カーボンニュートラル・昆虫食・ICT・医薬・ロボ・素材……知財で成長を目指すスタートアップ20社がピッチ
「IPAS2021キックオフイベント」レポート
NUProtein:再生医療と培養肉分野へ高品質で安価なタンパク質を生産する技術を提供
NUProtein(エヌユープロテイン)株式会社の代表取締役、南賢尚氏は、小麦胚芽を活用した高品質で低価格なタンパク質合成システムを開発し、再生医療や人工培養肉など各種バイオテクノロジー企業に提供する事業を説明。現在は研究者向けタンパク質合成試薬を国内外に販売するが、さらに大量のタンパク質合成用原料までカバーして「タンパク質合成のプラットフォーム」を目指している。安価なタンパク質を提供できるのは、従来の3000分の1のコストで製造可能な技術があるためだ。
特に「成長因子」と呼ばれるタンパク質は現在、高価で産業化のボトルネックになっている。1グラムあたり数千万円するため、販売価格はグラム数億円規模となる。培養肉で作るハンバーガーパテが4万5000円程度になるのは、コストの9割を成長因子が占めるためだ。南氏は「成長因子タンパク質が高価で産業のボトルネックになっていることを解決し、バイオの水道哲学を実現したい。超廉価なタンパク質を無尽蔵に提供して、海外を含めて医療と食に貢献して豊かな世界をつくりたい」と語る。
キュライオ:ノーベル化学賞の「クライオ電子顕微鏡」を活用した構造ベース創薬
株式会社キュライオの代表取締役CEO、中井基樹氏は「クライオ電子顕微鏡」を使った「構造解析ベース創薬」の事業展開を解説した。2019年8月に設立し、独自のノウハウを用いた世界最高水準の構造解析に強みを持つ。クライオ電子顕微鏡法は2017年のノーベル化学賞を授賞した注目の分野で、従来は解析できなかった疾病関連タンパク質を解析できるようになった。タンパク質の構造解析で不可欠だった結晶化が不要で、サイズの大きい結晶も解析できる。
この解析技術によって、製薬会社や他のバイオベンチャーと共同で創薬研究したり、自社で標的の観察から構造解析して化合物を見つけたりする創薬とともに、解析できるものを広げる基盤技術の研究も進める。人のタンパク質の中で創薬が可能とされるタンパク質は約25%で、残りの75%は創薬が困難な標的タンパク質と言われているが、中井氏は「その中からキュライオ解析で今まではなり得なかったものを創薬ターゲットにしていく」と意気込む。国内市場だけで約11兆円の規模感だという。
ソニア・セラピューティクス:難治の膵がんを治療する次世代型集束超音波の「HIFU治療装置」を開発
ソニア・セラピューティクス株式会社の代表取締役社長兼CEO 佐藤亨氏は、難治がんを治療する次世代型集束超音波の「HIFU(ハイフ)治療装置」の開発と事業化を説明した。この装置から「見る超音波」と「治療する超音波」の2つを発生させる。見る超音波では、腹部の臓器やがん組織を見る。また治療する超音波はエネルギーが高くないため、複数のエネルギーを1点に集め、がん組織を加熱して壊死(えし)させる。5年生存率が10%未満で治療が難しい膵(すい)がんにHIFU治療でアプローチする。
超音波で治療するHIFU治療は低侵襲で体の負担が少なく、放射線被ばくの恐れがないので繰り返し治療ができ、日帰りも可能だ。装置は開発段階でがん治療で承認されているHIFU治療装置はない。承認・販売後はシステム販売とメンテナンス、トレーニングを組み合わせて提供していくという。事業紹介では、右後ろ足が末期の軟骨肉種だった小型犬のミニチュア・シュナウザーがHIFU治療後に歩けるようになり、最終的には腫瘍の縮小効果で足を切断せずに済んだことが紹介された。佐藤氏は「超音波でがん治療を変革し、1人でも多くの患者に新たな未来をもたらしたい」と話した。
NOVIGO Pharma:注射剤を「貼り薬」の経皮吸収製剤にするナノ超微粒子技術を開発
NOVIGO Pharma(ノビーゴファーマ)株式会社の代表取締役、石濱航平氏は、注射剤を貼り薬の「経皮製剤」にする独自のナノ超微粒子技術「S/O(エスオー)パッチ」を説明した。医薬品市場の約3割を占め、経皮デリバリー(経皮送達)が困難で注射で投与するしかなかった「中〜高分子医薬」を貼り薬にする。今後増えるバイオ医薬品の中〜高分子薬を界面活性剤夜で包んで「ミセル」と呼ぶ微粒子にして貼り薬にする。界面活性剤は石けんのように滑り、はがれやすい問題があったが、S/Oパッチは世の中の貼り薬と同等レベルの製品となっている。
貼り薬にすることで通常は皮膚を通らない薬剤の粒子が皮膚の角層を通過し、人の真皮血中へと経皮達成されるという。薬効が長期間続くので1日に何度も注射する必要がなくなり、朝晩2回、週14回の注射薬を貼り薬にして使用量を減らし、薬材料の削減に貢献するという。飲み薬の「経口剤」は胃で消化されて薬効を失う「初回通過効果」があり、注射剤は侵襲性が高いが、貼り薬の経皮製剤にはそうしたことがない強みがある。石濱氏は「技術的課題で経皮製剤の市場は小さかった。新たに市場を開拓して注射剤から貼り薬、一部の経口剤も転換して経口剤や注射剤と並ぶ剤形として確立したい」と語っている。
Liquid Mine:白血病患者に低侵襲で最適な遺伝子解析検査を「Liquid Biopsy」で提供
医療・バイオ分野の最後は、株式会社Liquid Mine(リキッドマイン)の代表取締役社長、岸本倫和氏が白血病の再発を早期に発見するモニタリング検査技術の開発と事業化を説明。再発リスクが70%と高い白血病は、手術後にモニタリング検査があるが、身体的負担の大きい骨髄検査を受ける患者は30%と少ない。これを解決する新しい遺伝子解析検査「Liquid Biopsy(液体生検)」を提供する。白血病は患者の遺伝子変異で発症するとわかっているので、まず全ゲノム解析で原因遺伝子変異を正確に同定し、解析結果を医師や患者にフィードバックする。
再発モニタリング検査では、特定した原因遺伝子変異に合わせて患者1人1人に最適な検査薬を作成するので、血液検査だけでモニタリングができ、骨髄検査を何度も受ける必要がなく低侵襲だ。まず白血病をターゲットに国内市場、続いて海外市場への進出を検討している。市場規模は国内で数100億円、海外を合わせると数1000億円規模と見ている。「これらのマーケットを早期に取っていきたい」と岸本氏と話す。研究を重ねて悪性リンパ腫や多発性骨髄腫の分野へと展開して「最終的には固形がんをターゲットに世界市場へ打って出たい」と意気込んでいる。