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加速する都市のデジタルツイン化。3D都市モデルを取り巻く世界の状況

「3D都市モデルでスマートシティはどう進化するのか」レポート

連載
JAPAN INNOVATION DAY 2022

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 JAPAN INNOVATION DAY 2022 by ASCII STARTUPで実施されたセッション、「3D都市モデルでスマートシティはどう進化するのか」をレポート形式で紹介する。

 3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」をテーマとした本セッション。国土交通省でPLATEAUのプロジェクトを統括する内山裕弥氏(以下、内山氏)と、シンガポール政府と共同で「バーチャル・シンガポール」を手掛けたダッソー・システムズのパブリックセクターディレクター熊野和久氏(以下、熊野氏)が、「都市のスマート化」や「新たなビジネス創出」について、議論を交わした。

3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクト
PLATEUが持つ3つの特徴

 セッションの冒頭では、内山氏からPLATEAUの概要と、ユースケース、今後見込んでいる展開などについて説明があった。

 PLATEAUは、国土交通省が進める3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のリーディングプロジェクトだ。都市活動のプラットフォームデータとして3D都市モデルを整備し、ユースケースを創出しながら、オープンデータとして公開することで、誰もが自由に都市のデータを参照し、活用できる社会を目指している。

国土交通省でPLATEAUプロジェクトを統括する内山裕弥氏が、PLATEAUについて解説した

 内山氏は、PLATEAUの大きな特徴として3つの要素を紹介した。ひとつは、既存データを活用した、安価でスケーラブルなデータである点。PLATEAUは大規模なデータセットの形式をとっているが、オリジナルデータをスクラッチで開発しているわけではなく、“自治体が保有しているデータ”を収集し、統合することで実現している。このため、規模と比較して低コストで整備可能であり、どの自治体でも整備可能であるため、スケールしやすいという特徴を持つ。

 2つ目の特徴は、PLATEAUを活用したアプリケーションが、同時に開発されている点。オープンデータとして公開されていても、有効な活用方法が実現しなければ、意義が薄くなってしまう。国土交通省では、これを防ぐために、PLATEAUを使ったアプリケーションを開発し、活用事例として示している。あらかじめ活用方法を示すことで、さまざまな領域のプレイヤーが参画しやすい状態を作る狙いがある。

 そして3つ目の特徴は、オープンである点だ。PLATEAUのデータはオープンフォーマットを採用しており、さまざまなナレッジもドキュメント化して公開しているほか、データの編集ソフト、変換ソフトといったツールをGitHubで公開している。

PLATEAUはどう使われている?

ユースケースのひとつとして、太陽光パネルの設置シミュレーションが紹介された

 また内山氏は、PLATEAUのユースケースを紹介した。直近の事例として明かされたのは、「太陽光パネルの設置シミュレーション」への活用だ。特定のエリアに、太陽光パネルを「何枚置けるか」や「置いた場合の発電量がどうなるか」といったシミュレーションができ、カーボンニュートラルの実現に貢献できる。そのほか、自動運転に関わるソリューションとして、3Dマップ上で車両の位置を推定する技術も開発している。

今後の展望として、3つの方向性が示された

 今後は、データ整備の効率化と高速化、ユースケースの拡充によるスマートシティーの実現を目指すとし、カバレッジを拡張するための、地方自治体への財政や技術面での支援も実施していく構想があるという。

3Dソリューションを提供するダッソー・システムズ
世界のデジタルツインの活用事例

 続いて熊野氏が登壇し、ダッソー・システムズが手がけている3D都市モデルやデジタルツインの事例を紹介した。

 同社はフランスのソフトウェア企業で、日本法人も26年の歴史を持つ。初期は3D CAD事業からスタートし、車、飛行機をはじめとする製造業のPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)も主要事業のひとつ。「アート、サイエンス、テクノロジーを調和させ、サステイナブルな世界を作る」ことをコンセプトとした企業活動を続けており、その一環として、3D都市モデルビジネスも手がけるようになった。

3D CAD事業からスタートしたダッソー・システムズ

 同社が手がけた海外での3D都市モデルの事例として熊野氏が紹介したのは「バーチャル・シンガポール・プロジェクト」「バーチャル・レンヌ・プロジェクト」「ジャイプール3Dシティ」だ。

 最も大規模な事例は、バーチャル・シンガポールだ。国家プロジェクトとしてシンガポール政府と同社が協業し、およそ4年をかけて開発した。首相府の直轄プロジェクトで、各省庁を横断しており、主要な建物は内部構造もモデル化されている。建造物はオブジェクト化されているため、属性情報を加えられるほか、体積や面積の計測なども可能だ。このプロジェクトでは、公共交通の最適化や、太陽光発電への移行シミュレーション、災害発生時の避難計画などへの活用が試行されている。

バーチャル・シンガポール・プロジェクトは、最も早い段階で着手した3D都市モデルプロジェクトだという

 バーチャル・レンヌは、ブルターニュ地方の主要都市であるレンヌを3Dモデル化したもの。エリアごとのエネルギー消費状況を可視化し、エネルギー消費の効率化に活用されているほか、都市計画や交通網の設計、再開発地域における住民説明用のツールとしても使われている。

バーチャル・レンヌ・プロジェクトのユースケース

 インドで開発中の「ジャイプール3Dシティ」では、およそ160万件という膨大な建物を3Dモデル化することに挑戦している。都市開発時のスケジュール管理や、人材や資材を含めたリソースの管理に活用されているほか、ソーシャルメディアの分析機能を組み込むことで、SNSのユーザーたちが、特定のプロジェクトに対してどのような感情を抱いているか、その比率はどうなっているかといった状況把握にも活用できる。

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