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競合と違う見え方どう作る?参考にしたい”空気づくり”のノウハウ

宿泊予約のRelux・エンジニアにリーチするteratail・ウェブサイト制作のBiNDが考えるブランドとは

連載
ASCII STARTUP ACADEMY

 2017年2月1日に開催された、ASCII STARTUPの講義型セミナーイベント“Startup Professional スタートアップの企業ブランド戦略”。講師としてLoco Partnersの宮下俊氏、レバレジーズの藤本直也氏、デジタルステージの洪泰和氏を招き行なった、そのレクチャーの模様をお届けする。3社のプレゼン内容を通して、新進サービスやプロダクトにおけるブランディング構築の在り方を吸収してほしい。

左から、司会のガチ鈴木、Loco Partners 宮下俊氏、レバレジーズ 藤本直也氏、デジタルステージ 洪泰和氏

「『つながりをふやす』ために。
コンシェルジュへのお問い合わせやレビューより、直接お客様から
フィードバックをいただくことでサービスが成長していく」

 一流ホテル・旅館の宿泊予約サイト『Relux(リラックス)』を成長させ、宿泊予約の新しい可能性を拡げているLoco Partnersの宮下俊氏が語ったのは、「成長過程でのブランディング」だ。宮下氏は同社プロダクト統括部長としてKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)、ホテル・旅館の予約金額でのグロース責任を担っている。

 「Reluxのブランド戦略におけるコンセプトは『日本の贅沢を、心の豊かさに』。ここからプロダクトポジショニングとして、カスタマーではなく、Relux自らが顧客視線で満足度の高い施設を厳選してオススメするReluxグレードを設定。Reluxグレードを設けることで、利用シーンにあった宿泊施設を見つけることができるという安心感のあるサービスを目指しています。また、カスタマーの皆さまが気持ちよくウェブサイトやアプリを利用できるUXの設計も重要です。1つ足したら1つ引く、といった、あくまでシンプルなデザインを心がけています」(宮下氏)

 同サービス開始から4年弱で、会員数が70万人を突破。Relux利用シーンの1位は誕生日で、以下、結婚記念日、婚約・プロポーズ、新婚旅行、家族のお祝いと、特別な日に利用したいサービスとして順調に成長している。グーグルプレイのベストアプリにも2年連続での選出となっている。

Relux

 宮下氏が重要視するコンセプトは2点。競合がいる中でのポジショニングと、表層的なデザインだけではなくどんな思想でサービスを作って磨いていくのかのプロダクトデザインだ。

 Reluxのビジネスモデルは、カスタマーと宿泊施設の両者をマッチングさせ、施設から送客手数料をフィードしてもらうというものだ。業界的に、施設がクライアントになるということは広告費を多く支払う宿泊施設が優先され、露出されやすくなる。だが、広告フィーを優先して広告予算を多くもつ施設の露出を優先すると、一方で顧客満足度は置いていかれる結果となる。これが既存のオンライン旅行代理店業界の課題だった。

 そのためReluxでは、予算のあるなしに関係なく、宿泊施設と旅行者を適切につなぐ構造を意図している。これがReluxの出発点でもあるという。

 「既存のサービスに対してどのようなサービス提供をしているかというと、とにかくシンプルさにこだわっています。具体的には、情報量が多いという状態を良しとはしていません。あえて厳選して我々がキュレーションしておすすめのものだけを紹介していくことで、100%カスタマー目線に振り切ったというポジションを掲げてサービスを作っています」

 業界内ポジショニングの点でも、満足度が高い、絶対にオススメできるものだけを厳選して載せていくが、価格帯については決して高くなくともいい位置を狙っている。現状は高価格帯のホテル・旅館が多い状態だが、これまでにない独自ポジションを築くために「1泊7千円のペンションであっても、ものすごく良質なサービスで出迎えてくれるところもあるので、そういった所も今後は、積極的に展開していきたいと思っています」と宮下氏は語る。

 「カスタマーの皆さまから、Reluxを使えば間違いない・はずれがないと思っていただきたいというのが、僕らのブランドのコアバリューになります。人生の大事な場面、外せない場面で旅行に行かれるカスタマーの方が多くいるのでReluxを使ったときに、Reluxなら間違いないと思っていただけるかが大事なことです」

