今後は人間がデジタル化する
物理学者によって生まれた産業や社会の変化には、4つの波があったという。
ひとつは蒸気である。熱力学を活用して蒸気機関が生み出され、機械が動くようになった。それから80年を経過して、物理学者は電気と磁気を発明し、ラジオやテレビが生まれた。さらにその80年後にはトランジスタやレーザーが発明され、宇宙プログラムが開発されたことで、ハイテクが加速したという。
「では、第4の波はなにか。それは人工知能、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーである」と、カク氏は定義する。
第4の波で起こる未来は驚きだ。
カク氏は「すでにインターネットを通じて、遠隔手術ができたり、手術中に医者がWatsonなどのAIに質問したりできる。AIが手術室に浸透している」と前置きしながら、「これからは、人間の身体のデジタル化が進むだろう。たとえばロボットの一部を自分の身体のなかに入れることもできるようになる。小さなチップ入りのアスピリンのようなもののなかには、磁石とカメラが入っている。それを飲み込むと、カプセルが身体のなかを流れ、体内の写真を撮影して送ってくれる。直腸検査がこれでできるようになる。文字どおり、身体のなかにIntel Insideの状況が生まれることになる」とした。
AIから人工臓器も作れるようになる
さらに「人間の身体がデジタル化されることが、次のコンピューターテクノロジーの突破口になる」とし、「身体がデジタル化して、そこからさまざまな情報が発信されれば、AI技術との組み合わせで、加齢の問題さえも解決することができるだろう」とする。
すでに高齢者の遺伝子と、若者の遺伝子の差を比較することで、加齢に影響する遺伝子が60個あることがわかっているという。
「人間の身体において、クルマのエンジンにあたるのがミトコンドリアである。これが一番壊れやすい。ミトコンドリアを調べると、なにが問題で加齢をするのか、老化がはじまる原因はなにかもわかるようになる。デジタル化したら、加齢問題を解決するヒントが生まれるだろう。AIが若さの源泉になるかもしれない。その結果、30歳になったら、それ以上年を取らないという時代がやってくるかもしれない」とする。
さらに、こうも語る。
「AIなどの技術を使って臓器なども作ることができる。細胞をプラスチックの容器のなかに入れておけば、ひとつの細胞から完全な耳や皮膚、骨、心臓弁も作れるようになる。若くて新しいものに交換することもできる。それを可能にするのはAIである」とする。
だが、唯一作ることができないのが肝臓だという。
「アルコールを飲む人は注意してほしい。もしかしたら、肝臓に影響があることを避けて、心臓に影響があることを選んだ方がいいという時代がやってくるかもしれない」と語り、会場の笑いを誘った。
人間の身体にAIやロボット技術が影響する未来がやってくるのは明らかだ。その世界は、加齢まで操作できるといったように、我々の予想をはるかに上回るものになるのかもしれない。

この連載の記事
- 第491回 Evernote創業者によるビデオコミュニケーションツール「mmhmm」
- 第490回 コロナ禍の変化はブラザーにプラスの変化をもたらしたのか?
- 第489回 三菱電機が問われる「信頼回復」の道筋、品質・風土・ガバナンスに課題山積
- 第488回 営利1兆円企業に成長したソニー、その2/3は感動を呼ぶゲーム・音楽・映画だ
- 第487回 「2025年、ITサービス業界で世界トップ5に入る」NTTデータ本間洋社長
- 第486回 国内製造業としては過去最大となる7873億円の赤字からの復活の先は? 日立
- 第485回 パナソニックは世間を知らないという樋口氏、独自色見せる経営を、初任給も世界最高水準に?
- 第484回 リコーがPFUを子会社化、サイボウズとも提携、一気通貫のデジタル化へ
- 第483回 Red HatはLinuxの会社だと思っていたが、こんなことも……
- 第482回 シャープの新CEOは44歳の若さ、健康、世界戦略、そしてHITO
- 第481回 20年以上前からAIを使った創薬に取り組むNEC、ベータコロナウイルス属に有効な次世代ワクチン開発へ
- この連載の一覧へ