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カーボンニュートラル・昆虫食・ICT・医薬・ロボ・素材……知財で成長を目指すスタートアップ20社がピッチ

「IPAS2021キックオフイベント」レポート

特集
STARTUP×知財戦略

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最初の事業紹介は「ICT・医療ICT」分野

Acompany:秘密計算エンジン「QuickMPC」でプライバシー保護データを高速分析

秘密計算エンジン「QuickMPC」の仕組みを説明するAcompanyの取締役CTO、近藤岳晴氏

 最初に登壇した株式会社Acompany(アカンパニー)の取締役CTO、近藤岳晴氏は、秘密計算エンジンの「QuickMPC」を紹介した。秘密計算とは、データを保護しつつ、企業や組織間で暗号化したまま計算できる次世代暗号技術だ。プライバシー保護の匿名化でデータ分析の粒度が低下し、分析結果の精度が丸くなる課題を秘密計算で解決する。データを暗号化したまま分析して、複数の組織間でのデータ連携でプライバシー保護とデータ活用を両立させる。

 「秘密分散処理」と呼ばれる匿名化加工情報が特許認定されれば、さまざまな場面で秘密計算技術を使うことができるので、個人情報活用の安全性向上とセキュリティーコストの大幅削減に貢献する。データ解析プロセスの標準技術となることを目指しており、近藤氏は「クラウド上に安心・安全で信頼できる環境に提供する。秘密計算技術でデータ活用インフラを実現したい」と説明した。同社はクラウド上に「データクリーンルーム」をバーチャルに構築し、データの中身を公開することなく解析後の統計値のみを出力する仮想的な空間をさまざまな事業者に提供する事業展開を目指している。

調和技研:豊富なAI研究開発ノウハウとAIエンジンを開発、ライセンス事業も強化

調和技研の事業内容を説明する代表取締役社長CEOの中村拓哉氏

 株式会社調和技研は北海道大学の研究室から生まれたAIベンチャーで、独自性の強い「匠(たくみ)のAI」を開発して製造業から流通業、サービス業、農業など大手から地方まで多彩な「受託型のAI研究開発」事業を展開する。この受託研究で培ったケーススタディのアーキテクチャやナレッジを標準化して、AIエンジンやライブラリーを開発・提供する「知財・ライセンス事業」を利益率の高い事業へと転換し、強固な収益基盤作りを目指している。

 代表取締役社長CEOの中村拓哉氏は「受託事業とライセンス事業の双方でAIエンジンを高度化させる」と説明した。このほか顧客から要望が高まっているAI教育やセミナー開催の依頼に応じて、人材育成事業も展開している。「好きなことをとことんというノリで始めた会社」として創業12年。8月から全社一丸で知財戦略に取り込んでいる。「AIというツールを手にした人類は1人1人が自分の創造性を最大限に発揮できる。その創造性で未来社会をワクワクする方向へと変えたい」と中村氏は意気込みを語っている。

iMed Technologies:安全な脳血管内手術で動画解析を活用した手術支援AIを開発

「手術支援AI」のロードマップを説明するiMed Technologiesの代表取締役CEO、河野健一氏

 株式会社iMed Technologies(アイメドテクノロジーズ)の代表取締役CEO、河野健一氏は、脳梗塞・くも膜下出血の手術を安全に行うため、動画解析を活用した手術支援AIを開発する。救急車で運ばれる病院を患者は選べない。河野氏は「どこに連れて行かれても安全な(手術支援AI)装置がある世界を目指す」と話す。ディープラーニングによる手術支援AIを開発し、動画を使った「教育・評価のプラットフォーム」や、完全自動手術ロボットも将来目標に見据える。「手術支援AIの新しい市場を作りたい」と河野氏は言う。

 脳梗塞は夜中の3時でも起こり、医師は現場に駆けつけて手術する。細長いカテーテルやガイドワイヤーを足の血管から入れて頭の血管にアプローチする手術は、4つのディスプレー画面を使いながら手元の1〜2ミリ単位を注視する精度が求められる。「(複数の外科医で)注意して手術をしても患者の命に関わる事故が起こり、学会から注意勧告が出ている」と話す河野氏も、脳梗塞で倒れた80歳女性の手術でステントを画面の中で見落とし、一つ間違えば死に至った原体験がある。「最近の自動車は障害物センサーが付いていて安全になったのに、手術現場はアラートすらない」。この問題を手術支援AIで解決していくという。

