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ITバブルの精算

2002年12月16日 08時37分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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現在のサーバ利用率が平均6~15%というのは、裏を返せばこれまでユーザーは不要なサーバを大量に購入していた、ということである。この「不要な設備の大量導入」こそが、ITバブルの実体だろう。当時、急速に環境整備が行なわれ、一般消費者にもインターネットの利用が当たり前のものとして普及しつつあった。あたかも、全世界規模の消費市場が忽然と出現し、市場規模がいきなり倍以上に膨れあがったかのような幻想が業界を覆った。実際には、市場へのアクセス手段が改善されることで確かに新規需要の掘り起こしが可能にはなったが、購買力の総量としては、世界人口が倍増したわけではない以上倍加することなどありないのだが、当時インターネットのトラフィックの急増を目の当たりにするとそんな悲観的な予測をする気にはなれなかったものだ。そして、急増するトラフィックに対応し、さらに今後も同様のペースでトラフィックが右肩上がりに増え続けるという前提で大量の機器が導入されることになった。こうして起こったITバブルの恩恵を受けた企業の中でも目立った存在が、IPルータのトップメーカーだったCISCOと、インターネットサーバのシェアが高かったSunである。つまり、ITバブルの時期のSunの右肩上がりの急成長は、「不要な機器を大量導入した顧客」によってもたらされたものだと言える。

N1では、この時期の急成長をある意味で否定する存在である。ITバブルの時期の商売を反省し、不要なものを大量に売りつけるような業界は結局ユーザーの支持を失う、という観点に立って、地道な商売に回帰する方向性を打ち出した結果がN1として結実したとみてよいと思う。さらに、同様の“拡大神話”の産物とも思えるのが、Sunがことあるごとに語る「シェア争いはせず、パイの拡大を狙う」というメッセージだ。限られたパイの分け前を巡って業界内で争うのではなく、パイそのものの大きさを増やすことで全員が利益を拡大していく方向で協調しましょう、というある種理想主義的な考え方だ。この考えによって、Sunはさまざまな企業とアライアンスを組み、共存共栄路線を歩んできたわけで、この路線は基本的には維持されるだろう。ただし、IT産業も成熟に向かうにつれて、市場拡大の余地はどんどん残り少なくなっていき、いずれは飽和を迎えるだろう。「N1の導入によってシェアを高められる」という発想は、やはりそうそういつまでも市場が拡大し続けるとは思っていられない、という発想の芽生えのように感じられる。もっとも、N1に関しては、従来大きなウェイトを占めていた管理コストを削減することによってサービスに使える予算が拡大し、その余裕が新たな需要を生む、という希望も持ってはいるようなので、Sunが市場拡大への期待を捨てたわけではないようだが。

改めて言うまでもなく、IT不況は長引いており、ユーザーはますますIT投資を絞り、必要性を見極める目もさらに厳しさを増している。吟味に吟味を重ねた上で、必要不可欠なものについてのみ購入する、という“賢い消費者”が増えている状況だ。11月にSan Franciscoで開催されたOracleWorldを取材した際にも、「ITユーザーのコスト意識の高まりにどう対応するか」という問題がIT業界の各企業の重要なテーマとして浮上していることが肌で感じられた。N1は、Sunのこの状況に対する対応策のなかでも、重要な位置を占めるだろう。そして、“ITバブル後”のSunの進むべき道を指し示す道標となるはずだ。

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