 Reluxでは特に “おもてなし”に力を入れており、コンシェルジュが丁寧にメールや電話でやり取り。またRelux経由での予約には、チェックイン時フロントで手書きの手紙を渡すというサプライズも用意している。そして、ブランドを広めるためにSNSも徹底活用。Facebookでは業界トップの79万人以上ものファンを誇り、これらを利用して潜在層にリーチさせている。加えて、新しいサービスを即座に利用して、「旬を追いかけた施策を打っている」と説明した。

「プログラマー、エンジニアの問題解決を加速させること自体が、
世の中にとってはいいことなんだという考え方に落ち着き、
そこでの行動が結局ミッション、ビジョンに落ちていった」

 新規事業立ち上げから2年で日本中のエンジニアにリーチするメディアとなった「teratail(テラテイル)」の企画からグロースを担ったレバレジーズ藤本直也氏は、「新サービスの拡大方法」を語った。

 「僕の中では、結局ブランディングとはすべての活動について特定のブランドを守りながら行なうこと。さまざまなマーケティング活動を通して、自分たちの“競合とは違う”見られ方を作ることだと思っています。teratailのブランドづくりの場合は、『行き詰ったときにわからないことを質問すると解決するサイト』と定義しました」(藤本氏)

 技術者が技術的問題に遭遇すると、Googleなど検索して自分で考えたり調べたりする。それでもわからなければ誰かに訊く。それでもなお解決しないどうしようもない状況に遭遇したときにteratailに訊けばすぐに解決となるサービスを目指したそうだ。

 「ビジネス目的の達成において、”ブランドを守る”というルールを追加するのが大切です。特にスタートアップや新規事業関係では、とにかく時間がない。解決すべき課題に対してブランドを守った解決策を実行していくという視点を持つことが重要となります」

 teratailを立ち上げたとき、一番大きな課題は質問する人の獲得だったという。「世の中は意外と答える人が多い一方で、エンジニア業界では逆に質問してくれる人が枯渇していました。結局、ユーザーの心情を深く考えてみると、『誰かに教えてもらうとかダサい』、『質問してディスられたらどうしよう』とか、そういうのが顧客インサイトとしてあることがわかりました」

teratail

 そこでまず行なった施策はパブリシティーだ。「エンジニアがteratailで質問し、回答がつくことでその質問者は助かる。そして質問と回答のログをコンテンツとして残すことによって、それを後から見た人も問題解決できる。そんな“エンジニア同士が交流して成長できる場”を目指す」(藤本氏)というような社会的意義を、エンジニアが集まるニュースサイトでの広報活動を通して醸成していったという。

 ほかにも、teratailで実際に回答しているユーザーへのインタビューをウェブメディアで連載・寄稿し、「この人が答えてくれるなら質問しやすいかも」と感じられるようにサイトの空気を伝えたり、teratail開発チームによる技術誌への連載コラム寄稿を通じて「すごいエンジニアが作っているから使おう」という空気づくりを行なうことで質問者を増やしていった。

 また、業界のトップエンジニアを”エキスパートユーザー”として認定。「teratailを使うことがスタンダード」という感覚形成まで行なっている。

 ”ブランドを守る”施策の具体例としてはウェブ広告でのエピソードを披露。たとえコンバージョンレートが高くとも、美女を起用するような広告をブランド的には不適切として排除した。加えて、チーム内で目指すべきブランドの姿をミッション・ビジョンにまで落とし込んでメンバーに共有し、チームビルディングを実行。ブランドを築いていくために、短期的な成果を犠牲にしたり、長期的な視点で組織にブランドを根付かせたりした。

 「施策、つまり行動したことのすべてがブランドにつながります。初めにブランド設計をきちんとしておかないと後々負債になっていきますし、逆に設計できていればどんどんブランドが積み重なっていくはずです。ブランド設計を詰めなおすのは、実は短期的には成果を上げないんですけど、長期的にはものすごい重要なんじゃないかなと思っています」

