スタートアップの力を社会課題の解決とより良い地域づくりに活かすには
堺市「Sakai Next Impact Catapult キックオフイベント ~日本のラスト・フロンティアへ挑む『インパクトスタートアップ』の現在~」レポート
基調講演:インパクトスタートアップへの入口~課題先進国日本の勝機~
続いて、国内におけるインパクト投資黎明期である2020年に株式会社UNERIを創業し、社会起業家のスタートアップエコシステム構築を行っている河合将樹氏による基調講演が行われた。
UNERIは「起業家のWell-Being」に向き合っている会社だ。多くの社会課題解決型スタートアップが抱えている「ファイナンスインフラが未整備であるため、特に社会起業家が自分に適した成長スタイルを選べない」という課題の解決に取り組んでいる。例えば、多様な起業家のあり方を知ってもらうための大規模イベント、資金調達の仲介、事業戦略の策定などを堺市等の自治体と連携して行っている。
インパクトスタートアップとは
一般社団法人インパクトスタートアップ協会によれば、「社会課題の解決」と「持続可能な成長」を両立し、ポジティブな影響を社会に与えるスタートアップのことをインパクトスタートアップと定義している。河合氏の基調講演の中では聴講者にわかりやすく、社会課題解決を経済成長のエンジンに転換をするようなスタートアップを「インパクトスタートアップ」としている。
「ここでいう『インパクト』とは、社会的・環境的にポジティブな影響をどのような視点で測定していくのか、という部分を指している。そこには5つの意味があるが、特に2つ目(意図的な課題解決)と4つ目(経済的価値との両立)のポイントが重要になってくる。
意図的な社会的課題解決、つまりどれだけ社会を良くしたいかという意図をもって代表が事業を作っていくということと、それを経済的な部分と両立させていくことが大事といわれている」(河合氏)
インパクトスタートアップの特徴
一般的なスタートアップは時価総額を高めて上場をめざすことをその目的、進むべき方向として捉えていることが多い。これに対して社会課題の解決には株式会社としてのスタートアップだけに限定せず、NPO法人もその担い手となっていることが少なくない。そのため誰からの、どのお金でマネタイズするかに注視する必要がある。
「自分たちが守りたい・実現したい理想の社会や、現状に対する憤りなど『起業家が持っている狂気』を生かすも殺すもファイナンス次第。そこを間違えてしまうと、これなら起業しない方が良かったと悩むようになったり、会社を畳んでしまうこともある。このことを、これから会社を作るとかファイナンスをするような方々は頭の片隅にでも入れておいてほしい」(河合氏)
「UNERIでは、広義での“社会課題解決型起業家”の志向性を分析し、独自の定義で下図のように整理している。時価総額を高くし、ユニコーン的な成長が合致するスタートアップから、寄付でマネタイズして深い社会課題に取り組むNPOまで、大きく5つに分類することができると考えている」(河合氏)
新しい投資のスタイル:インパクト投資
“インパクト投資の父”とも呼ばれるGSG Impact共同創設者兼会長のロナルド・コーエン氏は、20世紀の投資にはリスクとリターンという2つの評価軸があったのに対し、21世紀の投資にはこれに「インパクト(どれだけ社会が良くなるか)」という軸を組み合わせて投資評価を行う必要があると唱えているという。
「インパクト投資は急速に成長しており、2023年度の日本全体のインパクト投資残高は約11兆円で、昨年比197%増加している。インパクト投資の中には、元本割れしなければよいものや、一般的なVCと同等かそれ以上のIRR(内部収益率)を求めるものなど、様々な金融商品があり、ここが議論を複雑にさせている特徴の1つとなっている。起業家の方々が「インパクト投資ファンド」から資金提供を受けようと思っている場合は、そのファンドに誰が投資しているのか(LP投資家)、どれだけのリターンを出そうとしているのかを確認することが重要だ」(河合氏)