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オープンイノベーションの実践:協業プロジェクトの成功に関わる要素とは?

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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Findフェイズ:協業パートナーの選定

 複数の候補が見つかれば、比較検討しながら最終的な協業パートナーを選定する。企業に対する近さと課題に対する技術的な適性を各要素に分けて数値を算出し、優先度を付けていった報告もあるが、手間を考えると現実的ではない。類似の協業案件が繰り返し発生するような状況でなければ、大まかな方針を作っておいてケースバイケースで定性的に判断していくだけでよいだろう。
*León, Gonzalo, Alberto Tejero, José N. Franco-Riquelme, John J. Kline, and Raquel E. Campos-Macha [2019], "Proximity Metrics for Selecting R&D Partners in International Open Innovation Processes," IEEE Access, 7, 79737-79757.

 最初の手掛かりとして、Colomboは協業プロジェクトの種類によって判断する主体を変えるべきことを主張している。企業が顧客・サプライヤー・競合他社など商業化に近いところで協業する場合は、戦略的にコントロールするため中枢で判断する。一方で初期的な段階でアカデミアと協業する場合は担当者のほうが知識を有効活用できるため、現場のマネージャーや研究者に任せるとよい。
*Colombo, Massimo G., Nicolai J. Foss, Jacob Lyngsie, and Cristina Rossi Lamastra [2021], "What drives the delegation of innovation decisions? The roles of firm innovation strategy and the nature of external knowledge," Research Policy, 50(1), 1-15.

 なお、個人的な相性も含めて、お互いに信頼関係を築けそうかという視点は重要である。特に相互にやり取りをしながら中長期に渡って取り組む協業プロジェクトでは、信頼の有無が生産性に大きく影響する。一方で特定の機能を持った量産化済みの材料を探すような場合は契約を締結するだけで協業が完了するため、一時的な信頼関係を構築する必要すらないかもしれない。

 協業プロジェクトは担当者のモチベーションが高くないと成功しない。よって協業パートナーの選定に明らかな正解がない場合にはできる限り担当者の意見を尊重したい。どうしても職位が上の者の判断が優先されがちではあるが、オープンイノベーションチームとしては担当者の判断を押しておきたいところである。それによって担当者との信頼関係を深められる可能性もある。

Getフェイズ:協業条件の交渉

 オープンイノベーションチームを協業パートナーの探索を担う部門と位置付けるなら、候補を見つけた後の業務は副次的なものとなる。Slowinskiによると、アライアンスマネージャーを置いてGetフェイズ以降を担当させているところもあるらしい。これによって知見を集約できるメリットがあるが。相当数のプロジェクトがない限りはコストに見合わないと思われる。

 一方で知財法務部が出身のメンバーが居れば、アドバイスをしたり契約交渉を代行したりするなど、積極的に関わる意味がある。実務までは行わないにしても、個人的な関係性を使ってニーズ元の担当者の意向を踏まえた調整ができる可能性も出てくる。またデジタル技術などが絡むと知的財産権の取り扱いにとりわけ専門的な知見が求められることになるが、適切な外部の専門家を見つけてくるような支援もできる。

 実際の交渉においては、協業パートナーとの合意の前に、社内・パートナー内それぞれでの組織内合意が前提となるところが難しい。パートナーに関してできることは少ないが、社内に関してはオープンイノベーションチームとしても、できる限りのことはしたいところである。

 このGetフェイズをうまく乗り切るために役立つポイントを2つ、筆者の経験を踏まえて紹介したい。もし類似の協業が多数発生するなら、従来の契約書の簡易版を準備しておくことでやり取りを短縮できる。また最初から長期の契約を締結するのではなく、フィージビリティーを行えるものから入るとよい。その場合は成果に関する取り決めなどを先送りできるし、見込み違いの協業となるリスクを低減できる。

Manageフェイズ:協業プロジェクトの実行

 Getフェイズと同じくオープンイノベーションチームの主業務からは外れるため、担当者の部署に任せることを基本にしたい。仮にプロジェクトマネジメントの専門性があったとしても、大きな工数が取られるため、よほどリソースに余裕がないと対応が難しい。一方で深く入り込めば協業プロジェクトの詳細を把握できるため、金銭的な成果につながった場合の報告時に説得力が増す可能性もある。

 なお、本フェイズはこれまでに3つの段階を越えてきて、かつ相応のリソースを消費する活動であることから、失敗すると関係者にとって大きな損失となる。お互いに努力した結果として成果につながらない場合は仕方がないが、協業パートナーのモチベーションの低下によるものは可能な限り避けたいところである。オープンイノベーションチームとしてコミュニケーション面には細心の注意を払っていきたい。

ナレッジマネジメント

 本稿ではWFGMの4つのフェイズを一通り見てきたが、最後に組織学習の観点で考えてみる。ニーズを引き出すための課題解決コンサルティングやオープンイノベーションの手法/仲介サービスの使い分けに必要な能力は、個人によってばらつきがある。オープンイノベーションが組織に根付いていない段階においては属人的に業務を回しがちであるが、持続性が担保されない。

 現時点では恐らく多くの企業で、オープンイノベーションチームの担当者がそのまま昇進していくキャリアパスが準備されていないと思われる。その場合は一時的に有能な担当者やマネージャーが出てきたとしても、成果を生み出すがゆえに昇進し、他の部門に異動してしまうことになる。結果として個人として学んできた知見が失われてしまい、オープンイノベーション活動が停滞してしまう。

 このようなリスクを低減するためには、意識して知見を組織に貯めていく工夫が必要となる。具体的には、①オープンイノベーション活動の説明資料の整備、②課題解決コンサルティングに関するノウハウの蓄積、③探索ニーズの分類と対応のパターン化、④手法や仲介業者/サービスの特徴をまとめたリストの作成、といったところだろうか。うまく設計できれば、人の入れ替わりがあっても高いレベルで業務を回し続けられるようになるだろう。

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。NEDO SSAフェロー。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

※次回は8月7日掲載予定です

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