技術的な疑問への回答を探すなら、まずは仕様書やマニュアルをあたるのが常道。でも、それが英文で書かれている場合は、特に苦労する。そのようなIT関連の技術書に頻出する言葉でありながら、日本人にあまり馴染みのないであろうものが「foobar」だ。たとえば、次の文章を見てみよう。
Imagine the Foobar company has some patented technology to do software fast switching and they also implemented LWAPP in their wireless switch because it was the standard.(たとえば“ナントカ株式会社”という企業が、ソフトウェアで高速なスイッチングを行なう技術の特許をいくつか持っていて、その技術の中で標準化されているという理由で、LWAPP(注1)をワイヤレススイッチに組み込んでいるとします)
注1:LWAPP(Lightweight Access Point Protocol)
無線LANスイッチがアクセスポイントを制御するためのプロトコル
このIT英文では「Foobar company」が架空の企業名として使われている。「ある会社」とも訳せるが、長文になる場合は仮の名前を付けておいた方が理解しやすいことがある。そのためにfoobarを用いているのだ。では、次のIT英文は、どのように解釈すればいいのか。
Suppose we have two functions: FOO and BAR. FOO calls BAR...(FOOとBARという2つの関数があると仮定しよう。FOOはBARを呼び出し……)
foobarは「foo」および「bar」という形で使用されることも多い。このような、foobarやfooやbarのことを「メタ構文変数(metasyntactic variable)」と呼ぶ。何だそれ? という疑問はさておき、少しなじみのある文章に書き換えるとすれば、このようになる。
Suppose we have two functions: A and B. A calls B...(AとBという2つの関数があると仮定しよう。AはBを呼び出し……)
fooがAに、barがBに置き換わっただけだが、これでも意味は同じなのだ。実はfooやbarは、たとえ話などに使われる「仮の名前」を表す単語なのだ。そして、複数の「仮の名前」が登場するときは「foo→bar→baz」という順序で使用するのが一般的となっている。つまり「Aさん→Bさん→Cさん」というようにアルファベット順に決めておくと、読んだときにそれぞれの関係を理解しやすいという理屈なのだ。
また日本語には、「なんたらかんたら」や「ホニャララ」という“ある(任意の)単語”を指す言葉がある。これと同じように「foobar」が使われることもある。そして、そのような英単語は、とても多くのバリエーションがある。その一例を次に挙げよう。
foobar, foo, bar, baz, qux, quux, corge, grault, garply, waldo, fred, plugh, xyzzy, thud
ちなみに、日本のエンジニアの間では同じような意味で「hoge(ほげ)」や「piyo(ピヨ)」がよく使用されている。このような単語が技術書に現れたときは、「この名前はあなたの好きなものに置き換えてください」と理解すればいいのだ。
foobarもhogeもこれといった語源が定かでない、プログラマーたちの間で流通するジャーゴン(jargon)である。一般にはあまりなじみのない言葉ではあるが、RFC文書の7%に登場するといわれる頻出単語でもある(ちなみに、RFC(Request For Comments) (注2)3092は“foo”に関する文書となっている)。技術系のメーリングリストなどで「hogeって何ですか?」と聞くのは赤っ恥ものなので、注意したい。
注2:RFC(Request For Comments)
IETF(Internet Engineering Task Force)が正式に発行するインターネットに関する技術の標準を定める文書
Illustration:Aiko Yamamoto
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