Surg storage:内視鏡外科手術データベース「S-access」と動画を意味づけるアノテーションを展開

Surg storageの内視鏡外科手術データを「見る、使う、加工する」事業を説明する代表取締役CEOの平尾彰浩氏

 続いては、株式会社Surg storage(サージストレージ)代表取締役CEOで、国立がん研究センター東病院NEXT医療機器開発センターの平尾彰浩氏が登場。内視鏡外科手術データベース「S-access(サクセス)」のデータを、医療機関やヘルスケア企業に提供している。背景には全国約100の大規模病院の協力によって手術情報を集めたデータベース構築がある。

 がん患者の増加で内視鏡手術も増えているが外科医は増えず、手術の質の担保が課題となっている。だが企業は手術室データが取れず、実情に即した開発ができていない。外科医は「横に立って覚えろ」と伝統的なやり方では若手の教育スピードが上がらない。この問題をS-accessのデータとアノテーションで解決する。外科のAI活用に取り組む世界のスタートアップにデータを提供したり、ライセンシングで共同開発も行なう。また臨床の現場では外科教育素材として海外展開も狙う。平尾氏は「企業・アカデミアと臨床を下支えするデータベースのプラットフォームになる」と述べた。

BiPSEE:うつ病患者の感情や心にVRで働きかける「デジタル治療薬」を開発

BiPSEEのVRを活用したデジタル治療薬について説明する代表取締役CEOの松村雅代氏

 株式会社BiPSEE(ビプシー)の代表取締役CEOで心療内科医(高知大学医学部「医療×VR」学特任教授)の松村雅代氏は、VR(仮想現実)を活用したうつ病など精神疾患向け「デジタル治療薬」の開発し、VRで患者の「反すう」にアプローチする。反すうとは何度もネガティブな出来事を思い出してしまうこと。松村氏は「答えの出ない問いを繰り返して自己否定する反すうをターゲットした治療法が不在だ。VRを使ったデジタル治療薬は精神疾患と相性が良く、新たな治療法として注目されている」と説明する。

 反すう症状を改善するには自身の自己効力感を育む体験が必要。BiPSEEのVRは「能動的・直感的なコンテンツで自己効力感を育む体験を実現できる」という。まず、うつ病患者向けから始めて、反すうがあるその他精神疾患にも拡大し、潜在患者向けの「予防・診断ソリューション」を展開する。スマートフォンの治療アプリが2020年に日本で薬事承認されて注目が集め、米国や欧州では既にVRを使ったデジタル治療薬が先行する。「人間の心理や行動に大きな影響を与えるVR機器は、精神疾患に対するデジタル治療薬に最適なデバイス。日本でもこの治療法を開発し普及していきたい」と松村氏は話している。

fcuro:救急現場で診断の質とスピードを高める「CT診断補助AI」を開発

fcuroのCT診断補助AIを説明する代表取締役CEOの岡田直己氏

 最後の株式会社fcuro(フクロウ)代表取締役CEO、岡田直己氏は、救急現場で医師の診断の質とスピードを高めるCT(コンピューター断層撮影装置)診断補助AIを開発している。大阪市の高度救命救急センターで救命医をしながら「助からない患者の救命をAI診療で実現したい」と起業した。CTによる重症患者の画像診断で遅延と見逃し問題の解決を目指す。疲労困ぱいで画像診断を急ぐと、救急専門医でも重大疾患を見逃すことがあるため、AI技術で正確で素早いCT診断を実現して命を救う。

 2019年から経済産業省所管の「未踏事業」として救急全身CT診断を開発。今後2年で詳細な部位へとアプローチして、疾患名と重症度を出力して診療方針の決定に役立つシステムへに改良する予定だ。さらに新型コロナウイルス患者の救急CT診断のAI開発も始めており、全国の救命センターから集めた世界最大規模の200万枚以上のCTデータでAIモデルを開発しており、現場運用に最適化したソフトウェアを販売するという。「我々の強みは技術に精通した救急医と、実際の臨床現場に張り付いて課題を知り尽くしたエンジニアが横並びで共に開発を進めるところ。徹底的な現場起点で技術実装を実現したい」と岡田氏は説明した。

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