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北海道・札幌が未来に近づく5日間「No Maps 2019」レポート 第16回

NoMaps 2019 セッション「北海道宇宙ビジネスサミット」レポート

宇宙ビジネスはなぜ盛り上がっているのか?北海道から探る新たなエコシステム

2020年01月11日 07時00分更新

文● BookLOUD 根本 編集● 北島幹雄/ASCII STARTUP

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北の大地で宇宙ビジネスに取り組むバラエティに富むプレイヤー達

 本セッションでは北海道で活発に活動している宇宙ビジネスのプレイヤーが、北海道における宇宙ビジネスを発展させるには何が必要か、どのような宇宙産業のエコシステムを築いていくのかなどといったテーマで議論を戦わせた。セッションに参加したのはインターステラテクノロジズ 代表取締役社長 稲川貴大氏、同社取締役 堀江貴文氏、北海道大学 公共政策大学院 鈴木一人教授、さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 田中邦裕氏、ポーラスター・スペース 代表取締役 三村昌裕氏の5氏、モデレーターは一般社団法人 SPACETIDE 理事兼COO 佐藤将史氏が務めた。まず各登壇者が現在、どのようなモチベーションを持って、どのような形で宇宙ビジネスに取り組んでいるのかというところから話が始まった。

モデレーターを務めた一般社団法人 SPACETIDE 理事兼COO 佐藤将史氏

佐藤(以下すべて、敬称略):SPACETIDEは宇宙ビジネスをテーマにカンファレンスやネットワーキングイベントを開催しており、その知名度を高め、エコシステムに参加するプレイヤー同士をつないでいる。

 現在、宇宙ビジネスに乗り出しているベンチャー企業は全世界で2000社くらい。年間数百社ほどのペースで増えていっている。市場規模は世界全体ですでに40兆円程度まで達していると言われている。2040年には100兆円~300兆円になるという推計もある。世界60カ国以上の政府が宇宙開発を目的とした機関を設立しており、その半数くらいが宇宙ビジネス企業を育てていこうという動きを見せている。

 宇宙開発というと「ロケット」というイメージがあるが、それだけではない。ロケットを作り、それで衛星を運び、衛生が送信してくるデータを使って地上でビジネス展開している。今後は、例えば衛星ごみの処理、衛星位置の調査サービス、資源開発、そしてモノだけでなく人間が宇宙に行く宇宙旅行などもこれからのビジネスになるだろう。

 現在日本では、国が主導権を握って宇宙開発を進めており、政府の下に大手企業があり、その下に下請けとなるサプライヤーがいるというピラミッド構造を作っている。これからの宇宙ビジネスを発展させるには、異業種企業やコンサルティングファーム、法律家などを交えたフラットな構造で、政府と民間が手を組む新しいエコシステムを構築していかなくてはならないと考えている。

 ここに300名を超える聴衆が集まったことからもわかるように、「宇宙ビジネス」という単語はすでにバズワードと化している。壇上の皆さんは宇宙ビジネスの先駆者として活動しているが、聴衆の皆さんとの間には、「宇宙ビジネス」という言葉の意味においてもギャップが生じているのではないかと感じている。そこでまず壇上の皆さんから、その感触、なぜ今「宇宙ビジネス」が盛り上がってきているのか、意見をお聞きしたい。

インターステラテクノロジズ 代表取締役社長の稲川貴大氏

稲川:インターステラテクノロジズは、北海道広尾郡大樹町に本拠を置いて宇宙に打ち上げるロケットを開発している。現在は弾道飛行(衛星軌道で周回せずに地表に帰ってくる)の小型ロケット「MOMO」の打ち上げに成功し、技術検証ができたところ。今後はMOMOで宇宙の輸送業を商業化すると同時に、軌道投入ロケット「ZERO」の開発を進めていく。

インターステラテクノロジズのロケット「MOMO」と「ZERO」

 我々のモチベーションとしては単純にロケットを打ち上げると感動する、というものがある。それはもう人生観が変わるくらいある。しかしモノづくりは非常に泥臭い。ロケット1つを打ち上げるのに100億円ほど必要だ。もともとロケット(による輸送業)はインフラ業であり、それを安く提供して使うお客さんが増えると仕事が増える。そういうモチベーションで宇宙ビジネスに取り組んでいる。

インターステラテクノロジズ 取締役 堀江貴文氏

堀江:かつてのインターネット業界と比べても、今の宇宙ビジネスはさらに曖昧模糊としている。それはみんなが勉強していないから。勉強すればしっかりとしたビジョンが見えてくる。

