メルマガはこちらから

PAGE
TOP

カーボンニュートラル・昆虫食・ICT・医薬・ロボ・素材……知財で成長を目指すスタートアップ20社がピッチ

「IPAS2021キックオフイベント」レポート

特集
STARTUP×知財戦略

1 2 3 4 5

事業紹介3番目グループは「ものづくり・素材・ロボット」分野

アルファテック:穀類・セルロースを非晶化する温度制御型粉砕技術でアルファ化製造機械を開発

アルファテックの温度制御型粉砕技術の将来展望について説明する代表取締役CEOの駒井雄一氏

 株式会社アルファテックの代表取締役CEO、駒井雄一氏は、穀類やセルロースの「非結晶化」を粉砕だけで実現するアルファ化製造機械を開発する。「温度制御型粉砕技術」によって、デンプンを含んだ穀類(米、とうもろこし、小麦)や、食べられないバイオマス(木片、もみ殻、穀物種子被)を温度を制御しながら「せん断力」を与えて一瞬で非晶化(アルファ化)する。穀類なら「加水・加熱」「冷却」「乾燥」「粉砕」の工程が必要で、木片のセルロースなら「蒸煮」「加水加熱」と環境負荷の高い工程が必要だが、「温度制御型粉砕技術はそれらの工程を飛ばすことができる」と駒井氏は強調した。

 この技術を第1段階は畜産に展開して消化しやすい飼料を作り、飼料を削減。水産においても展開想定だ。第2段階では食品分野で介護食や非常食にする。第3段階ではバイオマス活用で、木質の飼料化や各種の廃棄物で「カス」と言われるものを有効利用し、木質の飼料化で畜産飼料の代替を開発する。温度制御型粉砕技術のライセンスビジネスを検討しており、設備を導入したライセンスフィーではなく「そこで粉砕された数量に基づくライセンスビジネスにチャレンジしたい」と駒井氏は目標を掲げた。

京都フュージョニアリング:商用核融合炉向けコンポーネントを開発

京都フュージョニアリングが提供する最先端の核融合炉の関連装置について説明する代表取締役の長尾昂氏

 京都フュージョニアリング株式会社の代表取締役、長尾昂(たか)氏は、商用核融合炉で使う耐久性の高いコンポーネントを開発する事業を説明した。「30年かけてカーボンネガティブ(排出量以上の温暖化ガス吸収)の実現に取り組む」と述べた。核融合炉用の加熱装置「ジャイロトロンシステム」の技術を持ち、これを最初にビジネスとして展開する。2025年までに英国や米国で販売を始め、実証炉で販売拡大する。2030年までには核融合炉の壁面に備える「ブランケットシステム」や「ダイバータシステム」をエンジニアリングする。

 ブランケットやダイバータは、オフィス複合機のインクトナーカートリッジのように取り替え需要を見込む。「2030年代には核融合炉の商業化の目処が立つと言われる。核融合炉の利用で2040年以降にビジネス化する」と長尾氏は説明した。核融合炉の商業化までまだ時間がかかるが、実験計画はすでに始まっており、さらに本格的な競争になる前に自社事業分野の部材や、炭素固形化技術で基本特許の取得を目指す。京都大学発のベンチャー企業として大学が保有する基本特許の実施許諾権を獲得する知財戦略も固めて、自社工場を持たずに設計・開発する「ファブレスメーカー」となる構想を持っている。

Aster:石やレンガの「組積造」の建築物を耐震補強する高強度樹脂コーティング剤の開発・製造 

繊維強化樹脂をレンガに塗って強度を試す動画を説明するAsterのCEOの鈴木正臣氏

 株式会社Aster(アスター)CEOの鈴木正臣氏は、石やレンガを積み上げる「組積造(そせきぞう)」の建築物に対する耐震補強設計と、補強に用いる高強度樹脂コーティング剤の製造事業を展開する。組積造の建物はインドやコロンビア、ギリシャ、カナダ、トルコ、ネパールなど世界人口の60%が住むが、地震に弱く犠牲者が出続けている。この建物の表面に塗るだけで強化できる「繊維強化樹脂」を開発。「世界初のサービスを実現した」と鈴木氏は強調する。

