IT業界で働いている人であれば、「Web2.0(注1)」の定義について小1時間は語れるはずだ。とはいえ、誰が語るWeb2.0もどこか少しずつ違い、人によっては語ることがためらわれるような“微妙”な言葉でもあるようだ。
注1:Web2.0
アメリカのIT系出版社「O'Reilly Media」創立者のティム・オライリーが提唱したキーワード。Web業界・技術トレンドのターニングポイントとしての「今」、またはその「技術そのもの」などを指す。
Web2.0のように、IT業界をはじめあちこちで議論を呼ぶトレンドキーワードのことを「buzzword(バズワード)」という。そもそも「buzz」はワイワイガヤガヤという「騒音」を示し、そこから転じて「活気」や「噂」を意味する。次のIT英文を読んでみよう。
There has been an incredible amount of buzz regarding Rails.(Rails(注2)に関する噂話(口コミ)は、大いに盛り上がりを見せていた)
注2:Rails(Ruby on Rails)
プログラミング言語Rubyで作成された、Webアプリケーションを迅速に開発できるフレームワークのこと
このように、buzzは「噂」や「口コミ」という言葉で訳されることが多いが、その裏側にはbuzz(声)を発する人々がいることを意識したい。つまりbuzzwordというものは、それらのキーワードを使用する人々の議論や周辺の状況を取り込んだ、広範であいまいな言葉になることが多いのだ。
buzzwordは、広義には業界用語や専門用語の一種と考えられる。その一方で「jargon(ジャーゴン)」という言葉もある。jargonは「職業用語」や「隠語」とも訳されるが、この単語が示す意味は限定されている。たとえば「ユンボ」は建設機械の「ショベルカー」を指し、それ以外の意味は持たない。一方、Web2.0といえばどうだろう。この単語を発した人や受けとった人によって具体的に想像するものが少しずつ違うだろうし、会話をしているうちに変化してくる可能性もあるだろう。こうして人のネットワークが意味を作り出すのがbuzzwordなのだ。
なお、カタカナ語で「バズワード」という場合、「ハヤリ言葉の一種」というような認識で使われていることが多い。だが、本来の意味は前述のとおり。「都合のいい意味付けができる言葉」ということから「売り文句」にもされがちで、一部には毛嫌いされる風潮もあるようだ。エンジニアであるならばIT英語の背景を理解し、語感や何となくの意味で使用しないように心がけたいものだ。
Illustration:Aiko Yamamoto
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