 インターネットの時もそうだったが、曖昧なままにしているだけではだめで、インフラを作る人がいて、Yahoo! BBが橋渡しをして、3G、4Gが出てきて、iPhoneが出てスマホができて……そういう泥臭いことをやる少数の個人が支えてきたからこそ、現在インターネットが普及し、みんな恩恵を受けている。

さくらインターネット 代表取締役社長 田中邦裕氏(左)

田中:さくらインターネットでは、ユーザー登録すればだれでも無償で、日本の衛星が収集しているデータを利用できる「Tellus(テルース)」というデータベースを運営している。その過程で集まったビッグデータから新たな価値を生み、衛星データを中心としたエコシステムづくりを狙いたいと考えている。

 「衛星を打ち上げる話」と「衛星を作る話」と「データを活用する話」はそれぞれまったく違う。ビジネスの話には「儲かる話」と「誰かがやりたいと思っている話」の2つしかない。「我々のロケットを打ち上げる話」は「やりたいと思っている話」だが、将来儲かる話でもある。世の中の人は「儲かる話」にしかお金を出せないもの。しかし、誰かが他人の「やりたい話」にお金を出し、それが「儲かる話」に変わるとすごく儲かる。それが起業家の精神だと思う。

 現在のところ、データビジネスは儲からない。衛星データは非常にたくさんあるが、死蔵状態だ。JAXAから買うとしてもスタートアップが買える価格ではない。それを少数なら無料で、大量でも安価に公開して普及してくれば、「やりたいこと」が「儲かる話」に変わる。提供するもの、つまりアウトプットの価値が大きくなると、インプットの役目を果たす衛星などのハードウェアで作りたいと思うものが増えてくる。そうすると両方が成長していくのではないか。

さくらインターネットが取り組む衛星データの流通市場

今後、日本の宇宙ビジネスに投資家の資金が流れ込む可能性も

佐藤:宇宙ビジネスにお金はどのくらい重要か、お金儲けという観点では三村さんと鈴木さんはどのようにお考えですか。

ポーラスター・スペース 代表取締役 三村昌裕氏(中)

三村:私たちポーラスター・スペースは、超小型衛星から得られるスペクトル情報に、ドローンやスマートフォンなど、地上の機器から得られるデータを組み合わせて提供している。今後はスペクトルライブラリーを構築し、世界でソリューションを生むようなサービスを作りたいと考えている。

 お金がないということは経済的合理性がないということ。それは継続できないので、結局責任を果たすことができない。そして、期待だけでお金を集めるのは本質的とは言えない。そこで私たちは、事業に使えるデータを集めようとしている。そのデータを何に使うのかを考えて、そのためにどうやってそのデータを集めてくるか、という仮説検証型でデータを収集している。

 地上で何が起こっているのかを理解しておくことが重要だと思う。どこにどういう課題を抱えている人がいるのかを見据えたうえでライブラリを構築し、それをリモートセンシングで商売にしていく。我々は最初から長く続けていける事業を展開している。

北海道大学 公共政策大学院 鈴木一人教授(右)

鈴木:私は、北海道大学で科学技術と国際秩序をテーマに政治学を研究しているのですが、特に宇宙開発と国際関係の問題に注目しています。土地の問題やロケット打ち上げに関わる多くの規則など、宇宙空間を長く活用していくためにも、政治の果たす役割はまだまだあると考えています。

 現在、宇宙ビジネスは、期待でお金を集めているように見える。特にお金持ちが自分のお金でやっている活動だけに期待が高まっている。一方で衛星を打ち上げる話と衛星を作る話とデータを処理する話を「宇宙ビジネス」という単語でくくることで、お金がそこに流れ込みやすくなっているという側面もある。投資家から見ればみんな一緒に見えるから。

 異次元の金融緩和もあり、日本にはお金が余っている。有望な投資先も多くはない。宇宙ビジネスにはまだ手の付いていない分野がたくさんあるので、「うまくいくかもしれない」という期待が大きい。だから高いリスクを覚悟して投資しようかという投資家の意欲がある。

 単なる期待だけに終わらせず、長く続くビジネスにしていくには、誰かがインフラを整えないといけない。みんなが使える環境を整えること、それが宇宙ビジネスを育てるために今やるべきことだと思う。

今後、日本の宇宙ビジネスには、高いリスクを覚悟した投資家の資金が流れ込む可能性が高い

日本経済を支える自動車産業の代替となるか?

