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ひたすら自問自答、ひたすら受験勉強。2人の学生起業家が赤裸々に語る経験談

学生起業の経験者が語るアントレプレナーシップ教育に必要なもの

連載
JAPAN INNOVATION DAY 2024

 2024年3月1日にベルサール汐留で開催された「JAPAN INNOVATION DAY 2024」。「起業を意識したターニングポイント~起業家教育の果たす役割~」のセッションでは、学生時代に起業した2人が登壇し、自身の中高生時代や学生起業の大変さを赤裸々に語った。起業家を育てるためのアントレプレナーシップ教育で必要なものはなにかを浮き彫りにする内容だった。

教育とアイデンティティクライシスから起業を選んだ

 アントレプレナーシップ教育とは、「自ら社会課題を見つけ、課題解決に向かうチャレンジ精神」や、「他者との協働により解決策を見つける探求力」など、起業家に備わる能力・態度、マインドの育成を目指す教育プログラムを指す。文部科学省も推奨しており、公教育での取り組みや在学中の起業例も増えているが、起業と教育の間にはいまだに大きなハードルがある。

 では、学生起業をした先達は、どのような経験やマインドを備え、このハードルを超えたのか。本セッションでは、現役スタートアップの経営者2人をゲストに迎え、それぞれが起業に至った経緯やターニングポイントを聞く。そして、今後のアントレプレナーシップ教育の新たな可能性を探る。

自己紹介と起業の経緯からスタート。モデレーターは角川アスキー総合研究所の杉原洋平

 一人目のゲストである石田言行氏は、大学3年のとき(2011年)に旅行コミュニティやメディアを展開する株式会社trippieceを起業。代表取締役として約10年を経て、退任後の2022年に現在の株式会社comealを創業。NFTとリアルをつなぐプロジェクトである「PORT」を中心に事業を展開している。「祖父が元々起業家で貿易業を営んでおり、出版社に勤めていた父に『ゼロからイチを目指せ』と言われていた」と振り返る。

株式会社comeal 代表取締役 石田 言行氏

 石田氏が起業を意識し始めたのは高校3年生くらい。父はサラリーマンでありながら、収入も高く、しかもバドミントンが全日本3位(ちなみに祖父は全日本チャンピオンとのこと)。こうした家庭環境において全日本が基準のバドミントンの分野で石田氏は大成できずに部活を辞めてしまい、アイデンティティクライシスに陥ったという。「僕は何をしたいんだろうとひたすら自問自答していた時期があった」と石田氏は振り返る。今から考えれば大事な時期だったが、起業という選択肢をより早く知ることができたら、スランプをより早く抜けられただろうと話す。

 とはいえ、リーダーとして人をとりまとめることに自信があり、当時ブームだったホリエモンへのあこがれもあって、起業という選択肢を意識するように。そして、大学時代に仲間と出会ったことで腰が据わったという。「とりあえずTwitter(現・X)に書いてしまっていたので、やらない選択肢がなかった」(石田氏)とのことで、インターンで仲間と切磋琢磨したことを経て、起業に進んだという。

起業を意識する環境に身を投じた

 もう1人のゲストである加藤將倫氏は、東京大学工学部の在学時にオンラインのプログラミング学習サービスを手がける株式会社Progateを起業している。「僕の場合は起業の意識は全然なく、環境が変わったというのが大きい。ベンチャー界隈や経営者が集まる場所に足を踏み入れ、流れに応じて起業した感じ」(加藤氏)と振り返る。

株式会社Progate 代表取締役 加藤 將倫氏

 加藤氏も元々は起業意識が高い学生というわけではなかったが、「iPhoneアプリをリリースしている同級生に憧れるようになった。映画『ソーシャル・ネットワーク』に出てくるエンジニアがかっこいいと思うようになった」(加藤氏)という。しかし、エンジニアを目指して情報系の学部に進んだが、全然ついて行けずに挫折してしまった。「当時、初学者向けのプログラミングコンテンツがなかったし、環境構築でさらにつまづいてしまった」という。

