今回のことば
「マカフィーはサイバーセキュリティー専門の会社になった。コーポレートカラーも青から赤に戻り、7700人の社員全員が、家族、社会、国を守るという新たな決意に署名をした」(マカフィー・山野修社長)
マカフィーは、2017年4月3日(米国時間)に、米インテル社から分社した。
2015年にインテルに買収され、インテルセキュリティの名称で展開していたが、日本では製品名だけでなく、法人もそのまま維持されていた。マカフィーのブランドは独立性を持った形で、事業が継続されていた印象が強いだろう。だが、日本以外の世界各国では一度マカフィーの社名が消えており、今回のマカフィーとしての法人復活は大きな変化として受け取られている。
新生マカフィーは、ファンドのTPGキャピタルが51%の株式を保有し、米インテルが49%を保有する体制となった。
マカフィー・山野修社長は「コーポレートカラーはインテルの青から、もともとのマカフィーの赤に戻った。だが、単に元のマカフィーに戻ったわけではない。新生マカフィーとして全世界の7700人の社員が新たな誓いを立て、世界最大のサイバーセキュリティー専門会社として、家族、社会、国を守る決意に署名をした」と語る。
マカフィーでは新体制でのスタートにともない、会社の使命として「McAfee Pledge(我々の誓い)」を打ち出した。
そこでは「私たちは、サイバー上の脅威から世界を守り続けることに専念します」とし、「脅威はもはや私たちのコンピューターのなかだけのものではなく、現在のインターネットに接続された世界のあらゆる場所に存在します。そして、私たちは、私たちの家族、社会、そして国の安全を維持するために絶え間なく取り組んでいきます」と書かれている。マカフィーの日本法人本社にも、このMcAfee Pledgeが掲示され、そこに社員たちが自筆で名前をサインしている。
「新生マカフィーの使命は、製品や技術を提供する会社ではなく、社会やビジネスの安心、安全を実現することになる」と山野社長は語る。
新たなマカフィーとして臨む2017年は、「セキュリティー人材不足の解決を支援」、「働き方改革を支えるセキュリティーに注力」、「セキュリティーを新たな分野へ展開」という3点に取り組む。
製品提供から、コンサルに運用までを含めたトータル提案対応へ
「セキュリティー人材不足の解決を支援」では次のように語る。
「2020年には全世界で200万人、日本でも19万人のセキュリティー人材が不足する。しかし、これから教育するには膨大な費用と時間がかかる。これを埋めるのはほぼ不可能に近いといえる。しかも、2005年には1日に25の新種ウイルスが生まれていたにすぎないが、2016年には1日50万種類が誕生。2017年になると、デバイスごとに異なる新種のウイルスが生まれるようになる。また、2011年には1日以内に解決できた侵害は33%だったが、2015年には20%になり、解決に3週間以上かかる侵害は5%から8%へ増加している。脅威は巧妙化し、複雑化している」と指摘する。
マカフィーでは、セキュリティー戦略を策定、実行するほか、業種や業界ごとのベストプラクティスなどによるプロフェッショルサービスの提供、自動化やオーケストレーション、脅威インテリジェンスの共有などによる製品およびソリューションを提供することで、人材不足の解決を支援する。
山野社長は「マカフィーのコンサルティングサービスビジネスは前年比2倍増となり、セキュリティー運用のすべてをマカフィーに任せたいという話も出ている」としており、単なる製品提供だけでなく、コンサルティングから運用までを含めた、企業まるごとのトータル提案のニーズにも対応していく考えだ。
「働き方改革を支えるセキュリティーに注力」では、テレワークの導入や在宅勤務の広がりにあわせて、これらの新たな働き方に対応したセキュリティーを提供するという。
情報漏洩対策、ウェブアクセス制御、デバイス制御などにより、「ビジネスの生産性とセキュリティーを両立し、いつでも、どこでも働ける環境の実現を支援する」という。
「セキュリティーを新たな分野へ展開」では、IoT領域におけるセキュリティー強化だけに留まらず、OT(Operational Technology)と呼ばれる制御領域への展開を開始。さらには、電力、ガスなどの社会インフラやスマートホームに向けた安心、安全な生活の実現に向けた支援を進めるという。具体的な取り組みとして、東京電力パワーグリッドと提携し、サイバーセキュリティー戦略の策定や、経営層から現場、ITからOTまでを包括する全社的なセキュリティー設計、コンサルティングを通じた企業のセキュリティー意識の変革などを支援することを発表している。
インテル買収後に変化したマカフィー
マカフィーの取り組みを振り返ってみると、インテルに買収される前の2014年までは、PCとモバイルデバイスを保護するセキュリティー対策を中心とした企業であった。だがインテル買収後は、デバイスに対するセキュリティー対策だけでなく、個人情報保護、デバイス管理、デバイスのパフォーマンスの最適化、プライバシー保護といった取り組みを強化。デジタル時代において、個人を包括的に守るための製品、サービスの提供に取り組んできた。
さらに法人向けの事業においては、脅威対策ライフサイクルを打ち出し、Protect(防御)、Detect(検知)、Correct(復旧)、Adapt(適応)の頭文字を取ったセキュリティー対策におけるPDCAサイクルを提案。デバイスの保護だけでなく、インテリジェントなセキュリティー運用、データセンターとクラウドに対する防御、包括的なデータ保護ソリューションを提供した。POSやATM、複合機などへの組み込みセキュリティーの提供や、大手企業および官公庁、医療、金融などでも実績をあげてきた。
こうした取り組みをベースにして、新生マカフィーは、家族、社会、国をサイバーセキュリティーから守る会社になることを目指すというわけだ。
社会や国を守るといった高い志を持ち、それに挑むマカフィーが、日本において、これからどんな貢献をすることができるのかが注目される。
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