IT業界で仕事をしていると、常にデータの管理に配慮することが求められる。万一、重要な顧客データを誤って削除してしまったら“うっかり”では済まされない。日本語では「削除する」と一括りにしているが、英語ではそこにさまざまなニュアンスを持つ単語が存在する。IT業界で働くあなたは、いくつ挙げられるだろうか。
Delete、Remove、Empty、Erase、Clear ……。普段、我々が「削除する」という意味で理解しているこれらのIT英単語を、それぞれ「dictionary.com」で調べてみた。
Delete
remove or make invisible(取り除く、または目に見えなくする)
Deleteの意味合いは「目の前からなくす」こと。対象はデータから物理的なモノまでさまざまで、それらを今ある場所から見えなくすること=今ある場所から削除すること、ということになる。Deleteされたデータは、一見すると削除されたように思えるが、記憶領域から完全に消去されたわけではない。例えば、Windowsの「Delete」キーで削除したオブジェクトは、記録から完全に除去されたわけではないので「Ctrl」+「z」キーで元に戻せるのだ。
Remove
To transfer or convey from one place to another.(1つの場所から別の場所へ、移すか運ぶ)
To take away(取り除く)
Removeの主要な意味は「移動する」ことであり、その対象は物理的なモノやそれをイメージさせる存在だ。つまり、Removeはファイルやメディアなどを、今ある場所から移動すること=今ある場所から取り除くこと、という意味になる。たとえば、Windowsでごみ箱にRemoveされたファイルは、名目上は削除されたことになっているが、実際はごみ箱の中に残っている。Removeされた対象物は、今ある場所からは削除されたが、他の場所(フォルダ、ストレージ、現実世界)には残っているのだ。
Empty
Holding or containing nothing(何も保持したり含んだりしない状態)
Emptyとは「空っぽにする、空っぽの状態」のこと。Windowsの「ごみ箱を空にする」などに用いられるように、ある“入れ物”を空にする=ある領域内のデータを削除する、という意味である。入れ物を空にするEmptyは、RemoveやDeleteとは異なり、データは存在自体が除去されるので、基本的には元に戻らない。それを表しているのが次の英文だ。
It is very important that you empty the trash bin after you've deleted messages.(メッセージを削除した後にごみ箱を空にするのは、とても重要なことです)
つまり、DeleteもしくはRemoveされたデータは、Emptyされることで初めて記憶領域から除去されるのだ。
Clear
To rid of impurities, blemishes, muddiness, or foreign matter(不純物、傷、ぬかるみ、または異物を取り除いて[きれいにする])
Clearには、ある領域から「不要なものを消去する」という意味合いが含まれている。それがIT業界ではどのように使われているのかを、次の英文で確認してみよう。
All those files stored in your cache take up space, so from time to time, you may want to clear out the files stored in your cache to free up some space on your computer.(キャッシュに記憶されたファイルが場所を取るので、ときどき場所を確保するためにコンピュータのキャッシュに記憶されたファイルを消去してください)
つまり、何らかの領域ある不要なデータを消去する=メモリやキャッシュに溜まっているデータを削除する、というシーンでよく使われるのだ。Clearはメモリやキャッシュに記憶されていたデータを消去する行為なので、いったんClearされたデータは基本的に元に戻らない。
Erase
To remove all traces of(痕跡をすべて取り除く)
Eraser(消しゴム)という言葉があるように、Eraseは「記録してあるものを消去する」という意味合いが含まれている。それがどういうことを表しているのかを、次の英文で確認してみよう。
Now you can completely erase sensitive files you no longer need. When you delete a file or folder, Secure Erase Trash makes sure that it no longer exists.(あなたがもう必要としない極秘のファイルを、完全に消すことができます。あなたがファイルかフォルダを削除すると、「Secure Erase Trash」は、それを確実に存在しないものとします)
つまり、いったんEraseされたデータなどの対象物は、消しゴムで消した文字が元に戻らないのと同様に、コンピュータの記録上から完全に消去されてしまうのだ。
これまでに挙げた英単語を整理すると、データにとってDeleteやRemoveされることは「削除フラグ(削除するという制御情報)」が発せられたということであり、EmptyやClearされることで「存在する」という信号が無視されて「なかったこと」にされることになる。また、Eraseされることは存在自体を「0」すなわち「無」で塗りつぶすようにして抹消されることになる。一口に「削除する」といっても、単語によって実際の動作に違いがあり、使い分けられているわけだ。
今あなたが直面している「削除する」という言葉が、どんな対象物を、どのように削除しようとするものなのか。それを意識しながらデータを扱うことで、「うっかりミス」を予防しよう。
Illustration:Aiko Yamamoto
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