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アスキーエキスパート第47回

裏面照射型/積層型CMOSイメージセンサーはなぜできたのか?

スマホ性能が爆発的に進化 世界を変えた「イメージセンサー」とは

2018年07月19日 09時00分更新

文● 田谷圭司/アスキーエキスパート

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国内の“知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。ソニーセミコンダクタソリューションズ(株)の田谷圭司氏によるイメージングとセンシング領域におけるイノベーション最新動向をお届けします。

 スマホで友達や同僚と一緒に写真を撮る、ホワイトボードなどをメモ代わりに写真に残す、子供の運動会や学芸会でビデオカメラを使ってビデオを撮る、美しい風景を一眼レフカメラやミラーレスカメラで写真を撮る。みなさん、こういったことを日常的に行なっているのではないでしょうか。

 40年ほど前は、カメラはこれほど手軽ではありませんでした。フィルムカメラでしたし、一家に1台ではなく、必要な時は知り合いに借りるなども普通でした。それが、いまではスマホやノートPCのカメラもいれると、一家に5、6台のカメラがあるのは普通です。しかもそのスマホには、ディスプレー面と背面で2個以上のカメラがついている。このカメラの爆発的な伸びを担ったのが「イメージセンサー」と呼ばれる半導体の素子です。

 このイメージセンサーですが、少し前までは「CCDカメラ」と呼ばれていました。CCD(Charge-Coupled Device)は、半導体の素子の一種で、フォトダイオードと呼ばれる部分で光を電子に変え、そのたまった電子(電荷)をバケツリレーの要領で次々と隣の素子に送り増幅させて電気信号に読み出し、最終的に画像として出力するデバイスです。

 1969年にベル研究所で、このデバイスを発明したウィラード・ボイルとジョージ・E・スミスは、2009年にその功績でノーベル物理学賞を受賞しました。そして、CCDを商用として大きく発展させたのがソニー株式会社です。CCDカメラが一番はじめに世に出たのは、飛行機の離陸着陸時に画面に映し出されるスカイビジョンと呼ばれるカメラです。飛行機に乗った際、画面に映し出される滑走路の様子を見たことがあると思います。

 その後CCDカメラは、ビデオカメラ用途で大きく数を増やし、通常のコンパクトカメラもフィルムから置き換えていくことになります。

 しかし、電子をバケツリレーの要領で送るという仕組み上、欠点もありました。そのひとつがスピードです。

 たとえば、画素数が多くなるハイビジョン映像を撮ろうとすると、この電子をバケツリレーするスピードが追いつきません。その欠点を補う素子として、CMOSイメージセンサーが出てきました。

 このCMOSイメージセンサーは、画素と呼ばれる1つひとつの単位セルが、増幅器を持っており、フォトダイオードの電子を電圧に変換、増幅できます。そして、その電圧を一気に信号として読み出すことができるのです。CMOSイメージセンサーを搭載した結果、家庭用の小型のビデオカメラでも手軽にハイビジョン映像を残せるようになりました。

 このCMOSイメージセンサーの画質をさらによくするために、「裏面照射型」と呼ばれる新たなCMOSイメージセンサーが開発されました。通常、CMOSイメージセンサーは、フォトダイオードで光を電子に変え、さらにその電子を電圧に変えて、増幅してから読み出すため、構造が複雑になり、光が十分にフォトダイオードに届きません。この複雑な構造を回避できれば、画質はさらに良くなります。

 裏面照射型のCMOSイメージセンサーは、半導体のウエハ(基板)の裏面側を使うことによって、光をすべてフォトダイオードに集めることができるようにしました。半導体に関係している方ならわかると思うのですが、直径30cmの半導体のウエハを、作成途中で裏返し、裏面側を使うという技術は非常に難易度が高いです。その当時、ソニー株式会社以外の多くの会社がCMOSイメージセンサーの開発や生産を始めていましたが、どの会社も裏面照射型CMOSイメージセンサーを世の中に出すことができていないのはもちろん、開発に着手しているという発表もありませんでした。

