など日々の生活について考えるきっかけになればいいなという意味で、オプティマス社をライフスタイルカンパニーと呼んでいる」(高尾氏)
環境にやさしく健康にも良い機能を持つ戸建て住宅をプロデュースするオプティマスハウス事業も、住環境から省エネや心身両面にとっての健康に気づきをもたらすことを目的としている。収納や水回り、動線など住宅に必須な機能はもちろん、カラーバリエーション豊富なオプティマスを内外装に用いることにより、保湿から断熱、消臭、空気浄化機能など、既存の住宅メーカーがこれまであまり重視してこなかった機能を持つ住宅をプロデュースしている。
「壁にオプティマスを塗ってもらうだけで汚れもつかなくなるし、断熱効果によって電気代もまったく違う。ただ環境に良いというだけでは続かない。手間も減るし経済的にもメリットがある。そういうところがモチベーションになるし、さらに環境にも健康にも良いとなると満足感も高い。
デザインも私が監修しているのですっきりとした少し次世代的な住宅を提供できていると思う」(高尾氏)
オプティマス社は2025年に開催される「大阪・関西万博」に出展することとなった(期間限定)。万博では、「未来の技術」や「持続可能性」をその基本計画に組み込んでおり、日本発の技術である光触媒を活かしてサステイナブルな生活を実現しようとしている同社とは相性が良い。ライフスタイルカンパニーというビジョンの周知に向けて、あるいは高機能塗料オプティマスの世界での利用拡大に向けて、オプティマス社は万博で世界中からの注目を集めることになるだろう。
飛躍の年を迎えるオプティマス社
日本が生んだ光触媒技術を実用化した製品を世界に持っていくことを目標に、海外展開に力を入れているオプティマス社だが、同時に社内体制も整備にも力を注いでいる。現在は改良のアイデア出しも海外営業もブランディングもすべて高尾氏1人でこなしており、専門性を持ったメンバーでチームを組むところまで事業規模を拡大していくことが当面の目標となっている。
規模拡大に向けて、同社は2つの新規事業開発を進めている。その1つが2023年にCOP28が開催されるドバイでの事業開発だ。COP28によって現地では環境問題に注目が集まってきており、そこで断熱効果の高い塗料を使った省エネビルや抗菌、抗ウィルス機能を持った塗料を使った病院や学校の事例をアピールできれば、非常に大きな市場の獲得が期待できる。
さらにJAXAおよび早稲田大学と共同で光触媒を用いた航空機用防汚塗料の開発を進めている。航空機の翼に汚れが付着すると、機体表面の摩擦抵抗が増大して燃費の悪化を招いてしまう。この塗料を用いると光触媒の防汚性機能により汚れが付きにくくなる、または少ない水量で汚れを除去できるようになる。航空機だけでなく自動車や鉄道など応用範囲が広いため、オプティマス社の事業の大きな柱の1つとなることが期待される。
「中近東に展開していこうと思ったら、日本で事業を行う時以上のエネルギーとスピード感が求められる。さらに信頼できる現地パートナーは絶対必要になる。弊社の場合は東京の女性起業家のコミュニティ経由で良いパートナーと巡り合うことができた。そこからさらに手を拡げていきたいと思っている。
産官学連携については、もっと長期にわたって研究開発の協力体制が維持できないかと思っている。大学としても同じテーマでずっと続けていくのは難しいのかとも思うし、研究費の問題もある。今は一旦止まっている大阪公立大学との共同研究にしても、ドバイからはもっとこういうものは作れないかとリクエストが来ている。次世代オプティマスの開発を産官学連携でできればと思っている」(高尾氏)
日本は理系に進む女性の割合が非常に少ないことで知られている。今後は理系のビジネスキャリアを積む女性も徐々に増えてくることが期待されているが、高尾氏のように母子2代にわたって塗料メーカーの経営者となっている人は異例と言えるだろう。そこでまだまだ男性の多い男社会となっている傾向のある理系ビジネスに進もうとする女性に向けて、自身の経験からその心構えを高尾氏に聞いてみた。
「日本も徐々に変わってきてはいるが、まだ男性に比べると低く見られたり、発言するのははしたないと思われたりという空気が残っている。だから細かいところに気がつき、繊細なアイデアを持っている女性が発言や行動を貫くのは、男性が考えるよりずっと難しい。相手に嫌われることも言わなくてはいけない場面も出てくる。
女性が前に進むのは難しいが、それでも他にもそういう女性はいるから、一人ひとりが勇気をもって進めば道は開ける。ガラスの天井を意識せず、自分を信じて進むことが大事だと思う。
それから良いものができたとしてもそれを売るのは非常に大変なこと。1人でやろうとせず不得手なことを補い合うチームを作ることが必須になってくる。自分が信頼できるチームを作ることにまず取り組んで欲しい」(高尾氏)
中近東でつかみつつあるビジネスチャンスや産官学連携による新製品上市の期待が高まる2023年は、オプティマス社にとって待望の成長を実現する年になる。同社の高機能塗料が世界的に認知されるブランドとなり、堺から世界へ飛躍することを期待する。
(提供:NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市)
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