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温度制御でかゆみ解消、透明太陽光発電など 期待のベンチャー発先端素材

第50回NEDOピッチ「先端マテリアル ver.」レポート

特集
JOIC:オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

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パワーエレクトロニクスに必須のSiCウェハー製造技術を確立

株式会社UJ-Crystal

 パワーエレクトロニクスは電力の効率的な輸送から変換、制御などに関わる技術であり、今後電気自動車やあらゆる電気製品の省電力化に寄与するキーテクノロジーとされている。SiC(シリコンカーバイド)を用いた半導体はその普及のカギを握っており、株式会社UJ-Crystalは高品質なSiCウェハーを低コストで製造する技術の開発を行っている。

株式会社UJ-Crystal 代表取締役社長 宇治原 徹氏(オンラインでの登壇)

 現在のSiCパワーデバイスのサプライチェーンでは、SiCウェハーのサプライヤーが少なく、市場を握っている。海外では大手のデバイスメーカーがSiCウェハーのサプライヤーを買収して垂直統合を進めており、国産のSiCウェハーのサプライヤーが待望されている。

 一般にSiCウェハーは昇華法と呼ばれる手法で製造されているが、この手法には品質面での課題がある。UJ-Crystalは溶液成長法というより高品質なSiC結晶を作る手法を確立した。溶液成長法の確立のためには多数のパラメーターを調整する必要があったが、UJ-CrystalはAI技術を用いてコンピューター内に製造装置を多数再現(デジタルツイン)し、それらを同時並行で稼働させることにより、これを実現した。

 2023年にはこの手法を用いて製造したSiCウェハーのサンプル出荷を行い、2025年に初期生産ライン(プロトタイプ)を立ち上げ、2028年には本格的な生産に入るという予定になっている。既に有力国内企業との共同研究などは進められているが、今後は海外のデバイスメーカーとも連携を取っていきたいとしている。

経済産業省による素材産業におけるスタートアップ支援策

 スタートアップ5社によるピッチに続いて、経済産業省製造産業局素材産業課の團野克也氏から、経済産業局が進めている素材産業スタートアップへの支援策の概要が紹介された。

経済産業省 製造産業局 素材産業課 團野 克也氏

 素材産業は日本のGDPの約2割を占め、鉄鉱で22万人、化学で94万人と非常に大きな雇用を創出するなど国の基幹産業となっている。また、工場の立地する地域においては地域経済のけん引役としても大きな役割を果たしている。また、世界でも最高水準の競争力を持つ素材製品は国内製造業からの高い品質と価格要求に対応しており、他産業の競争力の源泉ともなっている。

 またNEDOでもシーズ発掘から事業化までシームレスにスタートアップの支援を行うプラットフォームを整備している。それぞれのスタートアップのフェーズに応じた支援策が用意されている。NEDOによる支援を希望するスタートアップはNEDOのWebサイトから検索することが可能だ。

 内閣府は戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)として、日本の経済再生や国民が必要とする社会的課題の解決に向けた科学的イノベーションを生み出すためのプログラムを設定している。来年度から始まる第3期SIPでは15のミッションを設定しているが、その中にマテリアルプロセスイノベーション基盤技術の整備がある。

 そこではマテリアル分野のユニコーン予備軍の導出を目的としており、2つの具体的な目標を掲げている。1つはマテリアル分野におけるユニコーンの実例の創出で、SIPの期間にStage2に達するとともに、SIP終了後10年以内に時価総額1000億円以上で上場するとしている。

 もう1つはマテリアル分野でユニコーンを創出するインフラの強化として、これまでのSIPなどを通じて構築してきた科学的データインフラの活用が挙げられている。このインフラをスタートアップが活用することにより、マテリアルプロセスにおけるDXを実現し、ユニコーンを創出するイノベーションを加速することを目指している。

 ソフトウェアなどでは米国に大きく後れをとっている日本だが、素材に関しては互角以上の戦いができる。不得手な分野を放置することもできないものの、まずはそういう得意分野こそ伸ばしていくことこそ、日本経済の再生のための現実的な処方箋となるだろう。

 今回登壇したスタートアップは、いずれも技術を持つとともにそれによって世界に共通している社会的課題を解決しようとしている。今回ピッチを行ったスタートアップが世界を牽引する存在へと成長することを期待する。

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