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日本IBM、シェア50%獲得を狙う『POWER4-1.4GHz』搭載ハイエンドUNIXサーバー発表

2001年10月05日 13時55分更新

文● 編集部 佐々木千之

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日本IBM(株)は4日、メインフレームの技術を投入したハイエンドUNIXサーバー『eServer pSeries 690 モデル681』“Regatta”(レガッタ:コードネーム)を発表した。pSeries 690は1.1/1.3GHz動作の『POWER4』プロセッサーを最大32基搭載し、従来機の2倍の性能という。11月に限定出荷を開始し、12月14日に本格的な出荷を開始するとしている。

『eServer pSeries 690』『eServer pSeries 690』

pSeries 690には、これまで同社のメインフレーム『eServer zSeries』で提供してきた、MCM(Multi-Chip-Module)プロセッサー、LPAR(エルパー:論理パーティショニング)技術、“eLiza(イライザ)”と呼ぶ自己修復機能などを搭載している。

POWER4

pSeries 690が搭載するPOWER4は、0.18μmプロセスの銅配線技術と、SOI(シリコン・オン・インシュレーター)(※1)技術を採用した、1.1GHzまたは1.3GHz動作の64bitマイクロプロセッサーを、1チップ上に2つSMP(対象型マルチプロセッサー)構成でL2キャッシュメモリーと共に搭載し、さらにこのチップ4つをまとめて8wayのSMP構成としたMCMパッケージとなっている。MCMには3次キャッシュメモリーも搭載している。pSeries 690には1から4のMCM(8、16、24、32way)の搭載が可能。

※1 二酸化シリコン薄膜を使用してチップ上のトランジスターの絶縁を行なうことで、トランジスターの漏れ電流を低下させる技術。漏れ電流が減ることで、消費電力が減り、より高速な動作が可能になるという。

『POWER4』のMulti-Chip-Module
『POWER4』のMulti-Chip-Module。これ1つに8つのマイクロプロセッサーを内蔵する
pServer 690にPOWER4を最大4つ(32way)搭載可能
pServer 690にPOWER4を最大4つ(32way)搭載可能

1チップ(2つのマイクロプロセッサーと2次キャッシュ)あたりのトランジスター数は1億7000万個という。なお、1次キャッシュは命令キャッシュ64KB、データキャッシュ32KB、2次キャッシュは720KBまたは1440KB、3次キャッシュは16MBまたは32MB(いずれも1マイクロプロセッサーあたり)としている。マイクロプロセッサーと2次キャッシュ間のバンド幅は毎秒100GB、2次キャッシュと3次キャッシュ間のバンド幅は毎秒13.9GB、3次キャッシュとメインメモリー間のバンド幅が毎秒12.8GBとなっている。メインメモリーへのアクセスは4MCM(32way)時に最大16チャネルあるため、メインメモリーとPOWER4の最大メモリーバンド幅は毎秒205GB(毎秒12.8GB×16)としている。

pServer 690とSun Fire 15Kとの比較
pServer 690とSun Fire 15Kとの比較

発表会では、コンパックコンピュータ(株)の『Alpha 21264C』1GHz版、サン・マイクロシステムズの『UltraSPARC-III』900MHz版、ヒューレット・パッカードの『PA8700』750MHz版など他社のUNIXサーバーが搭載するCPUとのベンチマークテスト結果(※2)を提示し、単体のプロセッサー性能ではもちろん、システム性能でも他社の最新プロセッサーを上回るものだとした。POWER4-1.3GHzのSPECint_base2000の値は783、SPECfp_base2000の値は1098で、サンのUltraSPARC III-900MHzはSPECint_base2000の値が439、SPECfp_base2000の値が427となっているという。

※2 米Standard Performance Evaluation社の“SPECint_base2000”、“SPECfp_base2000”。http://www.specbench.org/

他社のプロセッサーとのベンチマーク結果比較
他社のプロセッサーとのベンチマーク結果比較

LPAR(Logical Partitioning)

LPARとは、pServer 690のプロセッサーやメモリーなどのリソースを、プロセッサーは1個単位、メモリーは256MB単位で論理的区画に分割(最大16区画)して、それぞれ別の独立して動作させることができる技術。pServer 690のOSは『AIX 5L』であるが、Linuxについても論理区画上で動作可能としたという。LPARもzServerで実現していたもので、同社によるとUNIXサーバーとしては初めて可能になったという。

サン・マイクロシステムズ(株)が同日午前に発表したハイエンドUNIXサーバー『Sun Fire 15K』や、日本ヒューレット・パッカード(株)の『superdome』などは、物理的に分割して独立させるPPAR(ピーパー:Rhysical Partiotioning、物理分割)機能を備えているが、たとえばSun Fire 15Kでは最小単位が4CPU+32GBで、LPARのほうがきめ細かな設定が可能であるという。また、pServer 690のLPARでは、ある区画の負荷が高くなったときに、別の区画のリソースを動的に割り当てるといった柔軟な運用も可能としている。

自己修復機能(eLiza)

