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京大発の素材ベンチャーがガス業界に革命を起こす

ガスボンベがキューブになる未来 小型軽量の次世代Gas as a Service「Cubitan」が持つ可能性

2020年08月24日 08時00分更新

文● 松下典子 編集・聞き手●北島幹雄/ASCII STARTUP編集部

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 Atomisは、多孔性配位高分子(PCP/MOF)に特化した京都大学発ベンチャー。社名の「Atomis」とは古代ギリシャ語で気体の意味。気体を自在に操れる多孔性配位高分子の特性を活かし、新たなサービスやアプリケーションの創出を目指している。現在、取り組んでいるのは、コンパクトで扱いやすいガス容器を用いた次世代ガスボンベ供給サービス「CubiTan」だ。CEOの浅利 大介氏に、CubiTanの概要と実用化までの計画を伺った。

多孔性配位高分子の社会実装を加速させるため、量産技術はあえてオープンに

 多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)は、京都大学の北川進教授が1997年に世界で初めて開発した新素材だ。有機配位子や金属イオンを組み合わせて連続的な三次元構造を形成し、穴のサイズをナノレベルで自在に設計できるのが特徴だ。また、多孔性配位高分子は柔らかい結合なので、温度や光、圧力などによって穴の大きさを変えることで、気体の分離などに利用でき、大気中のCO2を吸着して回収するカーボンリサイクルへの活用も期待される注目の新素材だ。

 多孔性配位高分子の関連スタートアップは年々増え続けており、現在は世界に21社。株式会社Atomisにもこれまで43社から素材の開発依頼がきており、食品、医薬品、化学、エネルギー、環境ソリューション、半導体、電機、建材、宇宙開発など幅広い産業での活用が検討されている。

 多様な価値が期待される多孔性配位高分子だが、これまで実用化に至らなかったのは、製造コストが高く、量産化が難しかったのが理由だ。高分子の合成には液相合成法を使うのが一般的で、溶媒の価格が高いことから、1キロあたり1000万円~1億円かかっていた。同社は「固相合成法」という独自の合成方法を開発し、1キロ当たり数千円という低コストでの量産化を確立している。

 ただし、一般的な素材ベンチャーと違うのは、材料自体を製造販売するのではなく、製法を大手企業へ提供し、製造は大企業に任せている点だ。

 「大企業には資金力、原材料の価格競争力、品質管理などのノウハウがあり、ベンチャーよりも圧倒的に早く安く作れます。この素材を早く社会実装するため、大企業に製法をオープンにして、どんどん製品化してもらおう、というのが我々のスタンスです」と浅利氏。

 現在の同社の売り上げは、この量産化技術や設計技術の提供による収益が中心。そして、この売り上げを資金減に、新たなコアビジネス展開を進めており、そのひとつが次世代ガスボンベ供給ビジネス「Cubitan」だ。

軽量・コンパクトなキューブ型の次世代ガス容器「Cubitan」

 高圧ガス業界は、主要ガスメーカー4社に対し、産業向けの高圧ガスディーラーが国内1500社、プロパンガスでは2万社ものサプライチェーンが存在する。このガス業界が抱える課題が、少子高齢化による配達人材の不足だ。100年間変わらず、昔ながらの金属製のガスボンベがずっと使われており、70キロ近い重さのガスボンベを高齢のドライバーが抱えるのは厳しく、若者は危険でキツイ仕事には就きたがらない。また、その重さと大きさから配送コストや基地局の維持費が負担になっている。さらにはデジタル化も進んでおらず、メーターの計測も目測に頼っており、何かと非効率だ。

 これらの解決策として同社が開発したのが多孔性配位高分子を使ったキューブ型のガス容器「Cubitan」だ。Cubitanは、1辺29センチのキューブ型の容器で、多孔性配位高分子のガス圧縮技術により、高さ150㎝、重量60キロの高圧ガスボンベと同量のガスを圧縮貯蔵できる。重さは約10キロと軽く、積み重ねも可能だ将来、物流が自動化したときにロボットで運びやすいというメリットもある。さらに、GPS、ガスメーター、温度、Wi-FiといったIoTモジュールを搭載し、遠隔で在庫管理やガス漏洩管理、省エネの可視化ができるようになる。

多孔性配位高分子でガスをコンパクトに圧縮貯蔵できる次世代高圧ガス容器「Cubitan」

Cubitanは自社開発せず、ガス容器、バルブ、ケース、IoT機器はそれぞれ外部のパートナー企業に製造を委託

 ボンベは販売せずにリースで貸し出し、サービスの月額使用料を得るビジネスモデル(GaaS:Gas as a Service)を想定している。IoTから得られるデータを活用すれば、ガス会社やディーラーだけでなく、一般の顧客にも何らかの新しいサービスを提供できそうだ。当面は既存ガス向けだが、将来的には、バイオマス由来のメタンガス、再生可能エネルギーの余剰電力から得られた水素ガスをこのボンベに詰めて、エネルギーをパケット化し、活用していくのが狙い。また新しく構築されるサプライチェーンを使って、家庭の余剰エネルギーのシェアリングにも使えるかもしれない。

 なお、製品自体はすでに完成しているが、実用化にはもう少し時間がかかりそうだ。というのは、現行の高圧ガス保安法では、ガス容器の中に異物を入れることができず、同社の基本技術であるガス吸着剤を入れると対象外になってしまうからだ。そこで、現在は容器だけの認可を申請中で、年内には実証実験を開始する予定。法改正後に改めて、ガス吸着剤を含めた容器として認可を申請し、2023年からの発売を目指しているとのこと。

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