参加ハードルが下がった国外オンライン展示会を生かす
YOXO Study Series「日本からオンライン参加できる国外イベント&コミュニティーを生かす」
横浜の関内にあるベンチャー企業成長支援拠点YOXO BOXにて、トークイベント『YOXO Study Series「日本からオンライン参加できる国外イベント&コミュニティーを生かす」』が2020年10月30日に開催された。
コロナ禍で、これまで展示会へ出展・登壇することで広げてきたコミュニティー形成が難しくなり、新たな様式を模索し始めている。そんな中でオンラインでの開催が増えてきており、渡航が難しい海外でも参加可能という状況になってきている。ただ、従来のイベントとは違うため、参加を断念したり、参加しても活かせなかったという人も少なくないはず。
そこで今年、国外で行なわれたテクノロジーイベントへ日本の企業のオンライン出展サポートなどを行なっているJETROのイノベーション・知的財産部スタートアップ支援課の深澤竜太氏、国外のイベントに参加した株式会社bajji(バッジ)の小林慎和代表取締役をゲストに、イベントへの参加から活用法、さらにグローバル企業のアクセラーレータープログラムへの参加やプラットフォーマーのサービス、アクセスしやすくなっているコミュニティーの現状について語るトークイベントを開催した。ナビゲーターはASCII STARTUPのガチ鈴木が務めた。
まずは、日本貿易振興機構(JETRO)イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課の深澤竜太氏が登壇。JETROの支援活動や海外イベントのオンライン参加事例、活用方法について語った。
海外展示会へのオンライン参加の現状と課題
JETROのスタートアップ支援は、海外の展示会や商談会への参加機会を設けることに加え、海外のアクセラレーターと提携したメンタリングのプログラムなども提供。アメリカ、欧州、アジアと世界中でサポートし、スタートアップの海外展開の後押しをしている。
また、海外のエコシステムが盛んな地域27都市のアクセラレーターとJETROとが提携し、一緒になってサポートも行っている。
しかし、今年はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響により、次々とイベントが中止。そのため積極的にオンラインのイベントに参画していくこととなった。そこで、「Collision from Home」と「TechCrunch Disrupt」の2つのイベントにJapan Pavilionを設け、両方とも10社程度のスタートアップが参加した。
Collisionは、主催者が独自に開発したアプリ、プラットフォームでの参加形態で、スマホだけでなくPCでもウェブアプリとして動作。トークセッションは3チャンネル設けられ同時配信されており、リアルタイムでコメントやリアクションをつけられる。そのほか、過去のイベント動画や企業ページの閲覧ができ、参加者同士でのチャットやビデオ通話も可能だ。
このイベントで特徴なのが、来場者と参加者同士がランダムに3分間話ができる機能が備わっていた。リアルなイベントであったようなブースでちょっと立ち話をするという感覚で、もしより深い話をしたければ、ミーティングをセットすればいい。
一方Disruptは、オンラインイベントプラットフォームであるHopinというスタートアップ企業のサービスを利用。日本でいうところのEventHubに近く、そのほかに主催者独自のマッチングツールも活用する形で行われていた。Collision同様にランダムで来場者とつながって会話する機能もあり、「マッチングツールがある分、より商談に結び付きやすかったのでは」と深澤氏は語った。
このように、従来のリアルなイベントとはかなり形式は異なるが、オンライン参加のメリットとしては、出張不要でその分の経費が減ることと、かける時間も削減できるということ。逆にデメリットとしては、北米や欧州だと現地との時差があるために、コミュニケーションに大変な点もあるということだ。また、偶発的な出会いがなくなるため、ランダムでマッチングする機能があっても、良い商談に繋がるのは難しいと感じているという。
