スタートアップの力を社会課題の解決とより良い地域づくりに活かすには
堺市「Sakai Next Impact Catapult キックオフイベント ~日本のラスト・フロンティアへ挑む『インパクトスタートアップ』の現在~」レポート
インパクトスタートアップ3社によるパネルディスカッション
本イベントのメインパートであるパネルディスカッションには、以下のインパクトスタートアップの3氏と、モデレーターとしてUNERIの河合氏が登壇した。
株式会社AgeWellJapan 代表取締役CEO 赤木 円香氏
株式会社坂ノ途中 代表取締役 小野 邦彦氏
株式会社Compass 代表取締役 大津 愛氏
AgeWellJapanは日本を長生きしたいと思える社会にする、歳を重ねるごとにワクワクできる社会(Age-Wellな社会)にすることを目的としている。介護や家事手伝いではない、シニアの人生に伴走するAge-Well Designerと呼ばれる職業を提唱しており、日々の暮らしを豊かにし、人生まだまだこれからと思ってもらう手伝いを行っている。
坂ノ途中は環境負荷の小さい農業を拡げることをテーマに日本と東南アジアで事業を展開している。日本では経営が成り立ちにくい新規就農者の経営ハードルを下げるための取り組みを行ったり、東南アジアでは高品質・高付加価値のコーヒー生産プロセスを実現している。どちらも、持続可能な農業のためのバリューチェーンをつくってきたといえる。
Compassはワーキングプア層またはワーキングプア層に陥る可能性が高い中低所得者層に向けた就労相談・支援のオンラインプラットフォームの運営を行っている。自治体と連携し、福祉政策と経済政策をバンドルすることにより、地方の労働市場の問題の解決をめざしている。
インパクトスタートアップにおける事業の変遷
パネルディスカッションの最初に、まず各社が取り組んできた事業の変遷について話をしてもらった。(以下、敬称略)
小野:創業当初は金融工学やデータサイエンスを使ったりして新規就農者のお困りごと解決をやりたいと妄想してスタートした。仲良くなった新規就農者の方に、まずは作ったものを売ってきてくれと言われ、テスト的に販売を開始し、結局それから15年間野菜を売り続けてきた。飲食店や小売店向けの卸も行っているが、2年目にスタートした個人向けの定期宅配事業が育ち、今では一番大きな事業になっている。
海外では2012年からウガンダで環境に配慮した農業の普及活動に取り組んだ。これは非常に意義深い事業だとは思ったが、JICAなどドナーからの資金提供を前提にした事業モデルになっていた。自分としては純粋にビジネスとして成立する事業のほうが好みだと気づき、手放した。今は高品質なコーヒーにフォーカスして東南アジアで事業展開をしている。
赤木:以前はある企業で会社員をしていたが、祖母の体調不良をきっかけに、祖母に必要なサービスを作ろうと起業した。弊社は創業5年目ですが、2022年の秋まではtoC事業の売上が全体の7割を占めていた。そこでtoBやtoGもやると決めたら売り上げが去年3倍、今年2倍になり、toBとtoGの売り上げが全体の9割程度になった。
私は自分がやりたいこと、私は、祖母を思って事業を始めたので、シニアの方がAge-Wellになっていく様子を見続けていないとモチベーションが下がってしまう。だから絶対にtoC事業をやり続ける。
一方で事業の存続を考えた時に、経営者としての正しい意志決定をしなくてはいけない。自分がありたい姿をめざすバリューポイントと、ビジネスとして成長させるためのキャッシュポイントを分けて考える必要がある。
河合:今の話はインパクトスタートアップの重要なテーマの1つだと思う。toCからスタートして、それだけだと天井が見えてくるからtoBやtoG展開するが、toCとtoBで事業にフィットする人物像は全然違うこともある。そういった点で大津さんはどう考えているか。
大津:まずやりたい社会課題解決を、ビジネスとしてやるかどうかは最初に考えた方が良い。前職のNPOでの仕事に満足してはいたものの、テクノロジーにお金を投資することができないというところが不満だった。日本の人口減少を見ても様々な課題が加速しているので、そこにインパクトを出すためには急がなくてはいけないと思った。だから私はスタートアップという形をとった。
どこのポイントでマネタイズするかも重要。ワーキングプア層に対しては無料でサービスを提供する。toBでも中小企業は予算がないからそこに合わせた形で提供する。自治体はこれまでも予算を取っていたけど結果が出なかった。これを解決してマネタイズする。社会課題も変化するしチームも変化するので、マネタイズポイントを柔軟にすることにより対応していくことが肝心だと思う。