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PLATEAUもっとこうなるといい座談会 コミュニティー化へ多様な声求む

PLATEAU/CityGML座談会(後編)

特集
Project PLATEAU by MLIT

 国交省の推進する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」のハッカソン入賞者とメンター、CityGML開発メンバーによる座談会の模様をお送りする。前半では各チームからハッカソンでのプロダクトづくりの裏話を伺った(参加者プロフィール&前編はこちら)。後半では、今後のPLATEAUをもっと盛り上げていくために必要なもの、活用を広げるためのアイデアについて議論した。
(以外、文中敬称略)

多くのチームが困っていた座標変換

笹尾:ハッカソンで一番困ったのは、ポリゴンデータをどうやって組み立てるかの部分です。Earcut(ポリゴンを三角形分割するMapBox社のコード)という三角形分割のアルゴリズムを使う必要があるのですが、そこにたどり着くまでに苦労しました。もともとカメラや画像処理が専門で、3次元空間にポリゴンデータを表示するための座標変換など幾何学的な知識があったので、PLATEAUをどのように組み立てていくかに応用できたと思います。

於保:3DCGとして表示するために多角形のポリゴンから3角形の集合に変換しなくてはいけないのがネックになったわけですよね。知り合いからも「三角形分割が難しい」という声が出ていました。

笹尾:やり方は複数あるはずなのですが、Earcutの順番でなければPLATEAUのデータに合わないのです。どの仕様に沿ってこうなっているのかな、と気になりました。

石丸:緯度・経度といった座標の扱いで問題はありませんでしたか。

笹尾:PLATEAUの内部データは、緯度、経度、高さの極座標なので、まずXYZの3次元空間に変換する必要があります。道路の細線化やシミュレーションには、さらに座標変換が必要になるのでややこしかったです。

於保:2回目のハッカソンでも座標変換には多くのチームが困っていましたね。FBXだと平面直角座標系ですし、CityGMLの日本測地系2011(JGD2011)からどのように変換していくか、といった相談を多く受けました。平面直角座標系については国土地理院の変換式のWebサイトを参加者には紹介したのですが、簡単に使っていただくには座標変換がネックになりそうです。

日本測地系2011:Japanese Geodetic Datum 2011。日本の現行の測地基準系。東日本大震災による大規模な地殻変動の発生から最新の測量成果が反映されている。


笹尾:そこは標準ライブラリが用意されているといいですね。数値計算の誤差が計算の順番によってはけっこう大きなズレになりますし。

於保:ハッカソンだけでなく、PLATEAUの活用を広げるためにも有用ですね。ただ、みなさんの開発環境はさまざまなので、各プラットフォームに組み込めるライブラリをすべて用意するのは難しい。とりあえず計算式やアルゴリズムなどの情報を共通の知識ベースとして提供するだけでもハッカソンレベルなら役に立ちそうです。GIS系の計算テクニックやノウハウはあまり知られていないので、もっと情報を提示していくことが大事だと思います。

笹尾:そうですね。私も地理系の知識がなかったので、計算式だけでなく、関連する知識の共有があるといいなと感じました。PLATEAUを使ってみたい人のために、地理分野の基礎知識のリンク集のようなものがあるといいな。もしなければ作りたいですね。

内山:確かに、日本語でわかりやすく解説しているサイトってないですよね。エンジニア向けにCesiumやTerria、または座標系データの説明をするようなイメージでしょうか。

Terria:Cesium向けにUIを付加することができるオープンソースのフレームワーク(TerriaJS)。


石丸:GISの知識だけでなく、いろんなレベルの知識が必要だと思います。座標変換、Unityで組み込んで使う方法など、いろいろな知識をまとめたリンク集があると便利ですよね。

尾石:海外のサイトの場合、Cesiumに関しては機能に対しての使い方などのデモコードは公開されているのですが、Cesiumに限られたものであり、そこから自分のアイデアを実現するには……という情報は手探りでしたね。3rd partyのデータ、オープンデータと組合わせたようなアイデアとどのように実装したかなどのまとまったユースケース集はまだないので、そういった事例集もあると助かるでしょう。

