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Sun ONEへの道のり

2001年03月05日 04時42分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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Sunは2月5日にSun ONE(Sun Open Net Environment)を発表した。Sun ONEが何かを一言で表現するのは難しい。ソフトウェアであり、製品体系であり、アーキテクチャであり、コンセプトでもあるように私には思える。ともあれ、Sun ONEが実現しようとしているのは、“Open, smart Web Services”である。「オープンでスマートなWebサービス」と言い換えてみてもあまり意味はないようだ。単に英字をカタカナに置き換えただけである。

「オープン」はまぁよいとして、スマートとはどういう意味だろう。英単語としてのスマートは、日本ではなぜか「痩せている」というニュアンスで使われることも多いが、実のところ「知性を感じさせる格好良さ」といった意味合いを持った言葉だ。Sun ONEでいうsmartは、別の表現では“Context-Aware”と言い換えられている。これまた日本語にしにくいのだが、その意味するところは「状況を理解して適切な動作ができる」という感じである。Contextという語にはよく「文脈」という訳があてられるが、Sun ONEの説明の中でContextの例として挙げられたものは実に多岐に渡る。ユーザーに関する情報として、誰なのか? 役割は? どこにいる? 今は何時? 好みは? 制約事項は? などなど、さまざまな情報を勘案して最適なサービスを提供するというわけだ。

Sun ONEの関連ドキュメントの中で例示されているのは、たとえばメッセージを送ってくる電子メールのようなサービスが、ユーザーが自動車を運転している最中であれば音声でメッセージを読み上げ、会議中であればテキストでPDA等に表示する、といった具合にデータの形式を変換してくれる、というものだ。

Sun ONEはとても大きな世界で、膨大な技術分野を含む統合的なものだ。正直言うと私自身もまだ全貌を整理できていないので今後理解できた部分から折に触れてご紹介させていただきたいと思っている。ここでは、Sun ONEの詳細に踏み込む代わりに、その広がりの大きさを指摘しておきたい。

Sun ONEでは、あらゆるプログラミング言語、あらゆるネットワーク、あらゆるデバイスが対象となる。プログラムやサービスは、WebだのPCだのコンピュータだのといった領域に閉じこめることなく、デジタル社会全域をカバーすることになる。先ほど例としてあげた「自動車を運転中」という状況では、ユーザーが自動車を運転していることをサービスが検知する必要がある。これを、ユーザーが明示的に「自動車運転モード」に切り替えるのでは「スマートなサービス」とは言えない。今時の携帯電話には「運転モード」がボタン1つで設定できるものが多いようだが、これは面白くも何ともない話だ。ユーザーがいる場所をサービスが自動的に認識する。さらに、サービスによってはGPSや携帯電話、PDAなどさまざまなデバイスに情報を送り、逆にそれらが持つ情報を取得する。ネットワークの中のバーチャルな世界に実装されているサービスがリアルな世界とついに密接なコンタクトを取ることになるのだ。

このアイデアは、実は数年前に示されている。Jiniがそうだ。Jiniでは、狭い範囲のネットワークを利用し、その場の状況に応じたプログラムを動的に配信してサービスを提供する、というコンセプトが語られた。この考え方が発展して“Open, smart Web Services”に繋がっているはずだ。Bluetoothのような狭い範囲をカバーするネットワークに、動的に配布されるソフトウェアコンポーネントを用意しておけば、ユーザーがいる場所に応じて適切なサービスを提供することは不可能ではない。ここに時刻情報を追加し、あるいはユーザーのスケジューラに格納された情報を参照し、ユーザーの好みや固有の条件を格納したデータベースを参照し……、という具合に発展させていけば、前述の「スマートなサービス」を実現するための道具がそろっていくことになる。Jiniは約2年前、1999年に正式に発表されている。このときから、“Open, smart Web Services”への道のりが始まっていると言ってよいだろう。さらに遡ると、Sun Microsystemsの創立10周年を記念してBill Joyが来日し、講演したのが1992年のことだったと記憶しているが、このときにすでに「たとえばこの部屋自体がコンピュータとしての機能をもち、この場に必要な機能を提供するようになる……」といった話をしているのである。

“The Network Is The Computer”と言い続けたSunといえども、最初からこのような“Open, smart Web Services”を想定していたわけではないだろう。しかし、その歩んできた道のりは、確かにここを目指してきたものだといえるように思われる。そういえば、Sun Microsystemsが創立3カ月後に出荷した最初の製品は、TCP/IPとEthernetを標準装備した革新的UNIXワークステーション“Sun-1”なのだった。

渡邉利和

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