メルマガはこちらから

PAGE
TOP

人と車の移動だけじゃない。「エアクル」が切り開く運転代行の新たな市場

普通免許ドライバーの“運転請負”で広がる代行サービスの可能性

連載
このスタートアップに聞きたい

 外食後など自分の車で安全に帰宅できる運転代行サービス。しかし、高齢化や夜間業務の集中によりドライバー不足が深刻化している。そこで登場したのが株式会社Alpaca.Labの開発・運営する運転代行配車プラットフォーム「エアクル」だ。沖縄県を起点に全国9エリアで展開し、2020年8月のサービスを開始から17万ダウンロード、350業者以上の登録、累計注文数40万件を達成。さらに、2024年にはドライバー提供プラットフォーム「エアクルワン」の提供を開始し、“運転請負”という新たな市場を生み出している。サービスの背景や今後の展開について、株式会社Alpaca.Lab代表取締役の棚原⽣磨氏に話を伺った。

ドライバー不足に低賃金……運転代行サービスの課題を解消

 運転代行は、2種免許を持つドライバーが依頼者の車を運転するサービスだ。ドライバーは2人1組で迎車し、1名は随伴車で追走して依頼者を送り届けた後にドライバーを回収する。警視庁によると、令和5年の運転代行業は全国に約7700社あることが判明している。また、公益社団法人全国運転代行協会によると、同年の登録車両台数は1万7000台ほどあり、1業者あたり平均2台程度しか保有していない。そのため、サービスが集中する夜間はタクシー以上につかまえにくい。業者に1件ずつ電話をかけて探すことになると、迎車まで1時間待つことも珍しくないという。

 もうひとつの問題は、タクシー運賃のような料金体系が定まっていないこと。棚原氏はこの事業を始めた理由として、「2人1組なので本来はタクシーの倍額程度でなければ採算が合わないのに、ダンピングが加速し、タクシーよりも安いケースもあります。そのしわ寄せとして、ドライバーは最低賃金で働かざるを得ず、貧困ビジネス化しているのが実情です。この状況を改善するためにこのプラットフォームを立ち上げました」と話す。

 運転代行配車プラットフォーム「エアクル」の使い方は、タクシー配車アプリとほぼ同じ。ユーザーの現在地から近くの業者を探して配車依頼をする。違いは、運転代行業者は他人の車を運転するため、業者側にも依頼者の車の情報を共有する必要があること。ユーザーは、自分の車のAT/マニュアル、左/右ハンドルといった情報を登録し、ドライバーのスキルとのマッチングをするのがこのサービスの特徴だ。

 エアクルの導入により、これまで60分かかっていた配車待ち時間が平均7分と大幅に短縮されるという。配車効率が上がることで業者の利益が上がり、ドライバーの収入も増える。さらに、同社では統一料金や安全基準など、業界ルールの策定にも取り組んでいる。

 運転代行サービスを利用する側としては、タクシーのような業界規制が整っていないことに対して、ドライバーの信頼性や料金の不透明性、安全性や保険などへの不安がある。これらがクリアになれば、多少料金が高くても納得感があり、利用しやすくなりそうだ。

 棚原氏は、「利便性を改善し、エシカルな料金設定などの整備によって運転代行業者の利益が増加し、ドライバーが増え、ユーザーも増える、という正の循環が起こり始めています。我々は沖縄から事業を始めていますが、地方はどんどんマーケットが小さくなっており、特に車やお酒の市場は縮小しています。そんな中、我々のビジネスにより、弱っていた産業が、みんなの役に立ち、利用者が増えるという好循環を生み出せたことは、私の中ではとてもうれしい成果ですね」と話す。

 とはいえ、タクシーや運転代行サービスに必要な第二種免許保持者は減少しており、効率化だけではドライバー不足の問題は解消できそうにない。そこで2024年からスタートしたのが「エアクルワン」だ。

普通免許でも運転手になれる? 今の時代だからできた「エアクルワン」

 「エアクルワン」は、普通免許を持つ人が折りたたみ式の電動バイクやキックボードなどで依頼者のもとへ行き、運転を請け負うサービスだ。一見、法律のスキマを狙っているように思えるが、経済産業省の「グレーゾーン解消制度」で正式に回答を得ている。

 配車時には、車内の空きスペースに電動モビリティを積み、目的地に着いたら取り出して、次の案件先へと移動する。予備のバッテリーも積んでおけば、長距離移動も可能だ。1人で顧客を送迎できるため、既存の運転代行に比べて利益率が高く、車両の維持費も抑えられる。スマホを使った配車アプリと電動のマイクロモビリティなどの環境が整った今だからこそ実現したサービスと言えるだろう。

「タクシー業界は運転手のなり手がおらず、この10年で高齢ドライバーを除く3割が減っています。しかし、第一種の普通免許であれば6000万人が持っています。この6000万人が人や車、物の移動に携われるシーンを作っていきたい」と棚原氏。

 棚原氏によると、同社の強みはドライバーアセットを持っていること。現在、普通免許と二種免許のドライバーが2500人ほど登録しているそうだ。なお、「エアクルワン」は一般公開はしておらず、大手の運転代行業者や飲食店などの企業にスキームを提供しており、現在、全国28社が契約している。酔客の送迎だけでなく、観光客向けのドライバー、レンタカーの車の回収や配置、介護サービス、整備工場の車両移動など、さまざまな業界から引き合いがあるそうで、複数のPoCを進めている。さらに、運転請負は人や車だけでなく、物を運ぶことも適法とのこと。2024年11月にはサカイ引越センターと資本業務提携しており、今後、物流のドライバー不足解消への貢献も期待できそうだ。

2024年11月にMIXI、サカイ引越センター、ベクトルなどから約3億円を資金調達した

ドライバーのシェアリングで複数の社会課題が解決できるかもしれない

 2025年2月25日からは運転代行配車アプリ「エアクル」の新機能として、初乗り料金が500円になる「格安ライト」プランと、7分で迎車する「すぐ来るスタンダード」プランが選べるようになった。同時にドライバーの評価制度も導入され、すぐ来るスタンダード」プランにはゴールドランクのドライバーが来てくれる。また、格安ライトプランは、電動モビリティのドライバーが来ることもあるそうだ。

 運転代行は飲酒後の最終手段といったイメージがあるが、料金体系や安全性が整備されれば、それ以外の用途にも気軽に利用できそうだ。タクシーよりもマイカーのほうが落ち着くし、片道分の料金や駐車場料金を加味すればお得感がある。運転に不安を感じるが、愛車は手放したくないという免許返納も見えてきたシニア層にも需要がありそうだ。

 また、「エアクルワン」はバイクで移動するスタイルからもUber Eatsの仕組みにかなり似ている。現状の運転代行はギグワーカーが中心らしいが、日中にも利用されるようになれば、産業としても成立する可能性がある。Uber Eatsから新たな配達が浸透したように、市場が確立されれば、さまざまな業界が抱える人材不足の解消や高齢者の移動手段の改善など多くの課題解決につながるかもしれない。

バックナンバー