同社はサーバーに自己管理機能を持たせることを目的とした“eLiza”プロジェクトを推進している。eLizaでは、運用に影響を与えずにシステムの再構成を可能にする“自己構成”、システムリソースとワークロードを自動的に最適化する“自己最適化”、不正なアクセスを自動的に防御する“自己防御”、障害を事前に検知・修復して常時稼働を可能にする“自己修復”の4つの機能実現を目指しているという。

pSeries 690にはこのeLizaの成果として自己修復機能を搭載した。バックプレーン上の各所にエラー情報を検知するエラーチェッカーを配置し、稼働中のエラー発生時には問題となった部分のみを分離する動的縮退機能(Dynamic Deallocation)を備える。他社のシステムでは、自己診断はブート時のみに行なっており、稼働中に障害が発生すると、その障害を含んだパーティーションを一旦停止するが、pServer 690は障害パーティーションであっても(パフォーマンスは落ちるが)稼働させる。これについて日本IBMでは「他社は稼働中の保守を重視しているが、IBMはとにかくシステムを止めないことを最重要視している。設計思想の違いだ」(Webサーバー製品事業部の東上征司事業部長)と述べている。

メモリーエラーに関しては、ECCによるシングルbitエラー訂正だけでなく、“Chipkillメモリー”と呼ぶマルチbitエラーにも対応する。Chipkillメモリーとは、複数の物理メモリーにあるアルゴリズムによってデータを分散して書き込む。したがってマルチbitエラーが起きても、1つのメモリーチップ上のエラーは1bitのエラーであるため、ECCにより修復が可能という。東上氏は「Chipkillによってメモリーエラーレートは100分の1になった。たとえば他社のサーバーでは512GBメモリーを積んでいれば、1月に1回はメモリーエラーで落ちる。IBMでは8年に1回の計算だ」という。

pServer 690全体としてのシステムダウンは「従来の同社のシステムに比べて、3分の1、他社に比べると10分の1」(東上氏)としている。

なお、pSeries 690と同時に、750MHz動作の『RS64IV』プロセッサーを最大8基搭載可能なミッドレンジサーバー『eServer pSeries 660』、375/450MHz動作の『POWER3-II』プロセッサーを2基搭載可能なローエンドサーバー『eServer pSeries 610』を会わせて発表した。pSeries 660が10月4日出荷予定で1217万1200円から、pSeries 610が10月26日出荷予定で179万8800円からとなっている。

また、pServer 690は日立製作所(株)から『EP8000』シリーズとしても発表されている。

サーバーの主導権争いに終止符を打つ

このpServer 690の発表は世界同時(4日付)で行なわれたものというが、日本では同日午前中にサン・マイクロシステムズ(株)がハイエンドUNIXサーバー『Sun Fire 15K』を発表した。これらの2機種は発表前からお互いをライバル機種として開発されてきたものだ。

日本IBM理事でシステム製品事業担当の小出伸一氏
日本IBM理事でシステム製品事業担当の小出伸一氏

日本IBM理事でシステム製品事業担当の小出伸一氏は記者発表冒頭「午前中サンがStarcat(Sun Fire 15Kの開発コード名)を発表したが、我々が発表するRegattaは1.2倍から2倍のパフォーマンスを持ち、価格は2分の1だ。(※3)サンも銅配線のUltraSPARC IIIを搭載しているが、IBMはすでに数年前から銅配線を採用しており、加えてSOI技術も採用している。pSeries 690にはeServer zSeriesのハイエンドテクノロジーを導入し、ミッションクリティカル市場向けマシンとして他社にまねのできない拡張性と信頼性を実現した」と性能とコストパフォーマンスに絶対の自信を見せた。

※3 pSeries 690の価格は最小構成(POWER4-1.1GHz 8way、メモリー8GB、HDD36.4GB)で8195万8400円、Sun Fire 15Kは最小構成(UltraSPARC III-900MHz 16way、メモリー16GB、HDD54.6GB)で2億8236万9000円。

小出氏は「従来ミッションクリティカル市場はzSeriesの領域だったが、今後はRegattaやIAサーバーなどUNIXサーバーの主戦場になる。日本IBMの国内UNIXサーバーのシェアは2001年上半期にトップの富士通に0.5ポイント差まで追い上げた。次はなんとしてもトップを取る」と過去に富士通に奪われたシェアの奪還を宣言、さらにpSeries 690やSun Fire 15Kの登場で、さまざまなメディア上に“IBMとサンの2社に絞られたサーバーの主導権争いはどうなるか”といった記事が出ていることに触れ「サーバーの主導権争いに、本日の発表を持って終止符を打ちたい」と述べた。

日本IBMの日本のハイエンドUNIXサーバー市場におけるシェアは現在20~25%で、「pSeries 690により来年度50%に倍増したい」(東上氏)という。

IBMは、メインフレームで培った技術をハイエンドUNIXサーバーへつぎ込むとともに、ほかのサーバーラインアップとの部品共通化などによって、サンに対して性能面、価格面で優位に立った。「今後は徹底的にベンチマークに持ち込んで、優位性をアピールしたい」(小出氏)という。弱点はこの分野で実績のあるサンに対してソフトウェアが少ないことだろう。これについては「12月出荷時には、ISVのソフトウェア300本を用意する」(東上氏)としており、ISVに働きかけるなどして、ソフトウェアラインアップをさらに充実させる意向だ。IBMとサン以外のハイエンドUNIXサーバーとしては、日本ヒューレット・パッカードの『superdome』、コンパック・コンピュータの『Compaq AlphaServer GS320』もあるが、IA-64にプロセッサーを変更するとアナウンスしている上、両者が合併することになっており、今後のロードマップが見えにくくなっている。pServer 690とSun Fire 15Kの出荷が本格化する12月以降は、両者の一騎打ちという展開が予想される。2002年のハイエンドUNIXサーバー市場は激しい戦いになりそうだ。

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