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災害時の避難ルート案内やひとり暮らしの女性向け物件検索など、大学生が日常の学びや生活から3D都市モデルの活用アイデアを創出

「Project PLATEAU ブートキャンプ for Women’s University Students 2024」レポート

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: PLATEAU/国土交通省

この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 今年で2回目となる「Project PLATEAU ブートキャンプ for Women’s University Students」が2024年8月19日~21日の3日間、開催された。4つの女子大学から47名の学生が参加し、3D都市モデルを活用したアイデアの創出に取り組んだ。

日常の学びからどんなアイデアが出るか

 昨年に続き、WUSIC(女子大学生ICT駆動ソーシャルイノベーションコンソーシアム)とPLATEAUによるアイデアソンが行われた。主催のWUSICは、ICTがベースになった社会で活躍できる女性を育成する目的で設立されたコンソーシアム。その活動の一環として、PLATEAUの3D都市モデルを活用したアイデアソンが開かれ、WUSIC加盟校である日本女子大学、大妻女子大学、津田塾大学、東京女子大学から47名の大学生が参加した。

 WUSICを代表し、日本女子大学教授の長谷川治久氏は、本イベントの趣旨を次のように述べた。

「昨年度に引き続いて2回目を開催することができました。今回は1、2年生の参加が多いようです。勇気をふりしぼって参加してくれていると思いますので、みなさんのフレッシュなアイデアを期待しています。

 また、この場でさまざまな人と議論してみたいという希望を持って申し込んでくれた人たちも多くいらっしゃいます。ぜひ、いろいろな大学でいろいろな専門を学ぶ人たちと議論していただきたいと思います。ここからはみなさんが主役です。PLATEAUについてしっかり学び、よいイベントにしましょう」(長谷川氏)

日本女子大学 理学部 数物情報科学科 教授 長谷川 治久氏

 1日目はオンラインで開催され、PLATEAUの概要やユースケース(活用事例)の紹介、「Figma」や「PLATEAU SDK」といったツール類のレクチャーを中心とする講義が行われた。講師には国土交通省の春名慧氏、アクセンチュア株式会社の土田秦平氏、株式会社cencoの岡部千幸氏、株式会社シナスタジアの鈴木智貴氏が務めた。

初日の講師を務めた4名。(上段左から)国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 係長 春名 慧氏、アクセンチュア株式会社 ビジネスコンサルティング本部 ストラテジーグループ マネージャー土田 秦平氏、
(下段左から)株式会社cenco 岡部 千幸氏、株式会社シナスタジア 開発本部 鈴木 智貴氏

 2日目からは日本女子大学目白キャンパスの会場で実施。午前中は株式会社Eukaryaの田村賢哉氏による講義「PLATEAU・GISをより知るためのワークショップ Re:Earth」が行われ、そして午後からアイデアソンが開始。参加者は13チームに分かれて、アイデアを練り、デモの準備を進めていった。テーマは「日常生活を豊かにするもの」、「防災」、「観光」、「エンタメ/SNS」。この中から関心のあるトピックを選び、3D都市モデルを活用したアプリやサービスを考えていった。

 アイデアソンのメンターには、講師も務めた株式会社Eukaryaの田村氏、TIS株式会社のKula Takahashi氏(審査員も兼任)が参加。ファシリテーターは合同会社ワタナベ技研の渡邉登氏が務めた。

2日目午前に講師を務めた株式会社Eukarya 田村 賢哉氏(左)、アイデアソンのファシリテーターを務めた合同会社ワタナベ技研 代表 渡邉 登氏(右)

 最終日の成果発表会では、各チーム5分の発表と審査員による質疑が行われた。審査員は、メンターも務めたKula氏、津田塾大学の小舘亮之氏、日本女子大学の長谷川氏、国土交通省の十川優香氏。審査の基準は「3D都市モデルの活用」、「アイデアの独創性」、「プレゼンの完成度(デザイン・技術含む)」の3点だ。

審査員を務めた4名。(上段左から)TIS株式会社 Kula Takahashi氏、津田塾大学 総合政策学部 総合政策学科 教授 小舘 亮之氏、
(下段左から)日本女子大学 理学部 数物情報科学科 教授 長谷川 治久氏、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 企画専門官 十川 優香氏

2日目午後からはアイデア出しの練習を行ったのち、チームに分かれてPLATEAUを活用したアイデアを練っていった

最優秀賞はチームオニオン 土地の高低差などの情報を活用し避難ルートを提示する「防災くん」

チームオニオン

 最優秀賞を受賞したのはオニオンチームの「防災くん」。日本国内で地震が相次ぐ昨今、不安に思う人が多い。地震が発生した場合の対策を事前に知ることで、少しでも不安を抑えることができればと、このアプリを考えたという。対象ユーザーは被災者、防災意識を高めたい人、観光客。「防災くん」の機能は次の3つだ。

・最適な避難所、避難ルートの検索、登録、共有
・避難所の情報収集
・被災状況のリアルタイム情報収集

 PLATEAUのデータが持つ土地の高低差などの情報を活用し、避難ルートを提示する。建物の倒壊ゾーンや道の混雑状況などのリアルタイム情報も活用して、最終的に最適なルート――「最短ルート」、「障がい者向けルート」、「被害状況別ルート」、「道路混雑状況に応じたルート」の4種類を出す。避難所に関しては収容人数、支援物資の詳細、建物の耐震性や高さなどの情報を取得することもできるようにしたいという。

 より多くの人たちに活用してもらうための複数言語設定(外国語だけではなく、ひらがなをメインとした「優しい日本語」もある)や、事前に自分の情報を登録しておくなどの機能も考えている。

緊急連絡先・避難場所の事前登録

最適な避難ルートの算出にPLATEAUのデータを活用

 受賞の理由は「アプリケーションが作り込まれていたところと、さまざまな人に向けた最適避難ルートの提示などが用意されているといった鋭い視点」(長谷川氏)。「ぜひ、ハッカソンなど次のステージに進んで作り続けてほしい」と長谷川氏は述べた。

優秀賞はチームキャラナッツ、夜遅い帰宅時の危険回避を支援「夜の危険から回避!歩行ナビ!」

チームキャラナッツ

 優秀賞を受賞したのは、キャラナッツチームの「夜の危険から回避!歩行ナビ!」。「夜遅い帰宅時の危険を回避したい」という日常の課題を解決するサービスだ。ターゲットは「自分たちのような女性、学生」とのこと。PLATEAUの3D都市モデルの建物施設の分類データに着目し、さらに警視庁の犯罪情報マップと掛け合わせることで危険な場所、警察署の位置など安全な場所を分析できるようなアプリを考えている。

 アプリとしては出発地あるいは目的地で検索し、ルートを表示する。その際、過去に事件があった箇所が赤丸で注意点として表示され、その場所を避けるようにルートが案内される。また、建物情報から住宅がピンク、商業施設が青、警察署・交番といった官公庁施設が黄色というように色分けし、安全な施設の場所を確認できる。

出発地あるいは目的地で検索し、ルートを表示

建物の用途別に色分けして表示

 受賞の理由は「新しさ、PLATEAUのデータとの親和性、使ってみたいと思わせるところ」(十川氏)が評価された。

審査員特別賞はチーム欲張り、ひとり暮らしの女性をターゲットにした地域情報検索アプリ「リアルック」

チーム欲張り

 審査員特別賞を受賞したチーム欲張りの「リアルック」は、家を探している人、ひとり暮らしの女性をターゲットにした地域情報検索アプリだ。コンセプトは「3D都市モデルを活用することでリアルな生活が分かる!!」。実際に物件を訪れなくとも周辺状況を知ることができるというもの。

 起動した画面で自分の住みたいエリアを選択すると、2Dマップで表示され、「詳細」ボタンをタップすると詳細表示に移る。ここで気になる物件を選択できる。そして物件ごとに時間帯に応じた日当たりの状態を示す日照状況や、3Dモデルの地図で物件周辺の実際の状況(道路状況、家から見た状況、夜間の状況)を確認できる。

住みたいエリアを選択すると2Dマップへ(Figmaによる動作イメージ)

周辺情報の表示(Re:Earth)

 受賞理由は「短い期間の中で、アイデア出しだけではなく、積極的にFigma、UnityやRe:Earthを使ってアプリのイメージを形にしようとした」(Kula氏)ところ。

オーディエンス賞はチームピュレポテチ、避難場所や危険な場所を子どもたちが楽しく学べる「ハザードラッシュ!」

チームピュレポテチ

 参加者による投票で選出されるオーディエンス賞を受賞したのは、ピュレポテチチームの「ハザードラッシュ!」。小学生向けの防災アプリだ。災害時に一番困るのは「避難経路がわからない」こと。子どもたちは自宅近辺のことを実はあまりよく知らなかったりする。そこでチームピュレポテチが提案するのは、PLATEAUの3D都市モデルを使って歩きながら自分でハザードマップを作るアプリだ。モバイルデバイスでの使用を想定し、自分でマップに色を塗りながら避難場所や危険な場所を学んでいく。小学生が飽きないよう、チームを組んで対戦できるモードも用意する。

インクを発射し建物の情報を出す。クイズのように情報の空欄部分(「□□□」)に入力すると建物全体を塗ることができる

「まさにサイバーとフィジカルの融合というところ。これを子どもたちに使ってもらいながら教育にも活用していこうというのがすばらしい」と小舘氏は述べた。

障がい者向け内見アプリ、災害ボランティア向けルート案内、街歩きアプリなど、ほかにも多様なアイデアが登場

 ほかにも9つのチームがそれぞれのアイデアを発表した。簡単に紹介していこう。

障がい者向け物件の周辺探索アプリ「ViewMe」(チームぱにっく)

 内見に行くのが難しい障がい者が自宅から物件の周辺を探索できるようにするアプリ「ViewMe」。PLATEAUの3D都市モデルを使い、日照情報なども活用する。アプリの主な機能には、物件の周辺探索(坂や階段などの地形、スーパーやコンビニ、病院などの有無の確認)、日当たり(季節による違いも含む)、周辺住民の年齢層、周辺イベント、未来予測(10年後、20年後の周辺環境を予想)などを考えているとした。

アプリの概要と画面サンプル

チームぱにっく

災害ボランティア向け被災地ルート案内アプリ(チームわたあめ)

 被災地において土地勘のない人でも動きやすくなるようルート案内を行うアプリ。ターゲットは災害ボランティア。被災地の現状を3Dマップに反映し、リアルタイムで現状の詳細情報を得ることができるようにしたいという。リアルタイムの情報は、3Dマップ上に設置するチャット欄に投稿される写真やコメントから収集する。このとき建物に関する情報は市民による情報、道路に関する情報は国土交通省や市区町村の情報を反映する。

画面のイメージ

チームわたあめ

3Dの街を歩いて運動不足を解消する街ブラアプリ「ストシティ」(チームラッテ)

 ターゲットは、ずばり「リモートワークなどで運動不足の人」。街を歩くことで運動不足を解消できる、また、住んでいる街以外にも興味が広がるということを目指した街ブラアプリだ。アプリ名「ストシティ」はストロール(ぶらつくように歩く)+シティの造語。当初スマホアプリとして考えたが、スマホで扱うには3D都市モデルのデータが重いことから、PCを併用する形に変更した。

歩いた両側のビルの色が変わる。またコインを集めてアイテムがゲットでき、PC上でオリジナルの都市をつくることができる

チームラッテ

メタバース空間だからできる体験を提供する「リアルの彼方へ」(チーム幸せフルーツ大福)

 現実世界でできないことをCGの世界で行うメタバースゲームアプリ「リアルの彼方へ」。空を飛びたい、魚みたいに海の中で泳ぎたい、行ったことのないところに行ってみたいなど実際にはできないことを、3D都市モデルの中で体験できるエンタメコンテンツ。リアルな街をつくるところまでは至らなかったが、Unityの活用にもチャレンジしたという。

Unityによる試作の過程も発表

チーム幸せフルーツ大福

目的地周辺の道の状況を提供し旅行者を支援「ぐっとりなっぷ」(チーム小豆)

 チーム小豆は観光をテーマに、目的地周辺の道の状況を提供することで旅行者を支援するアプリを提案。特定の状況の道を避けたルート検索によって、すべての人に快適な旅行を提供することを目指す。坂などの高低差、段差、階段などは現在のPLATEAUのデータを使って可能だが、じゃり道、水たまり、路面凍結といった道の状況も提供したいという。こうしたデータは追加で収集する必要があり、今後の課題とした。

道の状態として選べる選択肢

チーム小豆

3D都市モデルを使ったオープンワールドで楽しく運動「プラんポ」(チーム海鮮いちご抹茶)

 いつでもどこでも運動できる、運動不足解消アプリ。おさんぽモードとダイエットモードがあり、3D都市モデルを使ったオープンワールドで楽しく運動できる。スマホで身体の動きをセンシングし、実際の自分の動きと連動することで、「好きな場所」で散歩や運動ができることが特徴。PLATEAUのデータを活用し、勾配や坂道を使った運動負荷を取り入れることが可能。また、ビルなど高低差を生かしたパルクールメニューも用意できるとした。

プラんぽ

チーム海鮮いちご抹茶

属性をもとに自分と相手の共通点を知ってつながる「CityLink」(チームFP)

 広義的なマッチングアプリ。仲良くなるきっかけがほしいという人は多いが、いま現在の社会では人と知り合うことが難しくなっている。そうした課題を解消するアプリだ。自分の好みなどを登録し、相手との共通点を知ることでつながり、コミュニティをつくる。さらにPLATEAUのデータを使った都市空間を結びつけることで、人(コミュニティ)の属性と都市の構造や雰囲気を結びつけ、属性が導く都市探索にまで広げたいとした。

属性が導く都市探索

チームFP

外出時のトイレの場所や混雑状況を提供する「トイレマップアプリ」(チームにふぉガード)

「周辺のトイレを探せる」、「混雑状況がわかる」、「目的の施設がわかる」という、外出時の快適なトイレライフを支援するトイレ検索アプリ。たとえば花火大会やお祭りなど野外のイベントではトイレ問題は深刻だ。そんなとき、近くにあるトイレを検索できる。また、利用者からの投稿で混雑状況を収集し、リアルタイムで提供する。

アプリの動線のイメージ

チームにふぉガード

大規模ライブ会場の周辺情報を提供する「快適にGO!気分上々!」(チームJOE)

 ライブ会場利用者を対象に、会場周辺の混雑状況や付近の撮影スポットを提供するアプリ。ライブ会場の周辺にある飲食店はすぐにいっぱいになってしまう。そんなときに「アプリで簡単に待ち時間や状況がわかれば」という経験がこのアイデアのモチベーションになっている。思い出の写真が撮れる撮影スポット、あるいはプリクラやコンビニ(携帯充電機のサービスがあるなど)、日陰を通る道案内など、周辺情報も集約して表示したいとした。

会場周辺の混雑状況や付近の撮影スポットを提供

チームJOE

 成果発表会が終了した後、WUSICを代表して長谷川氏が3日間を総括した。

「3日間、お疲れさまでした。みなさん、疲れたでしょうけれどもいい顔をされているなと思います。当初は応募してみたけれど『そもそもPLATEAUって何?』というところからスタートし、技術的な部分で気後れした人もいたかもしれません。ただ、そういうテクニカルなところをなんとかクリアしようとしていたのがとても印象に残っています。そういったところが最後のプレゼンテーションにも生きていたと思います。

 PLATEAUをはじめさまざまなデータを使ってものを可視化したり、人を説得したり、あるいはそれらをいろいろなところに生かしたりしていくわけですが、単に『こういうデータがあります』と示すのではなく、そこに『他のデータを入れたらどうだろう』、『他のシステムと組み合わせて何か社会に生かせないか』などと考え、活用していく。そうした考え方、利用の仕方が求められているということも感じてもらえたと思います。今回の経験を生かして、今後、みなさんがさらに活躍してくれたらうれしいです」

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