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Startup Factory構築事業 第9回

必要なときに自宅近くの“空間”を作業場に

働き方を変える、コネクティッド・ロック活用の空間サービス「TiNK」が

2020年12月03日 09時00分更新

文● 飯島範久 編集●ASCII STARTUP

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 経済産業省が、ハードウェアをはじめとした独自のプロダクトの量産に向けたスタートアップ支援「Startup Factory構築事業」。そのなかで、昨年度からスタートした「グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業費補助金(ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業)」の本年度採択事業者が、執行団体である一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)による審査の結果、9つの事業者が選ばれた。

 そこで6回に渡り、採択された6つの事業者をピックアップ。「スタートアップ×ものづくり」の意気込みや課題、将来の展望について伺った。5回目の今回は、コネクティッド・ロック「TiNK」を開発し、空間のSaaSプロダクトであるワークスペース「TiNK Desk」や「TiNK Office」の展開を目指している株式会社tsumugだ。代表取締役社長の牧田恵里氏にお話を伺った。

空間サービスを始めるために、まずは鍵の開発から

お話を伺った代表取締役社長の牧田恵里氏

 ものづくりスタートアップの支援を2期連続で採択された株式会社tsumug。前回はコネクティッドロック「TiNK」の量産化にともなう開発や品質の向上といったハードに紐づく課題解決が中心だったが、今回は「TiNK Desk」や「TiNK Office」などといった空間サービスを展開するにあたっての、ソフトウェア開発や実証実験などの課題解決となっている。

 tsumugは、2015年12月に東京・秋葉原にあるDMM.make AKIBAを活用して設立。現在サービス展開をしている「TiNK Desk」や「TiNK Office」などといった空間サービス事業を手掛けたかったのだが、その事業を始めるにあたって不可欠なプロダクトがなかったため、まずはプロダクト開発からスタートした。

 そのプロダクトというのが、コネクティッドロック「TiNK」という鍵デバイスである。ただ、その鍵の仕様を考えたキッカケがびっくりする。「実は同居していたときに、相手側にスペアキーを作られ、不在中に不法侵入されていたという経験があったんです。物理的な鍵だと、利用の履歴を可視化できません。侵入にも気付けず怖い思いをしたので、そんな不安を払拭するにはどうすればいいか考えた結果、要求するプロダクトがほかになかったので、それなら自分たちで作ろうと思いました」と代表取締役社長の牧田恵里氏は語った。

tsumugが開発した本格錠「TiNK」。この鍵を活用することで空間サービスを実現している

 DMM.make AKIBAで創業したのも、プロトタイプが作りやすい環境だったためだ。プロトタイプも完成し次にフィールドテストの実施を検討していたとき、福岡市がスタートアップ支援を積極的に行っていることを知った。事業のための実験的な規制緩和など、スタートアップでもチャレンジできる土壌があることを知り、そのまま拠点を福岡へ移しっている。後に、福岡市主催の実証実験フルサポート事業にも採択された。現在も東京BASEとして渋谷に拠点はあるが、本社は福岡市天神駅近くである。

 「TiNK」には3つの特徴があり、1つがLTEモジュールを内蔵しており、鍵単体で通信可能なため、ネット接続の設定が不要で利用できるところ。2つ目に現在ある錠前に補助的に付けるものではなく本格錠であること。3つ目に、カスタマイズ性が高いシステム設計で、ほかのサービスと連動できるようAPIベースの構成になっているところ。鍵として柔軟性が高くなり、さまざまなサービスと連携して使えるよう、シェアリングキーというシステムも作っているという。

 「たとえば、初期のメルチャリの鍵もtsumugで作っていました。ほかにも企業からの依頼で、電子錠と連動させて使えるようにして納品したり、フラッパーゲートと連動した鍵などを納品しています」(牧田氏)

 そしてこの鍵の仕組みを使った空間サービス「TiNK」を提供している。空間サービスとしては大きくわけて2つのサービスがあるという。

 「1つは、リモートワーク環境に対応したデスクの時間貸しをするサービス『TiNK Desk』、そして空室物件など遊休空間を活かし、空間全体を1企業やプロジェクトメンバーと専有して使える空間サービス『TiNK Office』を展開しています」(牧田氏)