さらに、主催者によって提供されるプラットフォームが異なるため、それに慣れるのも苦労するポイント。今回、サービスが利用できるようになったのが、イベントの数日前だったということもあり、参加にあたってその点はあらかじめ認識しておく必要がある。深澤氏は「どのツールが使われるか、どんな機能があるかによって、どのような商談ができるかが左右されてしまう可能性があります」と語り、どういうツールが効果的なのか、イベント主催者も今後試行錯誤・検討をしていくだろうと述べた。
プラットフォームをどのように活用すべきか
次に、KickstarterやIndiegogoといった海外のクラウドファンディングのプラットフォームについて。もともとオンラインベースのためコロナ禍の影響は薄いが、JETROとしても、日本のスタートアップのサポートに向けて、動いているという。
実際にIndiegogoでは、ハードウエアスタートアップの販路拡大、アーリーアダプターを獲得するという手段として、英語圏では欠かせないツールとして確立されている。これまで日本のスタートアップにとって難点だった、米国での銀行口座を持っていないと利用できない点が2020年12月から緩和され、米国での銀行口座を持っていなくても参加できるようになるという。
そのためJETROとしても、Indiegogoとジャパンキャンペーンとしてコラボするとした。「クラウドファンディングによって、世界中の方からの資金調達やアーリーアダプターの獲得につながるため、このツールを活用することは、今後の海外展開にも重要になってくると感じています」と深澤氏は語った。
パネルディスカッション「国外オンラインイベントの活用例」
ここからは、実際にオンラインイベントへ参加したスタートアップ企業の1つ、株式会社bajjiの小林慎和氏にもオンラインで参加してもらい、実際に経験しての成果と課題についてディスカッションが行なわれた。
まずは、企業の紹介から。株式会社bajjiは、2019年4月に設立。現在は感情日記SNS「Feelyou」というプロダクトを手掛けている。コロナ禍において孤独になっている人がたくさんおり、孤独になるとメンタルを病んでしまうため、孤独を解消するようなアプリがこのプロダクトだ。
COVID-19により外出できない状況の中で生まれたプロダクトで、7月現在で100ヵ国のユーザーが利用しているとのこと。そのうち欧州が70%を占めており、外出禁止令の深刻さが伺える。地球上には数十億人の人が孤独を感じていると考えられていて、3年間でユーザー数を2000万人に増やす計画だとした。
ほかにも、ブロックチェーン技術を活用して、人と人との関係性を見える化するビジネスSNS「bajji(バッジ)」のサービスも手掛けている。
オンラインイベントのメリット・デメリット
――さっそくですが、オンラインイベントのメリット、デメリットについて実際に参加されて気づいた点を教えて下さい。
小林氏 オンラインイベントのメリットは、まずその場所に行かなくていいことです。特に海外の場合は、早朝にアメリカのイベントに出て、その日の夜中にヨーロッパのイベントに出るということもありました。渡航費がかからないので、応募しまくれます。デメリットとしては、やはり現地に行きたいときもあるので、それが行けないのが悲しいことかなと思っています。
深澤氏 先ほど紹介したイベントは、アメリカの午前中だったので、日本だと深夜になって大変でした。費用がほぼかからないので楽に参加できますが、日本のビジネスを回しつつ海外の時間帯でもやるとなると、参加されるスタートアップ企業の皆さんも結構対応で大変になっていた印象です。
――参加するに当たって、会場のほうも考えてもらいたいところはありますよね。
深澤氏 主催者としてどこの地域に重点を置くかによって、開催する時間帯を考えているとも感じました。小林さんは、JETROでもサポートしてオンラインのイベントに参加していただいていますが、日本での仕事とイベントとの両立はどう感じていましたか?
小林氏 アメリカのイベントはいちばん時差がつらいですね。メインが夜中の2時から6時ぐらいなので。前の晩はふつうに家でお酒を飲んだりして、その上で夜中の3時に起きてピッチをするという、何しているんだろうと思うときもありました。
深澤氏 あとは、セレンディピティ。実際にブースで会うのとは違い難しいと感じましたが、その点はいかがでしょう。
小林氏 (難しいと感じたのは)イベントのアプリやサイトのつくりですね。各イベントごとにまったく違うため、どこにどんな機能があるのか、慣れる前にイベントが終わってしまう感じでした。イベントごとに毎回違うのは、なかなか大変でした。
ピッチ登壇の経験と成果は?
