サッカーとテクノロジー〔FIFAワールドカップ2026〕 第11回
デジタル化の徹底で観客のストレスゼロへ、FIFAワールドカップ2026 現地レポート
6.4万人の熱狂をAIが導く FIFA W杯全スタジアム「デジタルツイン」化が変えた観戦体験
2026年07月18日 09時00分更新
1カ月以上にわたる熱戦を繰り広げてきたFIFAワールドカップ2026も、いよいよ3位決定戦(フランス対イングランド)と決勝戦(スペイン対アルゼンチン)を残すのみだ。そして“サッカーとテクノロジー”を追ってきた本連載も、そろそろ佳境を迎えている。
今回は、ワールドカップのスタジアムで、観客のためにどんなテクノロジーが使われているのかをレポートしたい。
幸運にも筆者は、米国のスタジアムで決勝リーグを観戦することができた。時は7月3日金曜日の夕方、場所はフロリダ州にあるマイアミ・スタジアム(ハードロック・スタジアム)。観戦したアルゼンチン対カーボベルデの試合は、胸が熱くなる名勝負だった。
試合観戦にはスマホの準備が必要 ― 入場はデジタルチケットで
前日、ニューヨークから搭乗したマイアミ行きの機内には、すでにアルゼンチン代表のユニフォームを着たサポーターの姿があった。そしてマイアミ国際空港に降り立つと、深夜にもかかわらずUberを待つ人々で賑わう。ワールドカップのポスターや看板もあちこちに見られ、開催都市ならではの熱気を感じる。
試合観戦に出かける前日、まずはスマホの準備が必要だった。ワールドカップでは紙の入場チケットは廃止されており、その代わりにQRコードを提示する。これを表示できるのは、FIFA公式アプリとは別のチケット専用アプリなので、まずはこれをインストールしておく。
インストールすると、スマホの画面には電子チケットが表示されたが、入場用のQRコードは表示されなかった。これは、開始数時間前にならないと表示されない仕組みだ。さらに、記事の資料(と観戦の記念)にしようと考えてチケット画面のスクリーンショットを撮ってみたが、保存されたのは真っ黒な画像。厳しい偽造チケット対策がとられているわけだ。
アルゼンチン対カーボベルデ戦の試合開始は18時で、観客は3時間前から入場できた。スマホには前日から何度も「スタジアムには早めにお越しください」というFIFAのプッシュ通知が届いた。試合会場であるマイアミ・スタジアムは、収容人数6万4000人以上という巨大スタジアムだ。観客が一度に殺到して入場オペレーションが混乱しないように、早めの来場を促しているのだろう。
入場ゲートや自分の座席まで、専用アプリがすべてのルートを案内
混乱を防ぐ仕掛けはほかにもあった。日本から訪れた筆者には、スタジアムまでの行き方が分からない。ここで役立ったのが、FIFA公式アプリが搭載しているマップ機能だ。現在地から試合会場までの行き方を簡単に調べられる機能で、公共交通機関を使う場合のルートも、駐車場の情報も教えてくれる。
もっとも、ここまでであれば「Google Maps」などの一般的な地図アプリでもできる。ただし、専用アプリによる道案内はもう少し続く。
スタジアムの駐車場に着くと、各国代表のユニフォームを着て、国旗、メッシやマラドーナが描かれた旗を手にした観客たちが、ぞろぞろと入口に向かっていた。試合開始までにはまだ時間があるのに、すでに応援歌を歌っている人もいて、いよいよワールドカップの試合に来たのだなあとワクワクする。
しかし、いざ現地で目の当たりにすると、スタジアムはやはり巨大だ。そして、入場ゲートは観客の座席ブロックごとに指定されている。スマホのチケットには、入場ゲートを示す記号や番号、座席の列や番号は表示されているものの、どこから入り、どうやって自分の座席までたどり着けばいいのか心配になる。
ここでふたたびFIFAアプリのマップが役立つ。自分の入場すべきゲートや座席までのルートをすべて案内してくれるのだ。さすがにこれは一般的な地図アプリではできない、専用アプリならではのサービスである。
スタジアムに入ってからも、アプリのマップ機能は活躍する。飲食店や売店、トイレ、グッズショップなどの場所を探すことができるのだ。マイアミ・スタジアムは3階建だが、階層ごとに座席エリアやショップを表示できるので便利だった。
全スタジアムをデジタルツイン化、リアルタイムの情報もAIに反映
こうしたデジタルの道案内を実現しているのは、FIFAの公式テクノロジーパートナーであるLenovoが開発した「スマート・ウェイファインディング(Smart Wayfinding)」システムだ。利用するのは観戦に訪れたサッカーファンだけではない。メディア関係者や大会運営スタッフ、さらに選手たちも同じ仕組みを使っているという。
このシステムのベースになっているのが、Lenovoがそれぞれの試合会場を丸ごとスキャンして作った「デジタルツイン」だ。各スタジアムを仮想空間上に再現したデジタルツインを使って、AIが3Dの会場案内を作り出す。
このデジタルツインには、たとえば「混雑状況」や「一時通行止めの通路」といったリアルタイムの情報も追加される。AIはこのデジタルツインを参照し、その時々の状況に応じて、最適なルートを案内できる。
ひとりの観客として感じたのは、6.4万人収容の巨大な会場でも「迷わない」「離席しても確実に戻れる」という安心感が、思った以上に大きいということだ。試合そのものには関係しない地味なテクノロジーかもしれないが、確実にストレスを減らしてくれた。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事
-
第10回
ITトピック
史上最大のワールドカップを支える“オフィスワーク”? TCCとTOCのテクノロジー -
第9回
ITトピック
ワールドカップ・優勝トロフィーの数奇な運命 ―FIFAサッカーミュージアム訪問記 -
第8回
ITトピック
選手そっくり! サッカーW杯2026で初登場の3Dアバター、その舞台裏 -
第7回
ITトピック
ワールドカップ2026で実現 より速く、正確なオフサイド判定テクノロジーの裏側 -
第6回
ITトピック
番狂わせ続きのサッカーW杯、その背景に“AI参謀”あり? すべての参加チームが使う「FIFA AI Pro」とは -
第5回
ITトピック
なぜサッカーは国境を越えるのか? スイス・FIFA本部を歩いて考えた -
第4回
ITトピック
FIFAの地下倉庫に潜入! ワールドカップの舞台裏を支える1.7万台のITデバイスはスイスから届く -
第3回
ITトピック
VARへの不信はなぜ消えないのか? 新登場の“審判カメラ映像”の価値を考える -
第2回
ITトピック
サッカーとテクノロジーの16年 ― それはランパードの“幻のゴール”から始まった -
第1回
ITトピック
熱戦支えるテックの進化にも注目! 「史上最大」FIFAワールドカップがまもなく開幕 - この連載の一覧へ