PLATEAU VIEWの使い勝手と可能性

米田:私はPLATEAU VIEWがもっと使い勝手が良ければ、と思いました。みんなで強化していけば、ハッカソンがもっとやりやすくなるかもしれません。

内山:PLATEAU VIEWはまだまだ改修をしていきたいので、こんな機能が欲しい、などのアイデアがあれば、ぜひ皆さんに教えていただきたいですね。

笹尾:ハッカソンの後に、地理情報を扱っている会社からPLATEAUについて相談にのってほしい、と問い合わせがありました。PLATEAUを使って何かをつくりたい、と考えている会社は結構いらっしゃるみたいです。ただ、自社で抱えているエンジニアだけで開発をしたいけれど、やりたいことを実現できるエンジニアがいない。こんなことをしたいときには、何のツールを使って、どうやればいいか、といった具体的な事例集、ソリューション例があると役に立つ企業がありそうです。PLATEAUのコミュニティーメンバーをもっと増やして、「こんなことがやりたいんですが」と気軽に質問できるようになれば、情報も集まりますし、企業のつながりができるかもしれません。

内山:今、スマートシティ官民連携プラットフォームに分科会を設置していて、官民のニーズとシーズをシートで出してPDFで公開しています。ここは誰でも見ることができるのですが、もっと盛り上がる形にしたいですね。

スマートシティ官民連携プラットフォーム
活動記録「3D都市モデルの整備・活用促進に関する検討分科会」を参照
https://www.mlit.go.jp/scpf/archives/

笹尾:そういった情報にどうすればアクセスできるのかもあまり知られていないように思います。まずは新しい技術なので、もっと広めていくことが課題なのかな。

内山:知識を広めるには、どうしたらいいですかね?

於保:PLATEAUやCityGMLは新しい技術と認識をされている方が多いですが、GISに関しては結構古い技術。そのあたりの知識がPLATEAUを扱ううえで、じつは非常に重要ですし、加えて、3Dゲームエンジンなど幅広い知識が必要になってくる。全体的にGIS基礎力を上げなくてはいけないのだけれど、なぜ基礎力がないのかというと、比較的ニッチな技術分野だったからかなと。そこを何かしらブレークスルーしていく方策も考える必要があるのかな。

内山:ビジネスになれば勉強をするから知識レベルはおのずと上がってくるので、市場をつくっていくことが大事ですよね。

奈良:あとは敷居をいかに下げていくか。先ほどの分科会のニーズ/シーズシートもかなり具体的なユースケースに踏み込んだ内容が書かれているので参考になりますが、一方で、PLATEAUという具材をうまく料理するための全体の地図がまだ示せていない気がします。データの種類、料理方法、できることやできないこと、いろいろなことを実現するための方法論などが羅針盤として示せれば、少なくとも技術選定で困っている、という課題は解決できます。

 データがどこで公開されていて、その調理法がどこにあり、困ったときにどこに聞けばいいのか。最初の「冒険の書」のようなものがあれば、もっとコミュニティーや中小企業にも浸透していくのではないでしょうか。

内山:それはすぐにできますね。ウェブサイトなどにSlackコミュニティーに入るための案内を差し込むことにします。

PLATEAUにはコミュニティーが必要

米田:ハッカソンを通して感じたのは、PLATEAUに関する情報や知見が分散していること。Twitterに作品を発表する人もいれば、Qiitaやほかのメディアに投稿している人もいる。調べる能力に長けていないと、ほしい情報にたどり着くことが難しい。こうした情報にアクセスしやすいように、どこか一箇所にまとまっていればいいと思います。また、TwitterでPLATEAU使ってこういうことをしました、という投稿をよく見かけるので、LT会とか公式で発表する場が用意されるとユーザーが集まって自然とコミュニティーもできてくるんじゃないかな。

内山:LTはいいですね。確かにTwitterやQiitaで流れてしまうのはもったいないですよね。誰かPLATEAU Wikiをつくってアーカイブしてくれないかな。

尾上:アンバサダーやエバンジェリストのような方を就任させれば、その方がWikiを作ってくれたりするのでは。また、ハッカソンとは別に、コンテストのような長期間かけて制作するイベントがあると、そのまま社会実装できるレベルにクオリティが上がってくるのではないかと思いました。

内山:既存のオープンな発表の場のコミュニティーには、どんな形があるんでしょうか。

尾上:例えば、日本のMagic Leapコミュニティー(LEAPERS JAPAN)には、SlackとFacebookにコミュニティーがあり、そこに質問をすると、Magic Leap社の方ではなく、アンバサダーや詳しいメンバーが回答してくれるので、コミュニティー内で解決しちゃう形ができあがっています。

