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TUSG Gathering「スタートアップと知財戦略」レポート

特集
STARTUP×知財戦略

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起業家の特許戦略を公開メンタリング

 第2部のパネルディスカッション「起業家×知財戦略」は、特許庁の菊地氏と起業家3名がメンタリング形式で意見交換した。

 「クラウド在庫管理ソフトZAICO」を開発・販売している田村氏からの質問と、菊地氏の回答は以下のとおり。

株式会社ZAICOの田村氏は、伊豆大島から遠隔で参加した

Q.ソフトウェアのアルゴリズム特許に意味はあるのか?

A.アルゴリズムの特許は侵害されても暴くことが現実として難しい。ビジネスモデル特許のほうが親和性は高いだろう。ビジネスモデル特許は広い範囲で取れるので、検討してみては。

Q.ソフト上のユーザーインターフェースの特許は取れるのか?

A.特許権か、意匠権にするかの2つの選択肢がある。見た目のコピーを防ぐのであれば、意匠権でいい。機能面での特徴であれば、特許として取ることができる。特許の場合、それによってどんな効果があるかで進歩性を見る。一般的なユーザーインターフェースとすると、おそらく似た機能のものは存在するので、課題解決と結びつけるといい。ZAICOのケースでは、在庫管理の課題を解決するために特有のユーザーインターフェースとして申請すると、審査が通る可能性は十分にある。

Q.既存の機器の組み合わせ+ソフトで特許を取れるのか?

A.従来からある機器とソフトの組み合わせであっても、特定の課題を解決するためであれば特許が取れる可能性は十分にある。

Q.特許を出願するタイミングは? 製品を市場に出したあとで特許は取れない?

A.世間に公開する前に特許を出願するのが基本。出願前に学会発表や展示会などでお披露目すると特許が取れなくなってしまうので要注意。

 続いて、宮崎氏は2つのテーマを提示。

株式会社JDSound 代表取締役 宮崎晃一郎氏

Q.アルゴリズム特許を取得するか、ブラックボックスにするかの選択について。JDSoundが2014年に開発したギター用ディレイ「Flight Time」は、空間に流れている音楽のBPMをリアルタイムに計算する世界初の製品。これに搭載されているBPMを検出するアルゴリズムは、非常に特殊なものであるが、特許を出願しなかった。この判断は合っているだろうか。

A.アルゴリズムは秘匿するのが正解。機器を分解しても他社は真似ができない。公開してしまうと、他社に真似をされても暴けないので、公開するのはあり得ない。

Q.デジタルスピーカー「OVO」の商標について。中国にはすでに「OVO」というスピーカーブランドがある。また、米国にはOVO SOUNDというレコードレーベルがある。これから米国のクラウドファンディング「indiegogo」と台湾の「ZecZec」に挑戦しようと考えているが、問題はないだろうか?

A.米国と台湾で商標権がとられているかどうかは調べておいたほうがいい。クラウドファンディングの最中に訴えられる可能性もゼロではない。また、クラウドファンディングは達成できたとしても、将来的に一般販売を考えているのであれば、権利をクリアにしておいたほうが安心。

 ボールウェーブ株式会社のCTO 竹田氏は、これまでの特許戦略を紹介してくれた。

ボールウェーブ株式会社 取締役製造・技術部長 竹田宣生氏

 ボールウェーブは、東北大学未来科学技術共同研究センターの山中一司教授らが開発したボールSAWセンサーを活用し、製品化を目指す大学発ベンチャーだ。もともと文部科学省の大学発新産業創出プログラム (START)事業から始まったこともあり、特許の取得については非常にアグレッシブだったという。研究者にとって、自分たちの技術を守るとともに、発見した技術を世の中に知らしめるためには特許は最適だからだ。大学の予算だけでは特許の取得費用をまかなうのは厳しいが、幸い、共同研究企業が特許に理解があり、共同出願の特許費用は負担してくれたため、100を超える特許を取得していた。

 しかし、共同研究企業との共有特許が多くあったため、起業する際にはそこが問題になった。起業当初は金銭的にも厳しく共有特許のまま、独占実施権で進めていく方法でスタートしたが、大企業と連携する際には自分たちが持っていないと弱い。100%の権利を持てば、会社価値が上がり投資家との株価の交渉材料にも使える。そこで、少ない資金力ながらも他社が保有する所有権のすべてを権利者から買い取り単独所有する努力をし、その中でも特に重要な約30の特許群を維持することになったという。

 事業がスタートしてからは、海外出願はどうするか、新しい技術を特許にするのか、秘匿するのか、など悩みつつ、毎年いくつかの新しい特許を出願するように知財戦略を進めているそうだ。

 権利を押さえるべきか。それは事業にとって有効なのか。事業分野や予算規模などによって知財戦略の進め方はさまざまだ。先輩起業家の特許戦略の事例を聞くことは、何よりの参考になる。ネットワークを広げることで、スタートアップに理解のある知財の専門家との出会いのきっかけになるかもしれない。特許庁では、今後も知財に関心のあるスタートアップや知財専門家向けのイベントを実施していく予定だ。最新情報は、スタートアップ知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」でチェックしよう。

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