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創業当初から知財を意識。誰もが活用できるグローバルなIoTプラットフォーム構築を目指して

【「第4回IP BASE AWARD」スタートアップ部門奨励賞】株式会社ソラコム 代表取締役社長 CEO 玉川 憲氏インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

 IoT向け通信プラットフォーム「SORACOM」を提供する株式会社ソラコムは、創業時からグローバルを見据えて知財戦略を構築してきた。知財取得が後手に回りがちなスタートアップにおいて同社が早期に取り組んできた理由や、リソースが限られる中でどのように体制を整えてきたのかなど、代表取締役社長CEOの玉川憲氏と同社で知財関連業務を担当する深野晃世氏に話を伺った。

株式会社ソラコム 代表取締役社長 CEO
玉川 憲(たまがわ・けん)氏
1976年大阪府生まれ。東京大学工学系大学院機械情報工学科修了。米国カーネギーメロン大学MBA(経営学修士)修了、同大学MSE(ソフトウェア工学修士)修了。日本IBM基礎研究所にてウェアラブルコンピューターの研究開発や開発プラットフォームのコンサルティング、技術営業を経て、2010年にアマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社。AWSの日本市場立ち上げを技術統括として牽引した後、株式会社ソラコムを創業。

世界170カ国以上で使えるIoT向け通信プラットフォーム

 株式会社ソラコムは、IoT向け通信プラットフォーム「SORACOM」を開発し、世界中に提供している2014年設立のスタートアップだ。英国と米国にも拠点を置き、グローバルで使える日本発のIoTプラットフォームとして展開している。

 "IoTの「つなぐ」を簡単に”をテーマに、IoTに特化したSIM「SORACOM IoT SIM」を中心に、モノからデータを取得するためのセンサキットやクラウド型カメラなどのIoTデバイス、データを可視化し活用するためのアプリケーションといったクラウド連携サービスまで幅広く提供する。

通信を中心に、デバイスからクラウド連携サービスまでIoTプラットフォームを提供

「オンラインで1枚から買えるSIM、としてスタートしました。手軽に始められて、お客様のビジネスが広がるにつれて数十枚、数百枚と拡大していけるのが特徴です。創業当初からグローバル展開に取り組んでおり、1枚のSIMで170以上の国と地域、380の通信キャリアに対応しています」と玉川氏。

 国内外で活用が広がり、通信回線数はサービス開始から7年で500万回線を突破した。

IoTを「部品」のように提供することでイノベーションを支援

 ソラコムのWebサイトには多数の導入事例が公開されている。子どもや高齢者の見守りサービス、ウェアラブルデバイスによる従業員の体調管理、河川やため池の水位監視、インフラ設備の点検、交通サービスの位置情報、害獣の捕獲通知、遠隔治療など多岐にわたる。

「例えるならIoT領域において"組み合わせ自在のブロック”を提供しているようなイメージでしょうか。新たなIoTサービスを立ち上げたい人が、必要なものをすべて自分で開発するのは大変なことです。そこで我々が通信やデバイス、アプリケーションなどを『部品』として提供することで、新しいサービスが生まれやすくなると考えています。近年は自然災害や人口減少といった社会課題の解決にIoTサービスのニーズが高まっています。こうした課題に取り組むお客様に、IoTのテクノロジーを使いやすい形で提供することで、イノベーションの後押しができるのをうれしく思っています」(玉川氏)

 スタートアップから大企業まで幅広い領域と用途で利用されているのは、顧客目線での使いやすさからだ。テクノロジーを利用するために導入のハードルを下げる工夫は、前職での経験によるものだそう。

「AWS(Amazon Web Services)のクラウド事業に携わっていたときに、お客様から『クラウドを活用すればいろんなことができるのはわかった。でも、そもそもクルマや自動販売機からクラウドにデータを送るにはどうすればいいだろう?』と言われたことがありました。私も確かにそうだと思い、だったら『スマートフォンと同じ携帯電話通信網で、データをクラウドに簡単に送れるようにできないだろうか』と考え、作ってみたのが最初です」と玉川氏。

 また、顧客から「デバイスにSIMを差すところがない」と聞くとUSBでSIMを装着する通信デバイスを提供したり、手軽にIoTを試したいという顧客に代わって各種センサー値や位置情報などを取得するデバイスを作ったりするなど、顧客のさまざまな要望を聞きながら、「こういうものがあったらもっと簡単に実現できるだろう」と開発を繰り返してきたという。

「SORACOM」では、日本はもとよりグローバルで利用できるセルラー通信のカバレッジを拡げながら、低電力消費が特徴のLPWANや、最近はWi-Fiや有線LANにも対応し、将来を見据えて複数の通信規格の混合ネットワークでのIoTシステム開発をサポートできるようにした。また、クラウド連携、セキュリティの強化、遠隔アクセス、データの収集・分析など、IoTシステム開発をサポートするアプリケーション、さらにはセンサー入りデバイスやカメラなどのデバイスまでカバーしている。これらの「部品」を顧客がまさにブロックのように自由にピックアップし、サービスやソリューションを組み上げられるのが特徴だ。

