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松屋がオーダースーツの採寸に「BONX WORK」を導入

グループ通話ガジェット開発のスタートアップと老舗百貨店の化学反応が功奏

2021年02月22日 08時00分更新

文● 戸津弘貴 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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リコーの「オープンイノベーション」から接点のなかった両者が結びつく

 スポーツ・アウトドアで有用なグループ通話ガジェットとして始まった「BONX」は、現在は日常から業務までをつなぐ、多目的な音声コミュニケーションプラットフォームとなっている。

 ハードウェアはもちろん、音声データ活用も含めて同製品を展開するスタートアップである株式会社BONXは、さらなる事業展開を目指してリコーのオープンイノベーションに参加し、「BONX WORK」として店舗内インカムなどの利用促進を目指していた。

 一方、老舗百貨店の松屋は、重要な事業のひとつでもあるオーダースーツの採寸など接客の効率化を模索していた。過去にもさまざまな接客ソリューションを導入、テストしていた同店だが、接客における工程やユーザー体験を損なわずに効率化を図ることは並大抵のことではなかった。

「BONX WORK」は、音声とテキストを活用して各個人がシームレスにつながることにより、チーム全体の成長をドライブするコラボレーションプラットフォーム

 もともと松屋は店舗内インカムとしてBONX WORK導入を進めていたが、これをオーダースーツの採寸にも応用できないかと考え、導入ベンダーであるリコージャパンに相談し、BONX WORKをオーダースーツの接客に導入するシステム開発がスタートした。

耐ノイズ性能に強いBONXが、騒がしい場所での
音声による採寸データ入力に活かされる

 リコージャパン株式会社の、デジタルビジネス事業本部 コミュニケーションエコシステム事業推進室 事業戦略グループ 沼田宏章氏と、デジタルビジネス事業本部 事業戦略センター 事業戦略企画推進室 室長 飯村浩司氏は、BONXと実現に向けプロジェクトを始動。仕様のヒアリング、プロトタイプの作成などの上流工程はBONXが受け持ち、2019年6月よりプロトタイプでの実証実験が開始された。現場のフィードバックを受け、その後の本番環境の開発はリコーで実施され、プロジェクトスタートからおよそ半年強で導入と、極めて短期間での開発が実現した。

 沼田氏は「今までのシステム開発というと、打ち合わせを重ねて社内でテストを繰り返して現場に導入するなど、開発のスピードは必ずしも早いと言えなかったが、スタートアップ企業と歩を合わせる手法によりスピード感のある開発ができた」と振り返る。

リコージャパン株式会社 デジタルビジネス事業本部 コミュニケーションエコシステム事業推進室 事業戦略グループ 沼田宏章氏

リコージャパン株式会社 デジタルビジネス事業本部 事業戦略センター 事業戦略企画推進室 室長 飯村浩司氏

 開発過程では、BONX・リコーともに松屋のオーダースーツの採寸を体験。職人とのやり取りや接客など仕事の流れを身をもって体験することで、今までのユーザー体験を損なわないシステム開発の必要性を痛感したという。

 「人生で初めてオーダースーツを作ったのですが、オーダースーツを作るということは楽しいんだなと感じました。職人の方とコミュニケーションをとりながら採寸してもらうことは安心感にもつながりますし、その人ごとに独特の言い回しやリズム感もある。そういう流れ、ユーザー体験を崩さないよう、どうシステムで作るかを重視しました」とBONXの取締役Team Growth Scientistの楢崎雄太氏は語る。 

 クラウドファンディング発のハードウェアガジェットなど、アイディア先行で実際使ってみると使いにくい製品に出会うこともあるが、そもそもBONXのスタートはアウトドアでのスポーツの際に、仲間同士でコミュニケーションをとりたいというニーズから発展している。その開発背景が、耐ノイズ性能などに活かされており、今回も騒がしい店内での音声による採寸データの入力というものに活かされている。