「“すべての人をクリエイターに”というスローガン。
ウェブを使ってなにかしたい人がウェブで挫折してはいけない、
手助けしたいという思考で動く」

 ウェブサイト作成に使えるツール『BiND』を販売するデジタルステージのウェブディレクター洪泰和氏は、「ウェブサイトのデザイン」の観点からブランディングを語った。

 「私はもともとデザイナー出身ですので、可視的なブランドメディアについてお話します。そもそもブランディングは数値化しにくい企業資産のため、企業でも軽視されがちな分野です。しかし軽視してしまうと、価格やサービス競争での自社コスト増、利益率の低下、さらには市場シェアの低下という道をたどり、負の連鎖に陥りがちです。自分たちの企業価値を高めていくうえで、やはりブランディングを仕掛けなければなりません」(洪氏)

 「BiND」の発表当時はハイクオリティーなデザインが作れるソフトはほかになかったが、近ごろはライバルも増えてきた。そこで、作って終わりというわけではなくユーザーと一緒に育てるサービスとして、クラウドを中心に打ち出し、「信頼できるサービス」としての差別化をはかったという。

BiND

 「たしかに商品が進化していく中でターゲットが変わっていくこともあります。そのなかでターゲットに対する伝え方などをどう整理して打ちだすかを考えなければなりません。それでも決して軸はぶらさない。また、サービスの立ち上げでは、ストーリー設計も重要です。サービス立ち上げ後は、ユーザーの声を訊くことが大事ですが、それでも主導権は必ず自分たちで握り、ブランディングしてビジョンを伝えていくという作業だけは怠ってはなりません」

 BiND開発も手掛けている洪氏によると、ブランディングのためのウェブサイト戦略とは以下のようなものだという。

 1・2)でのポイントは、ブランド作りには、一貫したイメージを使っていくことが重要となる。一瞬で何を伝えるのか、誠実にアピールすることは信頼感につながるという。

 だがユーザーからすると、一定以上に演出された感を受けると引かれるともある。そこで3・4)で語られたのは、オリジナルなコンテンツのあり方だ。たとえば素材集でよく見るようなモデルを使うと、何のサイトなのかわからなくなる。具体的な写真よりも抽象化したもので、テキストを引き立たせたほうが違いがより出てくるというわけだ。

 5)のオウンドメディアでは、ストーリー戦略でファンを育てられるという点が非常に有利になっている現状がある。作り手の想い、ビジョンを伝えるメディアでファンを獲得して、そうやって相互理解を深め合っていくと顧客はちゃんとついてきてくれる。

 以上のような形で、計画を立てて実行していくが、それで終わりではない。改めて改善すべき部分をチェックし検証するサイクルを作ってまわしていく。そうやって全体を少しずつ改善していくことが重要だ。「わが子を育てるようにじっくりじっくりいっていただいた方がいいと思います」(洪氏)

 最後に、洪氏はちょっとしたおまけとして、デザインの観点だけでは判断できない例を挙げた。下記のサイトに注目してほしい。

 「エアコンの取り付け業者の見積もりを探していまして、検索していたら候補サイトがたくさん出てきました。そのなかで、このサイトが良いと思い決めました。なぜかと言えば、取り付け業者は地域に密着した人と人とのコミュニケーションの雰囲気が重要なんです。デザインの文脈でいえば大手メーカーのエアコン修理会社のサイトは安心感がある一方で、無機質な感じがしたのです」

 実際検索してみると、同社サイトは上位ランクにあったという。「運営自体はかなり頑張っていて、なんとなく安くやってくれそうとか、人がいい、親切そうな印象、といった所を感じて私はここにしたんですけど、ではデザイナーとしてこれを作れと言われたら、無理だなと。これに関してはいまだに私は敗北しているんです。ブランドという点で見ると、必ずしもデザインのクオリティーが高いものが答えではないと思います。ブランディングはいろんな方向からの攻め方があるという一例でした」

 それぞれの立場によるブランド構築の考え方や施策を披露した今回のセミナー。来場者との質疑応答も活発に行なわれ、充実した時間を過ごすことができたようだ。

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