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尿だけで10種類のがんリスクがわかる? 「マイシグナル」の仕組みを調べてみた

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

がん検診は面倒。でも尿1回ならやってもいい

 年をとると、毎年がん検診の案内が届く。面倒で放っておくと、まるで督促状のごとく再通知が来る。でも、自覚症状もないのに病院へ行くのは面倒くさい。胃、大腸、肺……と別々に調べるなんて、なおさらやりたくない。

 そんな面倒くさがりな私が、最近気になっているのが、名古屋大学発バイオAIスタートアップ、Craif株式会社の「マイシグナル・スキャン」だ。検査キットで尿を採取して送ると、すい臓、肺、胃、大腸、食道、腎臓、膀胱、卵巣、乳房、前立腺の10種類(性別によって対象となるがん種は異なる)のがんリスクをまとめて調べられるらしい。最近ではドラッグストアだけでなく、ショッピングセンターやスーパーでも売っているようだ。

「マイシグナル・スキャン」はCMも展開

肺やすい臓から、どうやって尿まで届く?

 膀胱や腎臓は、尿と直接かかわる臓器なのでなんとなくわかる。でも、肺や胃、すい臓の異変まで尿からわかるのだろうか。

 マイシグナルが調べているのは、尿に含まれる「マイクロRNA」だ。 RNAといえば、ワクチンで一躍有名になった「メッセンジャーRNA(mRNA)」を思い浮かべる人も多いだろう。マイクロRNAはそれよりもずっと短い分子で、遺伝子の働きを調節する役割を持つ。がんになると特定のマイクロRNAの量や組み合わせが変化することが知られている。

 細胞は、マイクロRNAなどを入れた「エクソソーム」と呼ばれる小さなカプセルを放出している。がん細胞から放出されたエクソソームも、血液などを通じて全身を巡る。

 ただ、エクソソームが血液から尿へ移る仕組みは、よくわかっていなかった。血液から尿をつくる腎臓には、大きな物質を通しにくい「ろ過」の仕組みがあり、エクソソームはそのフィルターを素通りするには大きすぎるからだ。

 2026年、東京科学大学、東京大学、名古屋大学などの研究グループが、マウスを使った実験でその仕組みを明らかにした。脳や肺、すい臓などのがんから放出された細胞外小胞は腎臓まで運ばれ、腎臓の細胞に取り込まれたあと、反対側へ受け渡されて尿中へ排出される。これは「トランスサイトーシス」と呼ばれる仕組みで、フィルターを素通りするのではなく、腎臓の細胞が尿側へ運んでいるのだという(参考)。

マイクロRNAのパターンから10種類のがんを見分ける

 Craifは、尿中のエクソソームを効率よく取り出し、中に含まれる微量なマイクロRNAを解析する技術を開発している。具体的には、次世代シーケンサー(NGS)でさまざまなマイクロRNAを測定し、蓄積した臨床検体のデータをもとにAIで解析する。がん種によって異なるマイクロRNAの量や組み合わせのパターンから、それぞれのがんリスクを算出する仕組みだ。

尿を採るだけなら簡単。問題はお値段

 ただし、「マイシグナル・スキャン」は、がんがあるかどうかを診断する検査ではない。がんリスクを評価する検査であり、結果によっては医療機関で追加の検査を受ける必要がある。また、公的医療保険の対象外で、通常価格は7万9200円。尿を採るだけならやる、と言ったものの、8万円近いとなると今度は財布が渋り始める。

 そこで始まっているのが、自治体や企業による費用負担だ。島根県美郷町では2026年4月から公費助成でマイシグナルを導入。岡山県新庄村でも交付金を活用した事業の一環として導入されている。企業でも、豊田合成やANAウイングス、岩田地崎建設などが福利厚生として採用している。

 ショッピングセンターで検査キットが買え、自治体の助成や会社の福利厚生で費用を抑えられるようになれば、がんリスク検査はもう少し身近になりそうだ。

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