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OSとCPU

2000年10月19日 01時08分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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この連載では、Sun Microsystemsを中心に据えつつIT分野の動向を眺めていくことにする。なぜSun Microsystems(以下Sun)かというと、同社がこの分野でのキープレイヤーの1人であり、ネットワークコンピューティングの未来像を描き、現実化する力を持つ重要な存在だと考えるためだ。もちろんこうした立場に立つ企業は他にも数社あるので、それら他社との戦略の違いや比較なども折々試みていくつもりだ。

 コンピュータにとっては、CPUとOSは特に重要なコンポーネントであるといえる。この2つでコンピュータのパフォーマンスや使い勝手がほぼ決定されると言ってもよいだろう。もちろん、ハードウェアのパフォーマンスはCPUのみで決まるものではないし、OSだけでユーザーにとっての利用価値が決まるわけでもないが、システム全体の中での重要度は、やはり他の要素よりも相対的に高いと考えてよいだろう。そして、コンピュータメーカーの特徴がよく現われる部分でもある。

 Sunのコンピュータは、基本的に「シングルアーキテクチャ」となっている。“基本的に”とはどういうことか、というと、実は必ずしもすべてが同じという意味ではないからである。

 ハードウェアに関しては、リリース時期やラインナップの中での位置づけ(エントリー向けなのかハイエンドサーバ機なのか)によって何種類かのアーキテクチャがある。PCの発想でいうと、マザーボードやチップセットに相当する部分のアーキテクチャが何種類かある、というのに近い。CPUとメモリ、I/Oコントローラ群を接続するためのシステムバスに相当する部分では、現在では「クロスバースイッチ型」のものが使われている。現時点での最新システムである、UltraSPARC IIIを搭載したワークステーション「Sun Blade 1000」では、この部分に「Sun Fireplane」というアーキテクチャが採用されている。一方、これまでのUltraSPARC IIシステムでは、ここは「UPA(Ultra Port Architecture)」という方式であった。さらに、ハイエンドサーバであるSun Enterprise 10000(Starfire)では「Gigaplane-XB」というセンタープレーンが採用されている、といった具合である。

 この部分の違いはいずれ機会があればまた触れるとして、CPUに注目すると、「SPARC」チップであるという点で共通している。SPARCは“Scaleable Processor ARChitecture”の頭文字だ。確かに、一番最初の32bitチップから現在の64bitチップまで、バイナリ互換性を維持しながらスケーラブルに発展を続けているCPUである。Sunは、SPARCを核にハードウェアを構成しており、結果としてごく初期(10年以上前)のシステムから現在の最新システムまで、ローエンドのエントリワークステーションからハイエンドサーバまで、バイナリ互換性を保っている。

 これは、ユーザーにとっては大きなメリットになる。現在の複雑化したコンピュータシステムでは、実はハードウェアの価格がシステム全体のコストに占める割合はさして高くない。そのため、システムの更新にあたってハードウェアを最新のものに置き換えるのは抵抗なくできるが、ソフトウェアの移植作業が必要だとなると、とたんにコストも手間も跳ね上がることになる。

 デメリットは、SPARCチップの進化が停滞し、他のアーキテクチャと大きな差が付くようだと、ユーザーとしても苦しい選択を迫られることになる点だ。実際、IntelアーキテクチャのCPUに比べると、SPARCの機能強化のペースはやはりゆっくりしたものになっている。これは、ターゲットとする市場の違いを考えれば必ずしも問題とは言えないのだが、最近ではクロック周波数の向上では明らかに遅れを取っている。UltraSPARC IIでは中心的な品種は400MHzや450MHzといったものである。つい先日発表されたUltraSPARC IIIでは750MHz版がまず最初に出荷され、来年には900MHz版が投入される予定だ。AMDやIntelが相次いで1GHzというクロックを達成し、一般ユーザー向け市場で量産出荷している現在、UltraSPARC IIIのクロック周波数はさしてインパクトのあるものではない。もちろん、根本的なアーキテクチャがまったく異なるCPUの、クロック周波数だけを取り出して比較するのは無意味だし、CPUのクロックだけが高くてもシステム全体のパフォーマンス向上にはほとんど寄与しないという問題もあることは忘れてはならないのだが、今後も着実に進化し続けるかどうかはユーザーにとっては大きな問題であり、その点に不安を感じさせないよう努力を続ける必要がある。

 実は、SPARCの仕様は一般に公開されており、Sun以外の企業が採用することも可能なのだが、当初の構想とは異なり、SPARCが広く一般的に普及する状況にはならなかった。SPARCは、ソフトウェアとの接点である「インストラクションセット」のレベルで仕様が決められており、“SPARC”を名乗るためには厳密な互換性テストにパスする必要もある。Javaで行なわれた互換性維持の手法が、SPARCではずっと守られてきているというわけだ。もちろんSunも例外ではなく、新世代のUltraSPARC IIIでも互換性は維持されているし、自社だけの都合で勝手な改変はできない体制となっている。これは、ユーザーにとっても、SPARC向けのソフトウェア開発を行なう企業にとっても安心感を与えることになっているのだが、反面IntelがIA-64でEPICを採用したように、新しいアーキテクチャの導入で大幅な性能向上を狙う、というやり方は採りにくいという制約にもなっている。

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