医療体験を変えるベンチャー・メドレーが担うミッションとは
生命にかかわる情報を扱う慎重さとベンチャーならではのスピードを両立させたい
「この1年でずいぶん成長したと自分でも思います。とりあえず”社会人2年目”とからかわれることはなくなりました(笑)」
昨年、”代表取締役医師”という風変わりな肩書をもつメドレーの豊田剛一郎氏に本誌がインタビューしたとき、医師からスタートアップ企業の経営者という大胆なキャリアチェンジを果たしたばかりの豊田氏は、まだ必死に新しい環境になじもうとしていた印象が強かった。
それから約1年あまりを経た現在、医療情報サービスプラットホームとしてのメドレーも、代表取締役医師としての豊田氏も、新たな成長フェーズに突入したようだ。日本の医療を取り巻く環境が大きく変わろうとしている現在、メドレーと豊田氏は医療の世界に何をもたらそうとしているのか話を伺った。
病についてネット上の情報は玉石混交だった
メドレーは2009年6月、現在も代表取締役社長を務める瀧口浩平氏によって設立されたスタートアップだ。医療および介護業界の人材情報を提供する「ジョブメドレー」から始まり、2015年にインターネットを通じた医療情報の提供を行う「MEDLEY(メドレー)」、グリーから譲渡となった介護施設の情報サービス「介護のほんね」を開始した。さらに2016年2月には遠隔診療の導入支援システム「CLINICS(クリニクス)」を開始し、サービスの幅をひろげている。いずれも患者とその家族、そして医療従事者の双方が納得できる医療の実現を目指している点が大きな特徴だ。
豊田氏がメドレーにジョインしたのは2015年2月。同時に、あらゆる医療情報をワンストップで提供する、オンライン病気事典「MEDLEY」をリリースした。2016年5月現在、1400以上の疾患、約3万の医薬品および約16万件の医療機関について詳細な情報が掲載されている。常に正しい最新情報を提供するため、300人を超える医師の協力のもと、情報の改訂を日々行なっている。
この1年を振り返り、「病気はもちろん、医薬品や医療機関の情報も充実し、情報量は格段に増えた。量だけでなく、質の面でも良い情報が確実に積み上がっている」とサービス拡充に豊田氏は自信を見せる。だがその一方で「情報が蓄積されればされるほどに、どうやってユーザーに届けるのかという我々の課題も増えていく。情報の蓄積は言ってみれば筋トレのようなもので、その情報をどのよう活用するかというチャレンジが出てくる感じ。実践トレーニングを重ねながら、医療の世界をより深く掘り下げていかなくては、と実感している」と同社が向き合う課題の大きさも認めている。
重い病に悩む患者とその家族にとって、病院あるいは医師を選ぶという行為は慎重を期す、不安を伴う選択である。だが昔と違い、いまはインターネットから多くの情報を得られるようになった。医療機関に相談する前に病名や症状で検索をかければ、病気の詳細から患者の体験談、医師の所見、関連する医薬品に至るまで、それこそありとあらゆる情報に接することができる。だが、それらの情報が信用するに値するかというと話は別になる。ネット上の情報は玉石混交で、しかも患者にはその正誤を判断する知識に乏しい。得られる情報が増えれば増えるほどに、患者側の不安と混乱が増大するケースも少なくない。
メドレーはそうした問題を解決するべく、質の高い医療情報を媒(なかだち)にして、患者と医療機関の間をつなぐ存在になることを目指している。豊田氏は「患者が質の高い情報を求めるのは当然のことで、一方で医師の側も正確な情報を提供したい。誤った医療知識が拡がることを憂慮している医師は多い。医療に関する深い知識と経験をもつメドレーだからこそ、患者のニーズにマッチした正しい情報を提供できる」と語る。
では、サービス開始から1年以上を経た現在のメドレーは、現在どのような状況下にあるのか。