堀江:自動車産業は巨大なサプライチェーンを持っているが、EV(電気自動車)の時代になると部品点数が激減し、これまで構築してきた巨大なサプライチェーンが崩壊する。パソコンが出てきたときにIBMが大きく変わったように、自動車産業も変わらざるを得ない。にもかかわらず、なぜ政府は宇宙開発に投資しないのか。政府がバカだからなのか。

 米国では30年くらい前に民間の宇宙開発を推進する法律ができた。日本で同じような法律ができたのは2016年。この差は何なのか。

 EV時代になったら、自動車産業のサプライチェーンは10年以内に崩れ去ってしまう。政府はその代替となる策を用意していない。そういうことに危機意識を持って、予算を傾斜配分をすべきではないか。

研究者が「やりたいことだけをやっていた」日本の宇宙産業

鈴木:日本の宇宙開発は研究開発を目的としており、やりたいことだけをやっていた。その結果、日本の宇宙開発の商業化がすごく遅れた。「それではまずい」ということでできたのは2008年の宇宙基本法。2005年の情報収集衛星の打ち上げ失敗が転機になってできた法律だ。

 その情報収集衛星は政府が使う実用衛星だったが、打ち上げに失敗したJAXA(宇宙航空研究開発機構:Japan Aerospace Exploration Agency)が「研究開発だから失敗するのもアリなんですよ」と答えた。しかし日本の安全保障に関わっているのに「失敗しても良い」というのは問題だろう、ということから研究開発目的の宇宙開発を続けていてはダメなのではないかと考えるようになったという経緯がある。

 堀江さんの質問への回答になるかはわからないが、政府がバカかどうかはわからないが、理系の人たちが自分のやりたいことだけをやってきた結果、今の状況があるという側面もある。

佐藤:宇宙ビジネスを次の主要産業にできるか、自動車産業に続くものにできるかという観点でいうと、そう思っていない人がまだほとんどだろうと思う。例えばElon MuskのSpaceXと日本のロケットベンチャーを比べたり、さくらインターネットとアマゾンを比べるなどして、不当にバッシングする傾向があるのではないか。

 ここにいるパネラーはそういう逆風を乗り越えてきたのではないかと思うが、それに対してどう思うか聞きたい。

田中:我々は「イケてる」としか思っていなかった。20年前くらいのIT産業も、名刺にメールアドレスやWebサイトのアドレスを書いてあるだけで自分たちの会社はIT企業なんだと言っていた。ITバブルで投資も多くていくつもの会社が上場した。それで良いと思う。

 波が来ているなら、まずは波に乗ることが重要。宇宙産業はまだまだ先の話と思われがちだが、衛星データを解析するだけで宇宙ビジネスをやっていると言っても良いでしょう。波が来ればもっと普及していく。

稲川:日本国内の宇宙ビジネスはアメリカほどは盛り上がっていないように感じる。SpaceXは時価総額3.5兆円。デンソーに匹敵する規模の企業に成長している。我々が手掛けている小型ロケットの市場でもRocket Labというアメリカとニュージーランドのベンチャー企業が時価総額1500億円ほど。北海道で言うと北洋銀行とか北海道電力くらいの規模だ。

 米国の宇宙ベンチャーには若干期待過剰と感じるところもあるが、日本で宇宙ビジネスに挑んでいる我々に対する期待感ももう少し上がってきても良いだろうと思っている。

堀江:宇宙ビジネスの市場予測のグラフも、まじめな用途だけであのくらいの成長するということになっている。しかし実際はバブルになっているから、こんなもんじゃないと思っている。インターネットがそうだったように、不真面目な用途に宇宙が使われるようになるとすごいことになる。たとえば宇宙遊泳しながらセックスするとか、宇宙ラブホとか、宇宙で子供を作ることがステータスになるとか、宇宙が身近になると僕らの想像の斜め上を行くようなことが起こってくる。

 我々は「MOMO」というロケットを打ち上げているが、ハンバーグやコーヒー豆、日本酒を打ち上げたいなんて人が出てくるとは思わなかった。紙飛行機を乗っけたという話もある。彼らが言うには、無線機ビーコンを付けて、尾翼コントロールで、コントロールしながら降りてくるデバイスになる。データも地上に持って来られる。ロケット屋からすると、「こんなことできるんだな」と驚くような用途が出てくる。

佐藤:数年前、GoogleはSkySatという衛星コンステレーションで動画をやろうとしていたが、あきらめてしまった。今は中国のベンチャーがやろうとしている。

鈴木:SpaceXもStarlinkという衛星コンステレーションの開発プロジェクトをやっている。ロケット会社が衛星を作るというのがトレンドになってきている。

堀江:我々が輸送をやっているのは、そこが宇宙ビジネスにおける競争力の源泉になると思っているから。だからロケットエンジンは絶対に売らない。自動車におけるガソリンエンジンのようなもの。

なぜ北海道で「宇宙ビジネス」なのか?

