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AI時代に勝敗を分けるは「電力」 2050年のテック勝者を左右する“ビットからアトムへ”の大転換

JID 2026セッションレポート──AIとデータで読み解くグローバル最新トレンドと日本の勝ち筋

連載
JID 2026 by ASCII STARTUP

提供: CROSS Business Producers株式会社

 生成AIの進展は、単なるソフトウェアの進化にとどまらず、産業構造そのものを変えつつある。2026年3月3日に開催された「JID 2026 by ASCII STARTUP」では、CROSS Business Producers株式会社が「2050年のテック勝者―いまどこと繋がるべきか、AIとデータから読み解くグローバル最新トレンド」をテーマに登壇。AIとデータをもとに、これからの競争軸と日本の立ち位置、そして今つながるべき領域について議論が行われた。

左からCROSS Business Producers株式会社 取締役 熊谷友介氏、同社代表取締役 三木言葉氏、同社データリソース部長 倉田由希子氏

「未来予測×データ」で事業をつくる──CROSS Business Producersの立ち位置

 セッション冒頭、同社取締役の熊谷友介氏は、自社の役割を「未来予測に基づき、事業開発を通じて社会に価値を送り出すこと」と説明した。

 同社は創業以来、海外の研究機関と連携しながら未来シナリオを描き、企業の事業開発を支援してきた。近年は、世界200社以上の調査会社と提携する「データリソース」をグループ化し、ファクトデータの収集・分析基盤を強化している。

 さらに、コンサルティング知見と調査データをAIで統合したプロダクト「CROSS Graph」も展開している。ソフトデータとファクトデータを組み合わせることで、「意思決定に使えるAI」を目指している。

AIは“電力問題”になる──「ビットからアトムへ」の構造転換

 データリソース部長の倉田由希子氏は、世界トップクラスのB2B市場調査会社であるMarketsandMarkets社の最新データを基に、2026年以降の産業構造の変化について解説した。そこで示されたのが、「ビットからアトムへの価値移転」という考え方だ。

 これまでのIT産業はソフトウェア(ビット)が主役だった。しかし生成AIの普及により、計算資源と電力消費が爆発的に増加。AIの進化そのものが、物理インフラ(アトム)に制約され始めているという。

 この状況は「エネルギー・インテリジェンス・パラドックス」と呼ばれる。AIが高度化するほど、電力とインフラへの依存が強まり、その確保が競争力を左右する。つまり今後は、「どんなAIを作るか」ではなく、「どれだけ計算資源と電力を確保できるか」が勝敗を分ける軸になる。

AIの高度化によりソフトウェアの価値と物質の価値が逆転する

日本の勝ち筋は「ビットとアトムのループ」

 MarketsandMarkets社は、この大転換期の中で、「日本は勝者になり得る」と分析している。鍵となるのがビットとアトムのループ、つまりソフトと物理を往復させる循環だ。

 センサーで現実世界を取得し、それをデジタルツインで再現し、ロボットや設備が自律的に動作する。そしてその結果をフィードバックしてAIを改善する。この一連の循環をどれだけ高速に回せるかが競争力になる。

 日本は自動車、ロボット、工作機械といった“物理側”に強みを持ち、それらにソフトウェアを組み込んできた歴史がある。ビットとアトムの両方を扱える国として、この領域では優位性を持つ可能性がある。

倉田氏は、MarketsandMarkets社の分析から、ビットからアトムへの価値転換における日本の勝ち筋を紹介

4つの重点フィールド──都市・工場・データ・電力

 具体的な成長領域としては、「都市」、「工場」、「データ主権」、「計算と電力の融合」という4つの分野が提示された。

 都市の分野では、交通・エネルギー・水といったインフラを統合的に最適化する「自律型都市」が現実味を帯びる。工場では、完全無人で自律稼働する工場(ダークファクトリー)が標準となり、ヒューマノイド市場も急速に拡大していく。

 また、データ主権の観点では、データをどこで処理するかが重要な競争軸となり、データを自国・自社内で処理する分散型インフラ(ソブリン・エッジ)が注目される。計算と電力の融合では、データセンターと電力供給を一体化させる動きが進み、小型原子炉などを組み合わせた構想も現実的な選択肢として議論されている。

 中でも「電力」は、AI時代のボトルネックであると同時に、最大の競争領域になると位置づけられている。

MarketsandMarkets社による「CAGR」(年平均成長率)の予測

日本の現実は「偏差値40」──強みと弱みが極端に分かれる

 続いて、代表取締役の三木言葉氏は、国際機関OECDのAIインデックスが2026年2月19日に発表した日本の国際競争力評価を紹介した。AIの総合ランキングでは、日本はトップ層に入っておらず、三木氏は「偏差値40レベル」と表現する。

 光ファイバーなどのインフラ整備やAIガバナンスの面では一定の評価を受けている一方で、致命的なのは、AI特許の自立度の低さや高度人材の不足、さらにAIによる経済波及効果の小ささだ。要するに、「使いこなして経済を動かす力」が不足している。

AI分野における日本の国際競争力スコアは45.2。研究開発、高度人材、経済波及効果の低さがボトルネックに

社会実装で勝つには「作る」より「使う」

 三木氏は、日本が取るべき方向性として、AIを「作る」ことにこだわるのではなく、「使う」ことを優先すべきだと指摘する。米国や中国と同じ土俵でモデル開発を競うのではなく、既存のAIをいち早く活用し、社会に実装していくことが重要だという。

 あわせて、AIによる電力最適化を含めたエネルギーとの統合的なエコシステムを構築すること、そしてスタートアップと大企業が連携し、「知能のインフラ」を現実社会に組み込むことの必要性も強調された。

 特に重要なのは「社会実装」であり、政策や研究の段階にとどまらず、実際に使われる形で導入されるスピードが競争力を左右する。

「単なるアプリ開発ではなく、知能のインフラを物理社会の中に早く作り上げることが大事」と語る三木氏

次に来るのは「フィジカルAI」──知性が現実世界に現れる

 最後に熊谷氏は、今後の方向性として「アバタリックフィジカルインテリジェンス」という概念を提示した。これは単なるアルゴリズムとしてのAIではなく、物理世界で行動し、自律的に判断し、人と協働する知性を指す。

 この説明の中で引き合いに出されたのが、熊谷氏自身が関わった「初音ミク」の開発経験だ。当時は人間がプログラムを組み、音声を設計して歌わせる、いわば「ツールとしてのAI」だった。しかし現在は、自ら判断し、自律的に行動し、物理世界に影響を与える存在へと進化しつつある。

 こうした変化を踏まえ、デジタル上の知性がロボットやアバターを通じて現実社会に現れ、ビジネスに直接関与する世界が見据えられている。同社が開発を進める「CROSS Graph」も、その実現に向けた取り組みの一つだ。

「フィジカルAI」や「エージェンティックAI」を超えた「アバタリックフィジカルインテリジェンス」について説明する熊谷氏

2050年の勝ち筋は「描いて終わり」ではない

 本セッションを通じて浮かび上がったのは、AI時代の競争軸が大きく変わっているという事実だ。ソフトウェア単体では勝てず、電力やインフラ、さらには物理世界そのものが主戦場となり、最終的には実装した者が勝つ構造へと移行している。

 2050年に向けて重要なのは、どの技術を持つかではなく、どの領域と接続するかである。AI、電力、インフラ、製造、都市といった領域を横断しながら、自社の立ち位置と勝ち筋を描くことが求められている。

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