――次に、実際にイベントでピッチに登壇されて、感じたこと、どんな成果ややり取りがあったなどのお話をお聞かせください。
小林氏 私が経験したピッチには2つのパターンがあり1つは録画タイプです。録画したものを事前に送っておき、イベントの当日に流しています。もう1つはライブでちゃんとその時間にピッチするというタイプです。
録画タイプの場合は、3分限定でピッチ動画送ってくださいとなるので、何度も撮り直して送れ、緊張しなくてすむメリットがあります。ピッチのあとに行なうQ&Aはライブになります。そこはオンラインミーティングのような感じで、登壇者と聞きたい人が、そこの場所に参加して始まるという、何か新鮮な気がしました。
一方ライブのほうは、夜中2時に起きてしゃべる必要があり、リアルタイムで画面上に何人が視聴しているか数字で確認できます。ただ、観客が見えないので、基本一人で話している感じです。そういう意味でいうと、やりやすいかなと思います。
成果としては、面白かったのが、サンフランシスコのピッチイベントのあと、連絡を取ってきた人はロンドンの人でした。どのイベントも観客は世界中なので。アメリカのイベントはアメリカとつながる、ヨーロッパのイベントはヨーロッパとつながるだけではない、そういう面白さがあるかなと思います。
――ピッチは録画で行なうこともあるんですね。
深澤氏 そうですね。事前に録画してそれを主催側が取りまとめて流したあとに、Q&Aだけライブで対応する形式が、最近しばしば見られます。ネットワーク接続などの問題が発生することがあるので、ピッチ自体はきちんとビデオ収録のものを流し、Q&Aは映像・音声繋げてリアルな感じを出しているのかなと思います。
――実際、ピッチを見られた方からのフィードバックとか何かありましたか?
小林氏 フィードバックは結構いただいています。メディアの取材ですとか、VCの方とつながるということがありました。
――録画したピッチは、タイムスケジュールがあってその時間に流れるのか、オンデマンドみたいにずっと見られるのかは、イベントによって分かれるんですか?
深澤氏 小林さんにも参加いただいたDisruptでのピッチは、ウェブサイトに上がっていて、今でも見られます。これはライブだったので、その時録画されたものがあがっています。ものによって多分、誰でも見られたり、チケット購入者しか見られないとかの制限があるとは思います。
――海外のイベントのピッチって、終了後に起業家の方が囲まれてビジネスカードの交換タイムになりますが、それよりもワン・オン・ワンのミーティングが組めたほうが、その後につながる可能性も高まるかもしれませんね。
深澤氏 それはあるかもしれません。ただ、実際にオーディエンスが目の前にいない中で、ピッチをするというのは、やりにくいのでないかと。結構ピッチって会場の雰囲気に乗るという印象があるので。そのあたり、小林さんいかがでしょう。
小林氏 私の場合は、大勢の前でプレゼンするほうが盛り上がるので好きなんです。ですので、物足りなさは感じました。
――いまわれわれも目の前に誰もいない状態でしゃべっているので、同じ状況なんですよね。毎週やっていると慣れてきましたが。
小林氏 もう1つ面白かったのが、TechCrunchは、本番のピッチまでの2ヵ月間、週1回ミートアップイベントを開催していたんです。日本だと夜中3時から4時半の1時間半でしたが。そこに出ると何が起こるかというと、誰でもピッチチャンスがあるんです。世界中からいろいろな人が集まってきて、ピッチをしたい場合は、手を挙げるボタンを押しておくと、早い者勝ちで順番にピッチが回ってくるという。そういうイベントが合計で4回ぐらいありました。
深澤氏 オンラインだからこそ会期より前のイベントであっても参加できて、かつ、いろんな人からピッチへのフィードバックをもらえるチャンスがありました。現地にいれば、滞在期間中にシェアオフィスやインキュベーション施設でミートアップイベントを開催するでしょうが、前もってこうした機会が広く開かれているというのはオンラインのいいところだと感じます。