 加藤氏の転機になったのは、同じ悩みを持った仲間と師匠との出会いだ。「初心者の集まりのプログラミングサークルだったのですが、東大というネーミングバリューもあり、上場企業のテックリード(エンジニアチームのリーダー)や起業家とつながることができた」という。

 こうしたつながりから受託開発も任せてもらえるようになり、仲間と2カ月でWebアプリケーションを作った。「それまでやっていたバイトと違って、そのとき初めて自分だからこそ出せる価値をユーザーに届けることができた。就職してお給料をもらう生き方だけではなく、自分が創るもので生きていく選択肢もあるんだと気付き、『より道』をしてもいいなと思えた」という。

 もう1つ大きかったのは、つながった起業家に北米のスタートアップイベント「SXSW(South by Southwest)」に連れて行ってもらったこと。Facebookの初期メンバーの豪邸に泊まらせてもらい、映画『ソーシャル・ネットワーク』で見たようなスタートアップのエンジニアと交流するといった体験を得られたという。

 加藤氏は「すでにバイアウトしてさんざん儲けているはずなのに、また新しい会社を立ち上げ、このプロダクトは世界を変えるんだと、学生の僕に力説してくれた。起業家という人種って、素直にかっこいいなと思った」と語る。さまざまな人と出会い、世界が広がったことで、起業の道に踏み出したというのが自身の体験だという。

 ちなみに「環境が変わったことで起業を意識するようになった」という体験を持つ加藤氏からすると、東大に進学したことも重要な環境の変化であったという。「学生時代は起業にはあまり関心がなく受験勉強に打ち込んでいたが、がんばって入った東大で一緒に起業する仲間との出会いがあった。また、同年代の起業家も多く、彼らとの出会いが刺激となり起業の道に踏み出す後押しとなった」と振り返る。

ありとあらゆることがわからなかったけど、「遠回り」は失敗じゃない

 次に学生起業時の失敗エピソード。石田氏は、「遠回りしかしてないので、なんとも言えない。学生だから会社のことも知らないし、社会人として普通のこともわからなかった。ありとあらゆることがわからなかったので、遠回りしたけど、失敗だとは思っていない」と語る。ただ、今なら一瞬で済むことが、当時は2~3倍かかっていた。「学生だからコストも安かったので、時間がいくらでも使えた」というのも事実だという。

 学生起業で欠けていた情報として、石田氏が挙げたのは「失敗した起業事例」だ。「失敗したら路頭に迷うのかなあとシンプルに思っていたので、起業という選択肢の道筋がもう少し見えていたら、より起業に踏み出しやすいのではと思う」と語る。ビジネスに関しては、実際にやってみないとわからないことが多いが、起業の先にある不安の解消はもう少しあってもよかったのではないかと持論を披露する。

自分の胸に秘めたる「成したる思い」、面白い人たちが集まる場の提供

 セッションの最後、アントレプレナーシップ教育に提案したいこととして、石田氏は「スキルはあとからでもいいし、ビジネスノウハウもそれほど重要じゃない。でも、起業って心折れるんですよ。1年に1回は心折れるような出来事が起こるし、起業っていうほどキラキラしているわけではない。それでもやり続けられるのは、胸に秘めたる『成したる思い』があるから。ゼロからイチを生み出すには、それを自ら発掘する方が重要」とアドバイスする。

 加藤氏は「全員が起業家になる必要はないので、広くあまねく起業家教育をする必要は僕はないと思っている。どちらかというと本気度の高い人が集まる場を作った方がいい。僕は起業家が多いコミュニティに身を置けたことはすごく良かったと思っていて、そういうコミュニティがあると良いんじゃないかと思います。『あいつができるなら、オレにもできるだろう』みたいに、自分を奮起できることはあると思うので、そういう人たちがコアに集まりやすい場があると、起業したい皆さんは助かるんじゃないでしょうか」と語る。

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