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フィールドの審判視点を共有する「Referee View」を可能にしたAI

VARへの不信はなぜ消えないのか? 新登場の“審判カメラ映像”の価値を考える

2026年06月19日 10時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 サッカーファンならば、一度はこう思ったことがあるはずだ――「あの判定は本当に正しかったのか?」。VAR(ビデオアシスタントレフェリー)が導入されてから、判定の精度は上がった。しかし、サポーターの「納得できない」という不満は消えていない。その理由は、技術の問題ではなく「見せ方」の問題なのではないか。

VARへの不満はなぜ消えないのか?

 VARでリプレイ映像が流れるとき、画面に現れるのは灰色の“棒人間”のような、無機質な3Dモデルだ。技術的には正確でも、サポーターの目には本物らしく見えない。人間の感覚として、リアルでないものは信じにくい。

 FIFAの技術パートナーであるLenovoのAIシニアマネージャー、Valerio Rizzo(ヴァレリオ・リッツォ)博士は、サッカーファンのVARに対する根深い懐疑を認めながらこう語る。「リアルに見えなければ、現実に即していないと思わせてしまう。“視覚的なリアリズムの欠如”が問題なのだ」。

 FIFAがワールドカップでVARを正式に導入したのは、2018年のロシア大会からだ。それ以前の先行テスト期間を含めると、VARが導入されて8年以上が経過している。世界でVARに対応しているスタジアムは1500~2000あると言われており、すでに普及している技術をゼロリセットすることは現実的ではない。

 そこでLenovoとFIFAが選んだのが、「置き換え」ではなく「アップグレード」する方法だった。

「審判の視点」をそのまま生中継の映像へ

 その1つが「Referee View」だ。審判が身体に着けたボディカメラの映像を、AIがリアルタイムで補正し、揺れの少ない放送品質の映像に仕上げて配信する。

 このシステムの前身となる審判ボディカメラは、2025年の6~7月に開催された「FIFA クラブワールドカップ2025」で初めて実戦投入された。FIFAのイノベーション担当ディレクター、Johannes Holzmüller(ヨハネス・ホルツミュラー)氏は「期待を超える成功だった」と振り返る。

 審判の視点からの映像が中継に加わることで、まるでピッチに立っているかのような感覚を味わえる。さらに、フィールドで一瞬のうちに判断を下す審判の仕事が、いかに難しいのかもよく伝わる――。視聴者からはそんな声が寄せられたという。

 ただし、2025年バージョンの審判映像には課題も残った。「審判が走ったり跳んだりするたびに映像が大きく揺れ、放送映像としては使えない場面も多くあった」(ホルツミュラー氏)。そこでLenovoに、映像の揺れを低減させるシステムの開発を依頼したという。

 依頼を受けたLenovo側では、課題を2つに整理した。1つは、審判が走る/跳ぶ/急転換するたびに、映像が激しく揺れてしまう「ジッター」の問題。もう1つは、審判映像をリアルタイムに使えないという問題だ。2025年時点の技術では、録画済みのハイライトシーンの振り返りなどには使えたが、生中継映像としては使えなかった。

 LenovoのグローバルCIO、Art Hu(アーサー・フー)氏の言葉を借りれば、「サッカー観戦を面白くする要素――絶え間ないスプリントと急停止――そのものが、ライブ配信を難しくしていた」のだ。

技術的な“2つの工夫”、映像の揺れは最大70%削減

 新技術の開発は、意外なところから始まった。フー氏によると、最初の課題は、映像と視聴体験の観点から「ジッターとは何か」を客観的な指標として定義することだったという。「エンジニアなら誰でも知っている通り、何かを改善するには目的関数(objective function)が必要だ」(フー氏)。

 そのうえで立ちはだかったのが、試合の現場ならではの制約条件だ。審判が身に着けられるカメラと電源の重さには限界がある。また、審判映像を生中継に組み込むためには、遅延時間を短くしなければならない。電力、コンピューター処理能力、遅延――。すべてに制約が課せられた“限られた方程式”を説くために、LenovoとFIFAでは2つの工夫を採り入れた。

 1つは「AIモデルの使い方」だ。単一の大型モデルにすべての処理を任せるのではなく、映像をフレーム(1コマの画像)の連なりとしてとらえ、フットボールの特性に沿ってフレームごとにフィールドの状況を解析し、そのフレームの処理に最適なモデルを選んで適用する。FIFAだけが持つフットボールの知見と、Lenovoの技術を掛け合わせた、ハイブリッドなアプローチだ。

 もう1つが「エッジ処理」である。負荷の大きい処理を、クラウドではなく現場(エッジ)で完結させることで、生中継に必要な短い遅延時間を実現した。

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