社会課題や地域課題をビジネスで解決するために必要なこととは?
こんにちは、一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会(JASISA)事務局長の櫻木です。さて、今回はJASISAがNPO法人学生ネットワークWANおよび福岡県ベンチャービジネス支援協議会と共同で福岡にて2018年1月22日に開催した、「九州ベンチャー・スタートアップミートアップ」の様子をお伝えします。
成功と失敗を分かつ、成長フェーズごとの最適戦略とは?
「九州ベンチャー・スタートアップミートアップ」のトークセッションに先立って行なわれたオープニングセッションでは、株式会社54代表取締役社長山口豪志氏が基調講演を行ないました。
山口氏といえば、2017年11月に出版された『0 to 100 会社を育てる戦略地図』の著者でもあります。冒頭、山口氏は次のように語りました。
「実は、数人の企業が数百人規模の企業に成長する過程や上場する場面において起こりうる課題というのは、事業内容が異なっていてもかなりの再現性があります」
企業がどのように変化していくか、または、進化を遂げていくかには大きく6つのフェーズがあるといいます。ここでは、6つのフェーズの中でも第一段階である「事業選定」のヒントについてご紹介します。
「もちろん、事業として継続するためには、商品に優位性を持たせ、お金を出して商品を買ってもらう必要があります。ですから、事業を起こすフェーズでは、商品の売り出し方や顧客の発見が重要になってきます。しかし、一番重要なのは、そもそも事業のテーマを見つけることではないでしょうか」(山口氏)
山口氏は、事業選定フェーズで役に立つ思考モデルを紹介しました。事業のテーマ設定には、「想い」「アイデア」「共感」という3要素がそろうことが必要とのことです。これら3つの要素は、事業を起こすにあたってそれぞれに意味を持ち、たとえば、「共感」を呼ぶ事業であるかどうかは、仲間作りをする上で不可欠なエッセンスとなっていると説明します。
課題解決のノウハウを世界へと拡げる仕組み作り
続いて、山口氏、株式会社ボーダレス・ジャパン代表取締役社長の田口一成氏をパネリストに迎え、伊万里で新産業創造に取り組むPORTO株式会社代表の森戸裕一氏をモデレーターとしパネルディスカッションを行ないました。
登壇した3名からは社会課題の解決をビジネスというツールで図るためのノウハウや思考について伺いました。
登壇者3名の自己紹介後、まず口火を切ったのは、社会起業家である田口氏でした。
「参加者の皆さんに想像してみてほしいのですが、もしあなたがほぼ無給で、しかも5年もかけてケニアで大豆農家のサプライチェーンを構築したとします。そこに僕がいきなり現れて”そのノウハウをタダで教えてくれ。エチオピアの大豆農家を救いたいんだ!”と言ったらどう思うでしょうか。あなたも僕も”貧しい人を救いたい。できればより多くの人を。”という想いは同じです。そこに悪意はないのです。みなさんどう思いますか。両手を広げて喜んでノウハウを渡す人は少ないのではないでしょうか」(田口氏)
田口氏はこれまでに往々にして次のような事例を見かけてきたといいます。
“素晴らしいノウハウがあっても、そのノウハウを生み出した人、また、それを用いて新しく社会課題を解決したい人との関係性が希薄な場合、ノウハウの伝授にかかわる心理的な障壁を埋めるために金銭的な契約を結ぶ必要が生まれ、アイデアが広がらない”
そこで、このような事例の解決策として、「他人同士の身内化が必要ではないか」と思い至ったそうです。田口氏が代表を務めるボーダレス・ジャパンでは、そこに集まる社会起業家の利益を1つに集約する枠組みを創り上げ、同じ枠組みに加わる新たな起業家に対しては、ある種、”自分の家族”を支援するような仕組みでノウハウや資金などの円滑な受け渡しを行なっています。このような仕組みを構築することで、世界各国での社会課題の解決の拡がりを可能にしています。
田口氏が創った、社会課題をビジネスで解決し続けるための”家族のような仕組み”。公益資本主義は、このビジネスの根底にある考え方と近いのではないかと山口氏が主張しました。
「サプライチェーンを構成する人たちは”家族”と拡張して捉えることによっていかに利益を返せるか、を考えるのが公益資本主義の考え方です。現在はびこっている金融資本主義は、人生が100年単位で継続することを無視し、生活の中で必要とされるものがおざなりにしてしまっています」(山口氏)
たしかに、人々はみな家族であると捉えそれぞれが持っているノウハウや富をフルオープンにすれば、また違った形の幸せが生まれるのかもしれません。
ビジネスプラン、何回書きましたか?
最後に、パネリストそれぞれに新しい事業を起こす上でのヒントを伺いました。山口氏からは、資金を稼いでから新たな事業に取り組みたいのであれば、まずは既存のビジネスモデルを高回転させてみることが提案されました。
「何十年も存在している既存のビジネスってかなり洗練されてますからね。そうしたビジネスって企業としての生存確率も高いし、ある程度利益もでます。まずはそうしたビジネスに取り組んでみて、資金を稼ぎつつ、興した企業が生存している間に新たな”本当に自分がやりたい事業”を始めてもいいのではないでしょうか」(山口氏)
「事業はスタートしてからが勝負だと思います。情熱が尽きて辞めてしまったらそれを失敗というんです。利益の生まれるビジネスプランが思いつかないのであれば、まずはプランを100回は書いてみる」(田口氏)
「僕はノウハウのプロですから新たにソーシャルビジネス始める人にアドバイスしますが、やはり、納得感がないと人は動けない。だからこそ、もうこれ以上考えつかない、これが最適の解だ、と思えたらあとは事業をスタートしてそこからどれだけ修正できるかですよ。お客さんの反応を見ながら、売り方、価格などを変えていく。そして結果論として最初のプランが間違っていたとしても大丈夫です。」(田口氏)
櫻木諒太(一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会(JASISA)事務局長)
2010年に公的機関で中小企業支援に従事したのちに、2015年にJASISAにジョイン。2017年4月から同団体の事務局長をつとめ、「地域の新陳代謝を活性化させる」をテーマに地方創生、クラウド経営、地方発ベンチャー、女性起業家支援など年間10本以上のプロジェクトを立ち上げる。好きなことは、知らない土地に行くことと、違うコミュニティーをつなげ新しい価値を生み出すこと、好きなサッカーチーム(アビスパ福岡)のアウェイ観戦。
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