ITに関わる仕事をしていると、「バーチャル」という言葉によく出会う。日本語で言うところのバーチャルは、「仮想化」すなわち英語の「virtualization」の意味で使われていることが多いようだ。ともあれ、バーチャルという単語を含んだ技術トピックが、これまでにいくつも誕生している。それにしても、なぜこんなにも多用されているのか。
バーチャル(virtual)について、Wikipediaにこう書いてあった。
In computing, virtualization is a broad term that refers to the abstraction of computer resources.(コンピュータ利用において、仮想化とはコンピューターのリソース[計算資源]の抽象化に関する広い意味を持つ用語である)
コンピュータは黎明期から、ミサイルの弾道計算など現実の事象を抽象化(abstract)してシミュレーションすることに使用されていた。つまり、現実を仮想化(virtualization)して再現することは、コンピュータの“最もコンピュータらしい使い方”と言えなくもない。そういう背景があるため、バーチャルという言葉が使われる機会も多いのだ。
ちなみに仮想化を行なうには、まず仮想化する物事や目的を設定し、次に事実・現実的な関係要素から必要なもの(上記のミサイルであれば、ミサイルの質量や推進力、着弾点までの距離や動力など)を抽出する(抽象化)。この抽象化したデータをシステム上に再現することで、物事を実際に「行なっていない」ことを「行なっている」かのように捉えることができる。では、先のIT英文にあったvirtualizationは、実際はたとえば何を仮想化するものなのか。それを解くカギが、WindowsやLinux上に仮想的にコンピュータを生成(PC/AT互換機をエミュレート)する「VMware」の説明文にあった。
Virtualization of VMware is an abstraction layer that decouples the physical hardware from the operating system to deliver greater IT resource utilization and flexibility.(VMwareの「仮想化」とは、ITリソースの利用と柔軟性をより向上するために、物理的なハードウェアをオペレーティングシステムから切り離した、抽象化層の機能です)
本来、OSはハードウェアの上で稼動するものだ。そのため、Windows OSはWindows環境に対応したコンピュータでなければ稼動できない。ところがVMwareは、たとえばLinux上にWindows対応のコンピュータ環境を擬似的に構築してWindows OSを動作可能にしている。
このように、あたかも「ある」ようにする技術をvirtualization、すなわち仮想化と呼んでいる。今後もさまざまなバーチャル技術が登場するだろう。エンジニアは自分が直面しているバーチャルが、どんな対象物をどのような目的で仮想化しているのかを、常々注意するよう心がけたい。
Illustration:Aiko Yamamoto
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