 「TiNK Desk」は、個人の方が集中して作業できる働く場所(デスク)を時間貸しするサービスだ。使い方はシンプルで、まずLINEで「TiNK Desk」のアカウントと友だちになり、近くの拠点を検索し、利用できるデスクを予約するだけ。利用開始時間となると鍵のボタンが表示されるので、現地でタップすれば解錠されて入室でき、デスクワークが可能となる。利用終了時には、使ったぶんの料金をLINE Payで払えるため、すべてがLINE上で完結できるシステムになっている。決済に関しては今後ほかの決済系を増やす予定だという。

一部屋にいくつかのデスクが用意され、デスク単位で利用。ミーティングルームタイプもある

 牧田氏はLINEを採用した経緯について「プロダクトを開発していると、リソースの配分が難しい。オリジナルのUI/UXにこだわりたいが、時間もかかる。ユーザーさんが普段から使っているサービスなら、わかりやすく利用しやすいのではと考えました」と語った。

「TiNK Desk」を利用するためのLINE友達登録用QRコード

 一方「TiNK Office」は、席だけでなく、空間全体を専有できる空間サービスだ。企業が分散オフィスとして利用することを想定し、実際にそこへ従業員が出社しているのか、どれぐらい使っているかなど、利用状況をシステム上のダッシュボードで確認できるようになっている。利用料は月単位だ。

 さらに企業が利用している予約管理ツールやグループウェアなどとも連動可能で、たとえばマイクロソフト365やG Suiteから施設の予約ができ、従業員が会議室を使うような感覚で、自宅近くの拠点を使うという使い方ができるのが特徴である。

 「この空間サービスの共通する長所は、これまでシェアオフィスと違い、自宅から徒歩や自転車で行ける範囲に自分の書斎を拡張する感覚で拠点を持てることなんです。採用拠点として地方に一時的に借りたいとか、クライアントの現場近くに3ヵ月間だけ使うオフィスとして使いたい、いまはやりのワーケーションとして利用したりなど、さまざまな用途で活用できます。最近は、学生の利用率が上がっていて、家でオンライン授業を受ける環境がない人が利用したり、論文を読むためだけにTiNK Deskを借りている人もいます」(牧田氏)

 コロナ禍でテレワークが一気に広まったが、自宅で作業するというのはオン/オフをつけづらい。この空間サービスを利用することでメリハリもつき、家族に邪魔されることなく仕事が捗るはずだ。

 福岡で実証実験を行なっている1つの理由として、ホテルの客室稼働率のアップがある。「福岡のホテルは、主に観光客や出張客で成り立っているのですが、現在、コロナの影響もあり空室に課題を持っているホテル事業者の方の声が寄せられています。そこで、部屋にあるベッドを机に替え、大規模な工事なくミーティングルームにしたり、TiNK Deskとして稼働させている事例が増えてきました。」(牧田氏)

 またこの空間サービスは、シェアオフィスと違い「TiNK Office」として企業が利用しても、稼働していない時間帯は「TiNK Desk」として活用できるメリットがある。空間を最大限、有効活用していきたいと牧田氏は考えている。

 今の課題としては「資金調達はもちろん、tsumugはこれまで開発が中心の会社でしたが、これからはサービスを運用するメンバーをもっと増やす必要があります。みなさんにどんどん活用していただきたいですね」と語る牧田氏。

 現在は、まだ利用できる拠点は限られているが、今後どんどん増やしていく予定だ。「むしろ、TiNK DeskやTiNK Officeは自分たちで使いたいサービスだからこそ、やっていきます。tsumugの拠点を増やすときはTiNK Officeを増やしていく考えです。利用しているメンバーが『オフィスが街に溶け出している感覚ですよね』という意見を聞いてなるほどと思いました。これまで都心に一極集中してきたものが、もっと日本中に広がっていく感じになるのではと考えています」と牧田氏。

 2033年には日本の住宅の空室率だけで全国平均で30%を超えると言われているが、牧田氏はそれをネガティブに捉えず、「世界に先駆けて空室という資源が増えていく国に住んでいると捉えています。この資源を活用しまくれるんですよ」とポジティブな発想をしている。新型コロナウイルス感染症によって新たな社会を構築する必要に迫られているいま。この空間サービスが新たな社会にマッチすることは間違いない。

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