 なぜかというと、いくつもの技術的な難しさが存在しているからです。

 その1つは、先ほど書いたように半導体のウエハの裏面側を使用する技術です。もちろん単にウエハを裏返すだけではそのあとの加工ができないので、一度別の基板にウエハを貼り合わせ、貼り合わせたウエハを起点として裏面側を使用できるようにします。

 ウエハの均一性を良くするためには、このウエハを貼り合わせるという行為も、均一性良く行なう必要があります。その際に求められる均一性は、1μm(マイクロメートル)以下、人間の髪の毛の100分の1以下の精度です。さらに別の技術的な難しさとしては、光電変換を行なうフォトダイオード面を裏面側に露出させる必要もあります。

 もちろん、凹凸があったり、なんらかのダメージが入ったりしていると、きれいな写真を撮ることができません。イメージセンサー以外の半導体ではとても要求されないような非常に高精度なレベルでのプロセスコントロールが必要となります。なお、これらは、あくまで一例であり、このほかにもたくさんの課題が存在します。それらをすべて解決することで裏面照射型CMOSイメージセンサーは生まれました。

 これらの技術課題の解決は、誰か1人の力でできたのではありません。ブレーンストーミングなどによるアイデア出し、休憩室での会話からのひらめきなどから着想し、一見、無謀と思えるアイデアでも、シミュレーションや試作を行なってみて結果を確認する。その中で良い条件だけを抽出し、1つひとつの課題を着実に解決していきました。

 こうして世の中に出た裏面照射型CMOSイメージセンサーで、画質はCCDを超えることができました。その後、画質で優位に立ったCMOSイメージセンサーはさらなる高機能化が求められるようになります。「逆光でもきれいな写真が撮りたい」、「フォーカスを素早く合わせたい」、「より高速に動画を撮りたい」などです。それらをかなえるには、信号処理を行なう多くの回路が必要となってきます。

 その多くの回路を配置するために、裏面照射型CMOSイメージセンサーの裏側に、回路を配置できる積層型CMOSイメージセンサーという構造ができました。こうすることで、半導体の面積を抑えて、スマホに搭載できる程度の大きさで、高機能なイメージセンサーを創り出すことができました。

 さらに、DRAMと呼ばれるメモリ層をもう一層追加して3層構造にし、ハイビジョン画像で1秒間に1000フレームという超高速なCMOSイメージセンサーが生まれました。それまでは、スタジオなどで大がかりなカメラを使ってしか実現できなかった、1秒間に1000フレームという動画をスマホで手軽に残せるようになったのです。

 ミルククラウンと呼ばれる牛乳のはねる様子も、風船が割れて一瞬水だけが風船の形でとどまる様子も、ゴルフのスイングの詳細も、子供がサッカーボールを蹴るその瞬間の様子もスマホで撮れるようになりました。CMOSイメージセンサー搭載のスマホを買えば、数百万円のカメラを買わなくても、誰でも手軽に超高速の動画を撮ることができるようになったのです。


 今回は、フィルムから、CCD、そしてCMOSイメージセンサー、裏面照射型、積層型と進化してきたイメージセンサーに関して述べました。これらの進化によって、写真やビデオはより身近に、よりきれいになっています。写真やビデオを撮るということにおいて、多くの人のライフスタイルを変えてきたと言っても過言ではありません。

 次回以降では、このイメージセンサーの進化によって、カメラが、どのように変わってきて、これからどのように変わっていくのかを、見ていきたいと思います。

アスキーエキスパート筆者紹介─田谷圭司(たたにけいじ)

著者近影 田谷圭司

大阪大学大学院物理学専攻終了後、大手電機メーカーにて半導体開発に従事。2003年ソニー株式会社に入社し、以降、一貫してイメージセンサーの開発を行っている。現在は、ソニーセミコンダクタソリューションズで、主にMobile製品向けのイメージセンサーの開発を行っている。

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