内山:そういうのがSlackでできるようになればいいですよね。

遠藤 諭 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員
プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関する調査・コンサルティングをするほか、テクノロジートレンドに関する発信を行っている。AIカーに関する700人のメンバーからなるコミュニティー「AIでRCカーを走らせよう!」を主宰。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)、『ジェネラルパーパス・テクノロジー―日本の停滞を打破する究極手段』(野口悠紀雄氏との共著)など

遠藤:テクノロジー系はコミュニティーがたくさんありますよね。ベースはメーリングリリストで、年に2回くらい集まってLT会をするなど。ユーザーグループは、iOSやRubyは有料ですが、無料でもすごく活性化しているところもありますし、Facebookグループでうまく回っているところもあります。敷居が高いと地方の企業はなかなか入ってこれないので、ハードルを下げたほうが間口が広がると思います。

尾石:メンターとしての反省点として、第1回目のハッカソンを開催した後、参加者がどのようにPLATEAUを使ったかをドキュメント化した方と、していない方がいたこと。こんな方法を使った、こういうアイデアで実現した、といったアウトプットをきちんと明示するようなイベントの作り方をできたらよかったと思います。

遠藤:今日みたいな会がもっとオープンな形であるといいですよね。

CityGMLは可能性のあるフォーマット

於保:ハッカソンに参加して実際に手を動かしてやっていた人と、CityGML側を作る人、両方の観点で見てみると、違うところもあれば共通するところもあり面白いですね。参加者はどうにかして自分が実現したいものを作る、というスタンス。一方で作る側は、理想的なデータの形を考えている。これも地理情報を日本のインフラとしていくうえで非常に重要なこと。その違いを認識しながらうまくまとめていければいいんじゃないかな。

石丸:お話を聞いて、どう使うかを考えてデータを検討しなくてはいけないんだな、と改めて思いました。使い勝手がいいデータ形式とか、もう少し工夫できるところがあるのかな、という気もするので、黒川さん、ぜひよろしくお願いします。

黒川:いろいろな方々のご意見を参考にしていきたいと思います。私個人としては、CityGMLが未来永劫あるものだとは思っていなくて、今ある技術のなかで最も網羅的に書けるフォーマットであり、それを扱えるいろんなツールがある。いろいろなツールのいいところを最大限に活用しながら、うまく組み立ててものを作ってくださっている、という認識を持っています。一方で、未来永劫使えるものとしては、「座標って何?」、「座標参照系って何?」といった地理空間データを扱うための知識があります。これらはフォーマットやツールが変わっても変わらず使い続けられます。こうした知識を蓄積して共有し、次の世代の新しいフォーマットやツールでも使えるような世界を作っていけるといいですね。

石丸:CityGMLは日々更新しています。こういう仕様があったらいいんじゃないか、といったご意見は反映していきたいので、どしどしと聞かせてください。

黒川:PLATEAUは教育系にも活用できます。新しい高校の指導要領にも「GIS」という言葉が入りましたし、私の子どもは、夏休みの宿題の「家の近くの地形と災害の脆弱性を調べる」という課題にPLATEAUを使って提出物をつくりました。次の世代が興味をもって気軽に使っていけるようなものを作っていきたいです。

遠藤:8月に六本木ヒルズで開催されたRoppongi AR Paradeに僕はかなり刺激されたんです。六本木ヒルズを3Dキャプチャーしたバーチャルな六本木ヒルズのなかで、マインクラフトみたいに子供たちが作ったオブジェクトを走らせるイベントなのですが、まるでねぶた祭りのような雰囲気だったんです。子どもたちが自分たちの地域に自分たちのつくったものを走らせることで、教育やお祭りのようなものに活用できる気がします。外でやれば、PLATEAUでもできますよ。

内山:自治体からコミュニティーづくりに使えないか、という相談をよく受けるんです。こういうツールでたやすくビルドできて汎用的に使えるのであれば、学校のバーチャルな防災訓練にも使えたりするといいですよね。

遠藤:歴史のある場所の説明立札をPLATEAUで設置して、近くにいくとARで見えるとか。地域や教育とすごく相性がいい。

内山:PLATEAUはまだ2年目のプロジェクトで、今年もまだイニシャルの段階です。上流工程のタイミングでエンジニアの皆さんの話を聞き、開発者に寄り添ったデータやツールにして行くことは、利用を広げるうえで重要なので、こうした機会を今後も持っていきたいです。実際に手を動かしている人からフランクにここが悪い、もう少しこうしてほしい、というのは引き続き、ガンガン言ってほしいですね。

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