ホンダのEV二輪「BENLY e:」と、見直されるバイクの価値
ビッグデータ活用の管理システム「HONDA FLEET MANAGEMENT」
ホンダの電動二輪車「BENLY e:」
「バイクの価値は、体験をもたらしてくれるところ。たとえばコーヒーを飲みに行くのでも、バイクで行くと、『バイクで行って、コーヒーを飲んだ』という思い出になる」と話すのは、ホンダモーターサイクルジャパン 経営企画室の山本 祐司氏だ。
ホンダモーターサイクルジャパンは、2020年の4月に電動二輪車「BENLY e:」を発売。新聞配達店や、小売店の配達用として広く活用されている「BENLY」シリーズをEV化したモデルであり、原付一種の「BENLY e: I プロ」と二種の「BENLY e: II プロ」を、それぞれ73万7000円で、主に法人向けに販売中だ。
給油は不要で、交換式のバッテリーで駆動。BENLYの特徴でもある、取り回しのいいサイズ感はそのままに、環境性能に優れた電動システムを内蔵した。
商品自体にも魅力があるが、BENLY e:は、単に人気モデルのEV化というだけでなく、今後のホンダの戦略にも関わってくるマイルストーン的な意味も兼ねたモデルとなる。
バイクは売れているのか
日本国内では、1980年代に信じられないほどバイクが売れていた「バイクブーム」と呼ばれる時期があった。たとえば、1982年の国内のバイクの販売台数は、328万5000台にも登ったという。
最近では、道を走っていてもバイクを見かける機会は減ったように感じるが、それは気のせいではない。2018年の国内の販売台数は36万9000台とされ、ブーム時に比べれば、明らかに数は減っている。
しかし、ホンダモーターサイクルジャパンでは個人がレジャーとして楽しむ「趣味用途のファンバイク」と、主に配達に使われる「ビジネスバイク」には底堅い需要があり、この価値は消えないものであると説明する。
BENLY e:で連携可能な機能として、今夏にも提供が開始される予定の「HONDA FLEET MANAGEMENT」は、次世代のビジネスバイクの可能性を予感させるものだ。
HONDA FLEET MANAGEMENTは、ひとことで表せば、二輪車向けのクラウド型運行管理システムである。ホンダモーターサイクルジャパンでは、このシステムの開発において、クラウド型の車両管理システムを開発するスマートドライブと協業。
ユーザーはスマートバイクであることを特別に意識することなく、管理者は、従業員の位置情報の把握、長時間労働や私的利用の可視化、車両/業務管理の効率化が可能になるシステムに仕上がった。
具体的には、リアルタイムでのバイクそれぞれの位置情報を1画面で可視化したり、急ブレーキの位置を記録しておき、危険走行の防止に役立てたりといったことが可能だ。また、バイクを使用した日時、場所、距離、経路なども自動で記録され、データベース上で管理できる。
HONDA FLEET MANAGEMENTが利用できるのはBENLY e:だけというわけでなく、「BENLY」シリーズ、「スーパーカブ」シリーズ、「ジャイロ」シリーズでも、専用のリプレイスメントパーツを装着することで、利用ができる。すでに業務用車を複数所有している企業でも、経費を抑えた導入が可能だ。
コネクテッドバイクの可能性
個人向けにも複数の取り組み
ホンダモーターサイクルジャパンは、HONDA FLEET MANAGEMENT搭載車のような「コネクテッドバイク」の魅力を、個人ユーザー向けにも広めていきたい考えだ。現在同社では、ホンダ製バイクのオーナー向けのアプリを開発中。ここにも、コネクテッドバイクから取得したデータを活用し、ユーザーのバイクライフに新たな価値を届けていきたいとする。
たとえば、燃費効率のいい運転支援や、予測分析によるメンテナンス案内といったドライバー支援/コーチングが挙げられる。
「移動と暮らしの進化をリード」することが目標
同社は、「移動を含んだ世の中が合理的になるほど、『こだわり』に感動やありがたみが生まれる」と分析。今後もスマートドライブとの協業を続け、両社の進化をユーザーに還元し、すべての人にとっての「移動と暮らしの進化をリード」したいと話す。
また同社からは「趣味用途のファンバイク」と「ビジネスバイク」には底堅い需要があるとの言及があったが、個人的には、現在世界で最大のトピックである「ウイルスとの戦いや共存」は、バイクでの移動が見直されるきっかけになり得ると感じた。
宅配サービスの需要増に加えて、密閉空間を避けながら、普通自動車に近いか、変わらない速度で移動ができ、かつ、移動そのものがビッグデータを活用した次世代の移動の進歩につながるとなれば、「バイクを使ってみようか」と考える人も、自ずと増えるはずだからだ。今後のHONDA FLEET MANAGEMENTの動向と合わせて、バイク需要の変化にも注目したい。