佐藤:北海道には今日ここに集まっていただいたように宇宙ビジネスのプレイヤーが出てきているが、北海道ならではという部分がまだよく見えない。北海道にいることの意味とか利点とか、そういうポイントがあれば聞きたい。

稲川:宇宙に行くロケットを安全に打ち上げることができるほど広大な土地が必要であるように、ロケットビジネスは土地に縛られる。大樹町に射場ができると、関連する企業やデータの利用者たちがかなり近いところに集まってくる。

三村:我々は北海道大学発のベンチャーであり、北海道とのかかわりが非常に深い。私たちがデータ活用で農業に注目しているが、北海道の耕地面積は日本全体の耕地面積の4分の1を占めている。経済的に見ても12%くらいの市場だ。

 スペクトルデータを使って収量を予測したり、病害を発見する際にも、北海道は非常に良い実証フィールドになっている。そこで得られた知見を北海道の経済圏にどうやって還流していくかというのは難しい課題だが、北海道で得られたデータや分析手法などは知財に変えていこうとしている。それを世界中の農地に実装して事業にする。そういったものが北海道を拠点にしている利点なのではないか。

田中:サーバーは高熱を発するので、その冷却にかかる費用が馬鹿にならない。最近データの国境線という話が議論されているが、国境の中にあって北にあって涼しいとなると北海道だ。ただし人を雇うとなると、稚内ではエンジニアを雇えない。石狩ならば札幌から30分なので、札幌市民を雇用できる。

 また、海外各国と日本を結ぶ光ケーブルを見ると、日本とヨーロッパはまだ直接つながっておらず、米国を経由している。日本とヨーロッパを結ぶ直通経路を考えると、北海道から北極を抜けてヨーロッパに行く経路が最短だ。そうなると、北にある北海道は、ヨーロッパと短い遅延で通信ができる「ヨーロッパに最も近い場所」になる。

鈴木:米国でもロケットを作るベンチャーと衛星を作るベンチャーとデータを処理するベンチャーが同じところにあるというのは非常に稀。北海道にそういったものがすべて集まっている。宇宙ビジネスは国主導ではなく民間がそれぞれやりたいことをやる産業になってきており、やりたいこと同士を掛け合わせると面白いことが起きるのではないか。

 そこ(北海道)に行けば何かある、そこに会社があれば投資が集まる、そういうブランドになりつつあるのではないか。宇宙ビジネスをやるなら北海道で、という場を作ることが重要。

堀江:スマホブロードバンドの時代になり、娯楽すべてがスマホの中に入るようになった。昔は田舎には娯楽が全くなかったが、今は問題ない。インターステラも田舎にあって、最初は懸念していたが、結構人が集まるようになってきた。

 家賃は安いし、食い物はうまいし、自然は豊かだし、東京にはたまに行けばよい、そういう人は北海道に住んだ方が良い。北海道は尖った人たちが集まるところになった。

議論は白熱し、参加者全員が制限時間を超えても話し足りない様子だった

 日本の宇宙ビジネスの最先端である北海道で開催された「北海道宇宙ビジネスサミット」。1時間半に及ぶパネルディスカッションは、制限時間を超えても話し足りないムードの中、閉幕した。宇宙関連ビジネスは裾野が広く、ここで話題にならなかったた業種にでも、宇宙や衛星データに関連する事業を始めている企業があるに違いない。日本で宇宙産業が爆発的に成長する予兆を感じたセッションであった。

 また、堀江氏の言う自動車産業の次に来るべきもの、自動車産業のサプライチェーンをどの産業が引き継ぐのかというところも気になる。必ずしも宇宙産業とは限らないだろうとは思うが、自動車産業は日本経済を支える巨大産業だ。代替する何か1つの産業だけで代替できるということは考えにくい。宇宙産業がその一翼を担う可能性は十分あるだろう。

 世界的に見ても競争が激化しつつある宇宙ビジネス。日本で宇宙ビジネスに挑んでいる企業が、GAFAを超える規模まで成長すると期待したい。

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