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次世代がん治療に必要な薬剤を開発する医薬品ベンチャー、ステラファーマ

~堺市を拠点に独自ポジションを築き、国内外から注目を集めるイノベーティブな企業たち~

特集
堺市・中百舌鳥の社会課題解決型イノベーション

提供: NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市

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 堺市では中百舌鳥エリアをイノベーション創出拠点と位置づけ、社会課題の解決や地域に新しい価値をもたらす活動を支援している。そこには最新の研究から新規事業を立ち上げるといった取り組みも含まれ、次世代のがん治療に必要な薬剤を研究開発する製薬ベンチャーのステラファーマ株式会社を設立当初から支援してきた。ここでは同社代表取締役社長の上原幸樹氏にインタビューを行い、事業の内容や今後の展開について話を伺った。

“やさしいがん治療法”を世界に広げたい

 次世代のがん治療法として世界で研究が進められている「ホウ素中性子捕捉療法(以下、BNCT)」は、中性子照射装置とホウ素薬剤を組み合わせた治療法で、正常な細胞にほとんど影響を与えずがん細胞や腫瘍だけを破壊することができ、1回の治療で効果が得られるという特徴から“やさしいがん治療法”ともいわれている。ステラファーマはそのBNCTに必要な薬剤を作る医薬品ベンチャーとして2007年に設立され、2020年3月に開発を続けてきたBNCT用薬剤「ステボロニン」が世界で初めて製造販売を承認されたことで注目されている。

「ステボロニンはうがい薬などにも使われるホウ素を原料にしており、点滴でがん細胞や腫瘍に取り込ませ中性子を照射することで、そこにあるがん細胞だけを狙って破壊することができるようになります。BNCTは手術で切除が難しい部位や、人に照射できる放射線の量は決まっているため再度の放射線治療ができないという患者さんでも治療が可能になるという特徴があり、ステボロニンは首から上に発生する頭頸部がんのBNCTで使用できる薬剤として3年前に世界で初めて承認され、今でも唯一の薬剤として役立てられています」

 上原氏は学生時代からBNCTに使用するホウ素薬剤の研究に携わり、ステラファーマの親会社で創業100年を超える化学総合メーカーのステラケミファ株式会社で研究開発に取り組んでいた。社内ベンチャーのような形でステラファーマが設立された際に移籍し、取締役研究開発部長、常務取締役開発本部長などを経て2020年6月に代表取締役社長に就任した。

ステラファーマ株式会社 代表取締役社長 上原 幸樹氏

「私は大学ではもともと農学部で農薬の研究をしていたのですが、その研究室でBNCT先駆者の1人である切畑光統先生がBNCTに使う薬剤を研究されていて、お話を聞いたのがきっかけで研究に関わることになりました。その時に、薬剤に必要なホウ素の同位体を分ける技術を唯一持っていたステラケミファとも接点ができ、社内でホウ素薬剤の製造に取り組むということから卒業後は研究を続ける形で入社しました。

 ところが、化学メーカーが医薬品を作るのは法規制が異なるなどなかなか難しいものがあり、そこでステラケミファの100%子会社としてステラファーマが設立されて私も移籍し、そこでしばらくは研究者として開発を続けていました」

大学との連携強化で研究密度を高め、東証マザーズにも上場

 BNCTの研究は1980年代に米国で始まったが、あまり良い結果が出ず衰退状態にあった。だが、日本では研究が発展し、大阪公立大学(当時は大阪府立大学)では特任教授の切畑光統氏が研究を行っており、上原氏も切畑氏に師事していたことが現在につながっている。

 ステラファーマは設立当初から大阪公立大学と連携を続けており、大阪の本社とは別に堺市の海側にあるステラケミファの三宝工場で研究を行っていた。そこからさらに大学との研究密度を高めるため距離的にも近い場所で研究所を探していたところ、堺市のインキュベーション施設S-Cube(さかい新事業創造センター)を紹介され、入居することになったという。

「S-Cubeは切畑先生にご紹介いただきましたが、医薬品業界にも理解があり、施設内にラボの機能があることも決め手になりました。立地も便利で大学とも距離が近くなることで一気に研究が進み、2012年11月には最初の臨床試験を開始しました」

 さらにステラファーマは研究開発業務を効率化するため、2014年に大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス内に堺市と国の支援を受けて整備された、世界初のホウ素薬剤開発に特化した研究拠点「BNCT研究センター」に研究所を移した。センター長は切畑氏が務めており、そこでも上原氏はエキスパートとして研究を続けていた。その後、BNCTの将来性を見込んで会社を上場させようという動きがあり、当時の社長だった浅野智之氏が会長として各方面との連絡役を担当し、技術全体を把握している上原氏が社長に就任することになった。

大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス内に建てられた「BNCT研究センター」

「経営の経験がない私に社長が務まるのかと思いましたが、会社が持つ技術がどういうものかをアピールするには社長がその中身を一番知っている必要がありますし、親会社のステラケミファも上場企業なのでサポートが受けられるだろうと思って引き受けました。会社を動かすのは難しいところもありますが、社内では各部門がとても協力的でたくさん助けていただき、社外からもいろいろ支援が受けながら、非常に恵まれた状況で社長業をやらせてもらっていると感じています」

 ステラファーマは2021年4月には東証グロース(当時はマザーズ)市場に上場し、現在もBNCT用のホウ素薬剤を販売できる唯一の会社として世界からその動きが注目されている。

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