――イベントに乗じて、周辺でミートアップイベントを開催するというのは、SXSWなんてまさにそうだったと思います。それがオンラインなら、いろんなところに顔を出せるようになるので、積極的な人間にはどんどんチャンスが広がるじゃないかと思います。
リアル・オンラインとハイブリッド化するイベントの活用法とは
――リアルとオンラインで、ハイブリッド化するイベントをどう活用していくのか、スタートアップはどう活用していけるのか、深澤さまいかがでしょう。
深澤氏 JETROとしては、ここまでお話したようなことをサポートとしてやっておりますが、まだ試行錯誤を繰り返している最中です。
例えば農林水産食品を扱っている企業のサポートで、オンライン商談をセットしたり、海外バイヤーに日本の産品を見てもらうためにライブ中継をしたりするなどやってきました。こうした展示会やイベントは、そもそもオフライン参加が主だったのですが、オンラインで何ができるかと色々な取り組みをしながら、徐々に適応してきています。
個人的には、パネルディスカッションセッションの視聴や、さまざまな大手企業が新たなプロダクトを発表する場などは、オンラインでもいいと思っています。ただ、実際に出展や商談になると、オンラインはどうしてもセレンディピティが生まれにくい環境なので、今後オフラインとオンラインを上手く組み合わせたイベントが生まれることを期待しています。
こうした状況を上手く解決するツールを開発するスタートアップが、もしかしたら出てくるかもしれませんね。
――Web SummitとCollisionのアプリについてもご説明いただければ。
深澤氏 イベントの参加者に対して、「ネットワーキング用にこのアプリもあるのでぜひ活用ください」というケースはよくありますが、アプリを使う人もいれば使わない人もいます。
Web SummitやCollisionで特殊なのが、そのアプリを入れないと入れないため、参加する人全員がアプリを使うことになります。そのため相手の連絡先も分かるし、すぐチャットもできるというメリットがあります。
Web Summitのときは、会期の1ヵ月程度前からアプリを開放しているので、参加されたスタートアップで積極的な方は、かなり先んじてメッセを送ってアポを取り付けることをやっていました。
Collisionのときはオンライン移行等の準備もあって、主催者によるアプリリリースが遅れましたが、12月のWeb Summitではそのあたりも改善されてうまくいくと期待しています。
――返事が来るか来ないかは相手次第ではありますが。
深澤氏 内容次第かもしれませんが、平等にチャンスが与えられている印象はありました。まさにアプリを持っていたイベントは、そこは強みでしょう。ハイブリッド化に向けて、他のイベントもアプリ開発に力を入れていくかもしれませんね。
――小林さまの場合は、リアルとオンラインのハイブリッド化した場合、スタートアップ企業として、どう活用をしていくのかお伺いしたいです。
小林氏 リアルのイベントが、これからもしあるならば、やっぱり行きたいですよね。ただ、どこへ行くかの選択が始まるかなと思います。逆に海外のイベントに10個応募していて、10個リアルで通ったら、10回海外行かなければならなくなります。そうするとお金が足りなくなるので、リアルは「これは」という、より選別されるかなと思います。
オンラインの場合は、場所は関係なく時間だけの問題なので、とにかく、まず応募しようと考えるでしょう。
深澤氏 今後しばらくはオンラインも併せてやると思うので、オンラインだけでも参加するものと、「これは行きたい」ものはリアルで、というような選び方ができるかもしれません。幅が広がる分、それは良いことだと思います。
――最後に、小林さま一言お願いいたします。
小林 自分自身でこれだけの短期間に、海外のいろんな国のイベントに応募したり出させていただいたりして、すごく世界が狭くなったなと感じています。これはアフターコロナならではだと思うので、ぜひ皆さんどんどん応募し、参加してみてはいかがでしょうか。
――ありがとうございました。