 この技術は「簡単」で「安い」の特徴だ。特別な訓練や機材は不要で、世界中の職人が使える。瞬間接着剤のように高価ではないで、建物の壁全面に塗るコストが抑えられ、一般の高強度樹脂の20分の1以下ですむ。企業でプロトタイプを開発していた鈴木氏と、東京大学の地震研究者、インド工科大学の構造解析研究者の3人の協力で完成した。世界へ直接足を運んで市場ニーズを調べ、地震多発地帯で組積造の地域の既存市場だけで40兆円規模のマーケットと算出している。被災地で多くの組積造の建物が崩壊した姿を見てきた鈴木氏は「この課題を解決するテクノロジーを持っている。ビジネスとしてスケールして社会実装させることが我々の使命」と強調した。

FiberCraze:世界初の高分子多孔化技術で防虫・保湿の高機能性繊維を開発

FiberCrazeの防虫効果のあるネットについて説明する代表取締役社長の長曽我部竣也氏

 FiberCraze(ファイバークレーズ)株式会社の代表取締役社長、長曽我部竣也氏は、繊維やフィルムにナノレベルの穴を開ける加工技術でさまざまな機能を持つ素材を開発する。現在は農家の害虫被害を解決する防虫効果のあるネットに注力している。農林水産省が5月に「緑の食料システム戦略」を策定して有機農家を増やそうとしているが、白菜などの葉物類やりんごなどの果物を農家で深刻な害虫被害がある。残留農薬を減らそうと意欲的に取り組む農家に効果的な対策製品がなく、有機農業ができない現状だ。

 FiberCrazeの防虫効果のあるネットは、作物をネットで覆って使う。糸に特殊な構造があり、目に見えない小さな穴を無数に開ける加工技術で繊維に穴を開け、そこに防虫成分を閉じ込めた。害虫を寄せ付けない繊維は既存の競合技術と比べて防虫効果の保持力が高く、さまざまな害虫に効果のある素材開発ができる。コア技術には岐阜大学の研究成果の「高分子多孔化技術」を活用し、特許を確立している。長曽我部氏は「世界初の繊維・フィルム加工プロセスで、将来は農業分野だけなく、さまざまな分野に応用していきたい」と構想を語っている。

XELA Robotics:ロボットハンドやグリッパに触覚をもたらす「uSkinセンサー」を開発

折れ曲がれやすい名刺もつかめるXELA Roboticsのセンセー技術を説明するソフトウェアエンジニアの船橋賢氏

 XELA Robotics(ゼラ・ロボティクス)株式会社は、CTOのアレクサンダー・シュミッツ氏と、ソフトウェアエンジニアの船橋賢氏の2人が事業を説明した。ロボットハンドに触覚を持たせる「uSkinセンサー」を開発して、人間にしかできなかった作業の自動化を支援する。物体をつかんで操作するには視覚データだけでは不十分で、触覚データが必要。uSkinセンサーにはさまざまな形や大きさがあり、競合他社と比べて優位という。

 uSkinセンサーの開発だけでなく、ロボットハンドや物をつかんで保持するグリッパへのセンサー組み込みも手がける。名刺のような折れ曲がれやすく壊れやすいものでも、形状を変形させることなくつかめる。現在はセンサーのみを製品販売するが、利便性を向上させるソフトウェアソリューションを開発中だ。船橋氏は「多くの顧客がいるため大量生産に踏み切る。uSkinセンサーのソフトウェアをライセンスモデルで提供していく」と事業戦略を語っている。

ChiCaRo:子育てお助けロボット「ChiCaRo」でワンオペ育児を解決 離れた家族と一緒に遠隔協同子育て

ChiCaRoのリモートシッティングを説明する代表取締役社長の奥温子氏

 株式会社ChiCaRo(チカロ)の代表取締役社長、奥温子氏は「ワンオペ育児」を解決する子育てツール支援ロボット「ChiCaRo」を説明した。ビデオチャットや遠隔操作で離れて暮らす家族が子育てに参画できる。ロボットを操作して追いかけっこやままごと、絵本の読み聞かせなど一緒に子育てをしていような経験ができる。0歳から3歳の乳幼児が使っても壊れない安全設計で、抱きしめる身体的コミュニケーションが楽しめる。奥氏は「テストマーケティングで使ってみたユーザーからワンオペ育児の孤独感から解放されたとの声をいただいた」と話した。

 まず小ロットのPoC(概念実証)で量産に向けた仕様の決め、大阪大学と電気通信大学と共同研究するAIをChiCaRoに導入して、AIによる育児負担の解消と子育てスタイル刷新する「スマート育児」を目指す。子育て関連のさまざまな業種・業界の企業様と提携し、社会全体で新たな子育てスタイルを立案、拡充していく。家族だけでなく保育士や小児科医など子育てや保育の専門家とつながりサポートする「リモートショッピングサービス」も準備中だ。

1 2 3 4 5

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー