メルマガはこちらから

PAGE
TOP

PLATEAUの3D都市モデル、その根幹を担う空間情報技術の“最前線”を聞く

効率的な計測、EBPMのための都市シミュレーション、人を動かす可視化まで〔パスコ編〕

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: パスコ

1 2

 都市デジタルツインの実現を目指し、国土交通省がさまざまなプレイヤーと連携して推進する「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度もPLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2024」において、幅広い作品を募集している。賞金総額は200万円となっている。

 本特集ではPLATEAU AWARD 2024の協賛社とともに、PLATEAUの先にどんな未来を思い描くのかを探っていく。

 PLATEAUの3D都市モデルは、航空測量会社の保有する3次元データの取得技術や分析・可視化技術に支えられている。こうした技術がさらに進化すれば、3D都市モデルの整備にかかるコストや時間が削減され、さらには幅広い活用ユースケースも生まれて、PLATEAUそのものの盛り上がりに寄与するはずだ。

 今回は、航空測量会社の株式会社パスコ(以下、パスコ)から4名の若手エンジニアに登場いただき、それぞれが携わる3次元データの取得技術、分析・可視化技術の最前線について話をうかがった。

パスコ 事業統括本部 G空間DX推進部 DX推進室の大木隼人氏、同社 事業統括本部 空間情報処理センター 空間情報二部 信越情報課の木村恵輔氏

パスコ 東日本事業部 技術センター 空間情報部 空間情報一課の山本調人氏、同社 新空間情報事業部 新空間システム部 3D技術課の田邊小春氏

幅広い計測技術の組み合わせで多様な顧客ニーズに応えるパスコ

――(アスキー 遠藤)パスコさんのWebサイトを拝見したところ、1953年に「パシフイック航空測量」として、航空写真を基に地図を作るビジネスで創業されたとありました。それから70年以上が経ち、現在では技術もビジネスも大きく進化していると思います。大木さんにうかがいますが、現在のパスコさんではどんなことをされているのでしょうか。

大木氏:おっしゃるとおり、創業当初は航空機を使って測量などを行っていました。そこから徐々にプラットフォームを拡大し、現在は航空機に加えて人工衛星、ドローン(UAV)、計測車両(MMS:モビールマッピングシステム)、さらに船舶なども活用しています。

 パスコでは、こうしたプラットフォームに最先端のセンサーやカメラを搭載して、地上だけでなく宇宙から海底まで、あらゆる場所を計測する技術を有しています。面白いところで言うと、レーダ技術を利用し、地上から電波をあててその跳ね返りを見ることで、地面を掘り返すことなく地下埋設物の状況や地下の空洞を把握する、そんな技術もあります。

 こうした計測技術で収集したデータを処理・加工して地図を作成し、作成した地図やさまざまな地理空間情報を使い分析・可視化して、自治体や民間企業向けに社会課題解決に資する業務支援を行うのがパスコのビジネスです。

――パスコさんは、Project PLATEAUがスタートした2020年度から参画されています。パスコさんが提供した測量データ、空間情報をベースに3D都市モデルを構築している自治体も多いと思いますが、全国どのくらいの自治体をカバーされているのですか。

大木氏:測量や地図作成、地理情報システム導入など、パスコが地理空間情報に関する事業で関わりのある自治体は、北海道から沖縄まで全国の約85%に及びます。PLATEAUについては、これまで50以上の自治体で3D都市モデルの整備・活用を支援させていただいた実績があります。

パスコの3D都市モデルの実績(パスコWebサイトより)

――3D都市モデルの作り方について教えてください。PLATEAUが採用するCityGMLでは、建物の「高さ」の情報を持つLOD1、屋根や壁の形の情報も持つLOD2――といった具合に、必要に応じて表現の詳細度(LOD:Level of Detail)が上がっていきます。それぞれ、データの作り方や手間は違うのでしょうか。

大木氏:違いますね。まず、最も単純なLOD1の場合は、自治体が持つ2次元の地図データ、つまり建物の平面的な形状に、航空写真などから取得した高さのデータを掛け合わせて、それぞれの建物を3次元の直方体で表現します。この処理は自動化が進んでおり、基となるデータさえ集まれば、比較的容易に作成できます。

 これがLOD2になると、自治体の2次元データにはない屋根の形状などを再現する必要がありますから、LOD1のように一律の処理ができません。そこで、航空写真から屋根の形状を一つずつ再現していきます。

 よくある屋根の形はあらかじめ図化手法をパターン化し、効率化を図っているのですが、それに当てはまらない形の場合は、人間が一つひとつ手作業で屋根をトレースします。ここは手間もコストもかかるところなので、自動化の研究を進めているところです。

――LOD2の場合は、建物の壁面にテクスチャも付け加えることができます。これはどうやって再現するのですか。

大木氏:テクスチャも、基本的には航空写真のデータから抽出できます。ただし、よりしっかりとテクスチャを再現したい場合には、現地に行って地上から外観を撮影して貼り替えることもあります。それが必要かどうかは、3D都市モデルをどう使いたいのかによって変わってきますね。

――ユースケースによっては、建物のドアや窓の形状までを含むLOD3のデータが必要になることもあると思います。LOD3はどうやって作るのですか。

大木氏:LOD1、2までは、航空写真など上空から撮影したデータを使って処理できますが、LOD3になると細かなドアや窓、さらにオーバーハングした(覆い被さるような)形状なども表現する必要があるため、航空写真だけでは作成できません。

 そこでLOD3では、地上からレーザースキャナ、あるいはMMSや「Real Dimension」などの計測車両を使って取得した3次元の点群データなども組み合わせて、3Dモデル化を行います。

――つまりLOD1、2、3と、それぞれに対応した手段が必要となるわけですね。最初にご紹介いただいた「幅広いプラットフォームへの対応」は、ここで強みとして生きてきますね。

大木氏:そうですね。パスコの強みとしてはまず、お客様のさまざまなニーズに対応できる幅広い計測技術を持つこと、そして、その計測データから3D都市モデルを正確に作成できるモデリング技術も持っていることだと思います。

より正確に、より効率的に――3D都市モデル作成の基本となる計測技術

――計測技術についてもう少し深掘りさせてください。木村さんは、3D都市モデルをはじめとする空間情報の加工処理に関するスペシャリストだそうですが、その視点からパスコさんの特徴、強みを教えていただけますか。

木村氏:正確な空間情報の基本となるのは、やはり計測技術です。大木からも紹介がありましたが、パスコでは計測したいエリアの広さに応じて、計測車両からドローン、航空機、人工衛星まで、幅広いプラットフォームを使い分けられる点を強みとしています。

 さらに、それぞれのプラットフォームにおける計測技術も日々進化しています。たとえば、航空機による計測では「CityMapper2」というハイブリッドセンサーを搭載しており、地形や建物の形状が効率的かつ詳細に計測できるようになっています。

――“ハイブリッドセンサー”とはどんなものなのでしょう。なぜ計測が効率的になるのですか。

木村氏:CityMapper2の特徴は大きく2つです。まず、従来のカメラは航空機の真下だけを撮影していたのですが、CityMapper2では真下と同時に“斜め下”方向の撮影も行います。建物を斜め方向からも見るので、形状がより正確に抽出できるうえ、テクスチャも効率的に取得できます。

CityMapper2に組み込まれたカメラ(オブリークカメラ)は、真下と同時に斜め下も撮影できる(パスコWebサイトより)

 もうひとつ、写真撮影と同時にレーザースキャナによる計測も行います。写真撮影だけだと、真っ白な建物や光を反射する建物などでは形状が把握しづらいことがあります。写真が苦手なその部分を、レーザースキャナで計測したデータで補完できるわけです。

――なるほど、同時に複数の“眼”で見ることで正確、かつ効率的になると。面白いですね。

木村氏:こうした計測段階での工夫にはじまり、パスコではお客様のユースケースに応じて、過不足なく精緻なデータを作り上げるためのさまざまな技術を持っています。さらには、お客様の目的をかなえるためにはどんな技術を使えばよいのか、最適なものをコンサルティングでご提案できる点も、パスコの強みだと思います。

1 2

バックナンバー