 創業当初からグローバルを意識して展開してきたというソラコムは、海外売上高比率を高めるのが目標だという。

「本当のグローバルプラットフォーマーになるには海外売上高が全体の半分以上でなければいけないと思っています。ほぼすべてのサービスが海外でも使えますし、ここ数年で業界内での知名度が高まってきました」

プラットフォームを守るため知財投資は惜しまない

「第4回IP BASE AWRAD」スタートアップ部門奨励賞の受賞理由は、エンジニア出身の創業メンバーを中心とした発明考案委員会を設置してビジネス・開発・知財部門が連携し、経営に資する知的財産権の取得を進めており、知財戦略・知財ポートフォリオ・社内体制などが、多くのICT系スタートアップの模範になりうると評価されたものだ。創業時から現在までの知財体制について伺った。

「創業メンバーである私とCOOの舩渡大地、CTOの安川健太の3人とも企業の研究開発部門出身で、論文を書くだけでなく特許を申請した経験もあり、知財の重要性は最初からしっかり認識していました。ソラコムの立ち上げ時期にはリソースに制約があり、サービスの開発・リリースを優先するか、それとも知財を優先してサービスのリリースを遅らせるかという悩みもありました。それでもやはり、確保すべき知財は確保する、という方針で創業当初から特許を出願しています」(玉川氏)

 創業当初は知財に関してもできるだけ自分たちで対応していたが、ビジネスが大きく動いていく中で、COOの舩渡氏を中心に体制を充実させていったという。

「創業時からプラットフォームを意識する中で、通信を『インフラ』として安定して提供するには、コア特許をしっかりと押さえつつ、周辺の特許も押さえていくことが大事でした。2015年の春に約7億円の調達が決まってすぐに、大手法律事務所に入ってもらいました。2017年のKDDIとのM&Aのときは、コアとなる知財をしっかり押さえていたことが高く評価されたと思います」と玉川氏は振り返る。

 2017年には舩渡氏を中心にリーガルチームを作り、さらに2021年には知財担当者として深野晃世氏が参加。現在は、自社の知的財産を商標権や特許権でどのように保護し活用していくかなどの知財戦略について社内で議論し、戦略に沿った出願を外部の事務所に委託する形をとっているという。

日・英・米3拠点のクロスボーダー体制

 現在ソラコムではCOOの舩渡氏が英国、CTOの安川氏が米国に駐在し、日本の玉川氏と3拠点体制をとっている。リーガルチームを統括する船渡氏が海外にいるため、深野氏は船渡氏とやりとりすることで日本にいながら海外の出願もクロスボーダーで担っている。

「事業拡大に応じて現地チームを立ち上げ、3拠点体制になりました。コーポレート機能は3拠点でありながらも横串でしっかりと統括できるようにしており、知財に関しては日本で一括管理しています。一方、セールス・マーケティングは地域に合わせ、より密にスピーディーにお客様に対応できる体制をとっています」(玉川氏)

 グローバルでのクロスボーダー体制があることで、深野氏は日本にいても海外の出願業務を進めやすいという。また、リーガルチーム内に知財担当がいることで、契約と知財の連携をとりやすいのもメリットだ。

 深野氏は、大手企業の知財部出身。入社当時、社内の特許に対する意識の高さに驚いたそうだ。

「経営層だけでなく、エンジニアの各担当者も『サービスインの前に特許を申請しなくては』と意識が高く、特許に関する活動は取り組みやすかったです。特許に対する意識が高かったので、さらに商標に関する意識も高めてもらうようにしたり、著作権含め知財全般の知識の理解をより深めてもらうように啓発活動をしています」と話す。

知財関連の業務を担当する深野晃世氏

 具体的な取り組みとしては、知財に関する勉強会を開催したり、知財についての社内ポータルサイトを作ったりしたほか、Slackに「知財」に関するチャンネルをつくって知財についての質問に答えるなどして、情報共有をしているそうだ。

 こうした活動から知財に対する意識がより浸透し、以前は一部のエンジニアだけが発明に関わっていたのが、知財に関わるメンバーが増えてきているとのこと。目に見える成果として、新しいサービスや技術を作るときに、何カ月前に特許や商標について相談・申請するべきかといったスケジュール感を把握できるようになってきたという。

 通信業界ならではの特許出願で気を付けていることとしては、4G、5Gといった通信規格などが変わると名称も変わることがあるため、将来的に権利範囲が狭まることがないように留意しているとのこと。商標については、社内においてブランディングを意識した議論を行い積極的に登録しているという。サービス名は「SORACOM Air」や「SORACOM Beam」などアルファベット順に名前を付けており、基本的に頭に「SORACOM」を付けるルールを定めているそうだ。

 ソラコムでは2週間に1回のサイクルでサービスや機能改善のリリースを続けており、そこには次なる特許の“種”も眠っているという。現在は深野氏がひとりで海外を含めた知財業務を担っているが、今後に向け、知財担当を増やしてチーム体制をさらに整えていきたいとしている。

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