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オープンイノベーションの実践:協業プロジェクトの成功に関わる要素とは?

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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Wantフェイズ:探索ニーズの収集

 まずは支援対象組織から協業パートナーの探索ニーズを収集する。研究開発部門であれば特定の実験技術を有するアカデミアの研究者を、製造部門であれば特定の製品を持ったサプライヤーを求める場合がある。管理部門であれば特定のビジネスプロセスを効率化するサービス会社かもしれないし、営業部門が特定地域への進出を考えている場合は当該地域の商習慣に詳しい個人を探すこともあり得る。

 探索ニーズは大きく分けて、戦略レベルのものとプロジェクトレベルのものがある。前者は企画のプロセスから、後者は個別のプロジェクトに焦点を当てたやり取りから出てくる。後者の場合は要件が細かく定まっていることが多く、それに沿って対応することになる。一方で前者の場合は自由度が高く、オープンイノベーションチームにもアイデアを求められるため、腕の見せ所である。

 よくある話であるが、支援対象組織がオープンイノベーションに慣れていない場合には、単純に探索ニーズの提出を呼び掛けてもうまくいかないことが多い。これは社外を使うという発想がないため、当然のことである。そこで担当者が業務を行ううえで持っている課題を聞き取り、オープンイノベーションチームが積極的に探索ニーズを掘り起こすコンサルティングが必要となってくる。

 特定された探索ニーズは文書の形に落とし込んでおく。文字として残すことで、オープンイノベーションチームとして管理がしやすくなり、また探索時の外部とのコミュニケーション文書の叩き台として活用できる。記載内容としては以下のようなものが挙げられる。

●探索ニーズの名称
●背景やこれまでの検討内容
●求めるシーズと要件
●開発段階
●特に期待するシーズ
●対象とならないシーズ
●協業パートナーの種類
●協業形態
●テーマの重要度
●探索の予算
●協業プロジェクトの予算
●協業プロジェクトの期間

Findフェイズ:協業パートナーの探索

 集まった探索ニーズが少数であれば、順に対応していく。多ければ優先順位をつける必要がある。オープンイノベーション活動の初期には、探索の経験を積むために簡単な案件を優先するとよい。ただしそれらは成功した場合のインパクトが小さいことから、続けていくと小間使い的な立ち位置になってしまう。そこで成功した際に周囲から評価されるかどうかという視点を取り入れていく。

 一般的な話として研究寄りのものは金銭的な貢献につながるまでの時間軸が長く、開発や製造に関するものは短い傾向にある。前者は後者と比べてシーズに求める要件が緩く、協業パートナーを見つけやすい。しかし、成果を事業部に引き渡す研究所のような内部顧客を持つケースの場合、協業プロジェクトがうまくいったとしても、その後の移管で失敗する可能性があって難しい。

 社外パートナーとの協業プロジェクトは、社内のものと比べて難易度が高い。これをうまくハンドリングするには、担当者に相応のスキルが求められる。よって表立って入れると問題になる可能性があるが、探索ニーズに優先順位をつける際には、ニーズ元の担当者の能力や性格なども含めて判断したい。また人的側面という意味では、担当者の異動の可能性も考慮しておきたい。

 優先順位をつけた後は、特定のシーズを持った協業パートナーを自ら、もしくは仲介業者を活用して探索する。その際に本連載第4回で説明したさまざまなオープンイノベーションの手法やサービスを使い分けていく。探索時には仲介業者や協業パートナーとコミュニケーションするための文書を作成することになるが、秘密情報に配慮しつつも内容が理解できてかつ魅力的に感じるものを準備しておく。

 見落とされがちなことであるが、社外より前にまずは社内に関連するシーズがないかを調べてみるとよい。しかし、実際に社内を探索するには全社横断的なデータベースがないと難しく、ない場合に作ろうとしてもオープンイノベーションチーム単体では手に負えない話でもある。取り得る手段としては、個人のネットワークを使ったり、社内での情報共有掲示板や各種ネットワークツールを活用したりするくらいだろうか。

 社外を探索する場合は、国内から始めるのが常道である。Oomsはいろいろな次元で適度に距離が近いパートナーとの協業のほうがうまくいくことを報告している。よって国内のパートナーとの協業の成功確率がより高くなるはずである。国内でも自社の近くで見つけられればそれにこしたことはないが、多くの仲介サービスでは特に地域を限定していないため、あまり気にしてもしょうがない。
*Ooms, Ward and Roel Piepenbrink [2020], "Open Innovation for Wicked Problems: Using Proximity to Overcome Barriers," California Management Review, 63(2), 1-39.

 海外を探索する際は「グローバルで広く浅く」と「特定地域で狭く深く」を組み合わせるとよい。グローバルを対象とした仲介サービスはさまざまあるが、実際に探索できる範囲はごく一部と思われる。特定の領域を深く探索したいなら、地域に根差した仲介業者をおすすめする。とはいえ、すべての地域をカバーすることは不可能であり、自社が注力する分野に適したところを見つけておくことが望ましい。

 具体例として、私がアドバイザーを務めるスイスには以下の特徴がある。(もちろんバイアスが掛かっているので、読者自身が真偽を判断してほしい)

●強みを持つ技術分野:
 健康/ライフサイエンス・ICT・金融・エネルギー/天然資源/環境・マイクロ/ナノテクノロジー・農業/食品など
●スイスで探索すべき理由:
 ・日本の事業会社の多くが注力している分野で、良質なシーズがある
 ・信頼関係を築きやすいために、協業プロジェクトの成功確率が高い
 ・国全体で仕組みを構築しており、シーズを探索し易くなっている

 なお、前述したグッドプラクティスの中に「Findプラクティス2:Findを双方向のプロセスとして扱う」があるが、これが意味するところを補足説明したい。探索時のフィードバックを受けて、探索ニーズの要件を修正することがある。例えばあまりに要件が緩すぎて多数の候補が見つかったり、逆に厳しすぎてまったく見つからなかったりする場合である。こうした際には担当者と議論しながら要件を調整していく。

コラム:近接性の6つの次元

 Oomsはヘルスケア分野のサービスイノベーションの導入事例を通して、近接性のフレームワークの有効性を示した論文を報告している。近接性の6つの次元は以下の通り。
*Ooms, Ward and Roel Piepenbrink [2020], "Open Innovation for Wicked Problems: Using Proximity to Overcome Barriers," California Management Review, 63(2), 1-39.

●地理的近接性
 物理的な距離
●制度的近接性
 国や地域のような特定の行政単位によって課せられる公式/非公式なルールや規制・文化的な側面の類似度
●社会的近接性
 知識分野・専門組織・その他のソーシャルコミュニティのネットワーク内における埋め込みの程度
●組織的近接性
 組織的な目標・組織に特有の公式/非公式なルールや規制・組織文化の類似度
●認知的近接性
 思考様式・専門用語・物事の進め方や概念の類似度
●個人的近接性
 個人の性格特性・行動パターンの類似度

 社内の場合は地理的・制度的・組織的・認知的な近さがあり、社外でも国内の場合は地理的・制度的な近さは保証されている。本フレームワークは、海外で探索する地域を選ぶ際にも活用できる。

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