 「今までのオーダースーツの接客では、職人が採寸した数値を別のアシスタントがメモしていくため最低でも2名が必要で、さらに書き取った数値を入力する人員を含めると3名必要でした。多くのオーダーをこなすには省力化、効率化が必須であり、職人ごとに異なる言い回し、用語をどのように処理するかなどで課題がありました。その点、BONXのデバイスはもともとアウトドアでの使用が想定されていたので、我々のニーズを満たすものでした。(コロナ禍となった現在では)最小人員で密を避けての採寸が求められているので、システムはそのまま使うことができています」 と答えるのは、株式会社松屋 経営企画部 システム課デジタル戦略チーム 専任係長の田中牧子氏。

株式会社松屋 経営企画部 システム課デジタル戦略チーム 専任係長 田中牧子氏

 また、株式会社松屋 経営企画部 システム課長の佐藤洋一氏は、BONXのマイクが特に重要だったと振り返る。

 「今回のシステム化に際して、さまざまな音声認識エンジンや入力デバイスを試したが、マイクがネックで実現できなかった。ヘッドセットなどマイクを工夫することで、ある程度改善できていたのですが、接客の現場に合わないなどで進めることができないままでいました。今回、BONXのイヤラブルデバイスを館内で採用したことで、認識が良くなったのに驚きました。

 明瞭に音声がとれたことは百貨店にとってブレイクスルーであり、オーダースーツのソリューション以外にも、店舗内での音声認識とアプリを組み合わせたソリューションを展開できればいいと思っています。『ワンデバイス・マルチソリューション』の中心に据えて、『音声』というキーワードで様々に派生させてゆきたいと考えています」と佐藤氏からは将来への展望も語られた。

株式会社松屋 経営企画部 システム課長 佐藤洋一氏

 BONX楢崎氏は、「もともとスキーの風切り音などのノイズを処理するなどアウトドアでの活用を想定して開発していたので、周囲のノイズと必要な音声を聞き分ける(ノイズを除去する)技術には自信を持っていました。佐藤さんがおっしゃるように、いいエンジンがあっても明瞭な音声で入力できないと十分な結果を出せないので、そこはハードウェアも一緒に開発している部分で評価いただけたと思っています」と振り返る。

BONX 取締役Team Growth Scientist 楢崎雄太氏

 BONXとしても、今回の取り組みにおいて、デバイスだけではない音声DXそのものの取り組みへの第一歩となっているという。「(音声DXなど)特別なソリューションのためだけにデバイスを採用してもらうというのは難しいので、先ほどにもあったように、インカムとして採用されるなどわかりやすい利用の仕方で慣れていただいて、その先により付加価値の高いサービスを積み上げてゆくといのが大事だと思います。その点で、今回リコーさんと一緒にできた意義は大きかったと思います」(楢崎氏)

 BONXは「bonx.io」というAPI技術をミドルウェアとして提供し、リコーでは顧客のニーズに合わせたソリューション開発をしてゆく組み方となっており、責任範囲の明確化といった面も含めて双方にとってメリットのあるものになっているようだ。

 音声ソリューションは、タブレットやスマートフォンなどが使用できない状況での入力や、逆にカメラやデータで得られた情報を出先に伝えるという「ラストワンマイル」のソリューションとしてのポテンシャルがある。リコーの飯村氏、BONXの楢崎氏ともに、音声DXへの期待が垣間見られた。

 さらに、百貨店のような古い体制に思われる業界でも、従来の関係では出会えなかったスタートアップと出会うことで、アジャイルな開発のスピード感を体験することで刺激を受け変化しようとしていることがうかがえた。

 老舗百貨店のユーザー体験とスタートアップのスピード感、テクノロジーが、オープンイノベーションを目指すITベンダーによって良い化学反応が得られた本取り組み。今までなら交わらなかったもの同士を引き合わせ、良い結果になるようまとめあげてゆく場や役割は今後より一層重要になってゆくことだろう。

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